18 虚空一閃
重要なのは、イメージだ。
俺の中にあふれる、歴代魔王の中でも最強を誇る強大な魔力。
それをただ解き放つのではなく、いったん収束する。
暴れ出しそうな莫大なエネルギーを、手綱をつけて操るように。
抑えこみ、一点に集める。
かつてジュダとの修業で会得し、それからも磨き続けてきた俺の術式。
俺だけの、術式。
「斬り裂き、弾け!」
俺のイメージが極限まで鮮明化した瞬間、それは出現する。
稲妻をまとった、黒紫色の剣。
その名は──、
「『収斂型・虚空の斬撃』!」
振るった一閃が、ジュダの光の檻ごと、前列の天軍兵器をまとめて数十体切り裂いた。
だが、まだまだ残存している敵はいる。
俺が放った斬撃波の範囲外に生き残っている奴らは、おそらく二百体以上。
光の檻の保持時間である一分内に、全滅させなければならない。
ならば、
「伸びろ!」
俺は刀身にありったけの魔力を込めた。
新たなイメージを、剣に付与する。
ヴ……ン!
虚空の剣が鳴動した。
黒紫の刀身が一気に伸びる。
天軍兵器を片っ端から両断し、空間そのものをも切り裂いていく。
すべてを断ち切り、破壊する刃はどこまでも伸びていく。
地平線の彼方までも──。
「ふうっ」
しばらくの後、すべての天軍兵器は真っ二つになり、沈黙していた。
「へえ、これはすごいね……!」
ジュダが口笛を吹いた。
「単なる切断魔法じゃない。広範囲爆裂系の超高火力魔法を剣の形に凝縮、そして局地的に解放──か。私が研究している術式に、少し似ているよ」
「まあ、未来のお前に教わって完成させた術式だからな」
俺はニヤリと笑った。
「あ、やっぱり」
「感謝してるよ、ジュダ」
「いや、こちらこそ感謝する。よくぞ我が魔界の外敵を打ち破ってくれた」
と、ヴェルファー。
「魔界を総べる王として、この通り礼を述べさせてもらう」
「私からも。ありがとう、フリードくん……ふあ」
言って、あくびをするジュダ。
「魔力を大量に消費したから眠くなってきたよ。私はちょっと寝てくるね」
「お、おい……?」
「大丈夫。敵の気配は去ったし」
言うなり、ジュダは去っていく。
あいかわらずマイペースな奴だ。
「まったく……」
ヴェルファーが苦笑した。
その姿が三面六臂から、通常の人型へと戻る。
戦闘モードを解除したんだろう。
「まあ、あいつのおかげで助かったのは事実だ。そして──緒戦は俺たちの勝利だな」
「ああ」
満足げなヴェルファーの言葉にうなずく俺。
だが──。
本当に、これでよかったんだろうか。
俺は、ステラが未来を予知して導いた最善の道から外れてしまった。
「やっぱりすごいな、お前は」
「あれだけの敵を一掃するなんて」
魔軍長たちがやって来る。
どうやら四人とも無事のようだ。
そのことに安堵し、そして思う。
たとえこれから先の運命で、俺に不利が生じようとも。
やはり彼らを守ることができてよかった──と。
天軍からの増援は、とりあえずないようだった。
勇者たちも、天軍兵器が全滅したのを見て、逃げ去っていった。
俺はヴェルファーに断りを入れ、ふたたび最初の持ち場に戻る。
「魔王様!」
ステラが真っ先に駆け寄ってきた。
「よかった……ご無事で」
「悪いな。お前の助言に背いてしまって」
「何を仰るのですか」
ステラは微笑んだ。
「あなたが無事でいてくれさえすれば、私はそれで──」
「ありがとう」
俺はステラを見つめる。
彼女の顔は赤く上気していた。
「なんか、いちゃらぶな雰囲気です」
オリヴィエが俺たちを等分に見ていた。
「萌えます……うふふふ」
「いちゃらぶ……? 萌え……? 俺には分からぬ……」
そして、リーガルがうなっていた。








