17 加勢
俺は飛翔魔法で戦場へと向かった。
ステラたちはその場に残し、天軍の別働隊に備えてもらった。
ほどなくして最前線に到達する。
「ヴェルファー!」
数百の天軍兵器と格闘中の魔王に呼びかけた。
「フリード──」
驚いたように振り返るヴェルファー。
「持ち場を離れて悪いが、今は加勢すべきときだと判断した」
説明する俺。
「向こうにはステラたちを残してあるから大丈夫だ。俺もここで戦う」
「君が来てくれると心強いね、魔王様」
ジュダがにっこり笑いながらやって来る。
余裕の態度ではあるが、紫色の衣装のところどころに焼け焦げや煤がついている。
さすがのジュダもこの数を相手に手こずっているようだ。
それはヴェルファーも、そして四大魔軍長も同じだろう。
戦局を長引かせる前に、一気にカタをつけるか。
「『ホーミングレイ』」
俺は目標を自動探知する魔力弾を数百単位で放った。
相手の装甲強度を調べる意味もあり、まずは小手調べ代わりの小技だ。
戦場に爆光の花が咲く。
連鎖的な爆発が、周囲を真紅に染める。
だが──、
「やはり、この程度じゃ破壊は無理か」
さすがにミスリル製の天軍兵器は魔法耐性が強い。
「もっと強力な呪文を叩きこむしかないな……」
周囲をあらためて見回す。
巨大な竜──ジードが数十の天軍兵器に囲まれているのが見えた。
スライムのナバームや女剣士アルフィナ、アンデッドのヘイゼルも物量を前に押しこまれ、防戦一方だ。
「広範囲高火力魔法は周囲を巻きこむし──できれば、一か所に集めて焼き払いたいが」
俺は唇をかみしめた。
「集めるだけなら、なんとかなるよ」
ジュダが言った。
「何?」
「一分ほど閉じこめることも、できる。その時間内で奴らを全滅させられる魔法の心当たりが?」
「ああ、一つな」
うなずく俺。
「じゃあ、私がおぜん立てをしよう」
言って、ジュダが上空へと飛び上がる。
「この呪文は長期詠唱が必要なんだ。その間、フリードくんは奴らを牽制して。ヴェルファーは適当に暴れ回って」
「わかった」
「なんだ、適当に暴れ回れって」
俺はありったけの『ホーミングレイ』を撃ち続けた。
ヴェルファーもさっきのジュダの言葉に苦笑しつつ、手近の天軍兵器を片っ端から切り裂き、吹き飛ばしていく。
『魔族よ……滅べ……』
『邪悪なる者たちよ……滅べ……』
天軍兵器から、そんな声が聞こえる。
『滅べ……』
『滅べ……』
『滅べ……!』
それも数百体から同時に。
かつて戦った『天想覇王』と同じだ。
奴らは、魔族を殲滅するという意志のみで動く。
慈悲の欠片もない、冷徹な殺戮兵器──。
「魔族だからって……滅ぼされなくてはならない謂われなんてない!」
俺は思わず叫んでいた。
かつて勇者だったときは──神の側で戦っていたときは、俺にとって魔族は敵だった。
だけど今は違う。
もう、違うんだ。
守るべき仲間であり、大切な居場所になったんだ。
だから、戦う。
俺は、戦い続ける──。
「よく持ちこたえてくれたね。おかげで呪文が完成したよ」
と、背後からジュダの声がする。
「魔族を守りたいという君の想いは本物みたいだね」
ジュダは笑っているようだ。
嬉しそうに。
「さあ、次は私がやる番だ──『ディメンションコフィン』!」
ジュダが呪文を唱えた瞬間、周囲の大気が──いや、空間そのものが鳴動した。
天軍兵器がいっせいに淡い黄白色の輝きに包まれる。
次の瞬間、奴らが俺の前方に集まって来た。
同時に光の檻のようなものが奴らをまとめて閉じこめる。
「ふうっ……」
ジュダが大きく息を吐き出した。
「数百体の座標指定と空間移動、そして封鎖──空間に作用する複合魔法は、さすがに疲れるね」
「これは──」
理屈は分からないが、とにかく俺の前にすべての天軍兵器が集まったようだ。
攻撃射線上に味方を巻きこまない位置で。
「俺のときにそれをやっていればよかったんじゃないか?」
ヴェルファーがツッコんだ。
「この魔法は私の魔力をほとんど使い果たすからね。君の攻撃魔法でも、さすがにこの数を一撃で薙ぎ払うのは無理だろう? 生き残った敵に反撃を受けてはたまらない」
と、ジュダ。
「あの光の檻の保持時間は約一分。その間に決着をつけてくれるかな、フリードくん」
微笑みながら、俺を見る。
あいかわらず飄々とした笑顔だが、その瞳は真剣だった。
一撃で、こいつらを薙ぎ払う──。
それを期待して、今の魔法を使ってくれたんだろう。
「──後は任せろ」
俺はジュダに力強くうなずき、魔力を一気に高めた。
さあ、仕上げだ。








