16 魔軍VS天軍、勇者軍4
「今のところ、助勢は必要なさそうだな……」
彼らの戦いぶりを見守りながら、俺はつぶやいた。
ヴェルファーたちはさすがの強さだ。
勇者たちをまったく寄せつけない。
いちおう魔王軍が後方に控えているのだが、彼らの出番はまったくなかった。
と、そのとき、空の一角から轟音が響く。
同時に、結界の破れ目から新たな影が現れた。
今度は人間ではない。
全長二十メートルから三十メートルはありそうな巨大な獣たちだ。
「あれは──『天想覇王』に似ている……!?」
かつて戦った、天軍最強の兵器。
『炎の王』、『水の王』、『風の王』、そしてそれらの合体形態である『光の王』にいたっては魔界を破壊するほどのエネルギーを秘めていた。
「いえ、どうやら違うようです」
と、ステラ。
あらためて見ると、雰囲気は似ているが、確かにデザインがかなり違う。
「おそらく神が作った同系統の兵器でしょう」
なら、おそらくは『天想覇王』に準ずる戦闘能力を持っているのだろう。
どうする?
これ以上は待機せず、加勢に行くか──。
俺が迷ったそのとき、
「合体魔法──『双雷破天竜鳴咆』!」
ヴェルファーとジュダが同時にメガサンダーを放ち、それらが空中で合体した雷撃波が三体のうちの九頭蛇に命中した。
きゅいぃぃぃぃぃぃっ……!
悲鳴のような声を上げ、九頭蛇が後退する。
「いくらミスリルとはいえ、これだけの高火力魔法を受けては無事じゃ済まないようだな」
ヴェルファーが得意げにうなった。
「ミスリル製兵器を相手に魔法で力押しとは──」
ステラが息を飲んでいた。
「さすがに、強いですね……」
「ああ」
ステラと俺はうなずき合う。
さらに四大魔軍長の攻撃もあり、三体の『天想機王』は次第に押しこまれていく。
と──、
「また、出てきましたよ~!」
オリヴィエが上空を指さした。
霧や雲に包まれた人型や、樹木でできた四足獣。
さっきとは違うタイプのようだ。
「新手か」
つぶやくリーガル。
しかも、今度はけた違いの数だ。
おそらく数百体はくだらないだろう、無数の神の兵器。
「こいつら……っ!」
ヴェルファーたちも応戦するが、さすがに敵の数が多すぎる。
性能の違いはあれど、『炎の王』や『水の王』、『風の王』と似たような連中を数百体単位で相手している、と考えれば、どれほどの圧力なのかは想像できる。
「ちいっ、倒しても倒してもキリがねえっ!」
「ちょっと多いね……面倒だ」
うなるヴェルファーやジュダ。
四大魔軍長もそれぞれ苦戦している。
「おのれ……なんという数だ!」
「ひるむな! 魔界は我らが守る……っ!」
「くうっ、ちょっとこれ、多すぎ……っ!」
「踏ん張れ、みんな……!」
無数の天軍兵器が放つ炎が、雷が、魔軍長たちに炸裂する。
無数の爆発が連鎖し、衝撃波が吹き荒れる。
天軍兵器たちは連携して、各々の攻撃力を倍加してくる。
一体一体の性能は、あの『光の王』には遠く及ばない。
だが、数百体集まったその圧力は、あるいは『光の王』並かもしれない。
さすがの彼らも、少しずつ押しこまれていた。
それでも魔界を守るという使命で持ちこたえている。
が、やはり『数の暴力』は圧倒的だ。
このままでは、いずれ防ぎきれなくなる……!
「──出るぞ、ステラ」
俺は決断した。
「魔王様……」
「お前の『黙示録の眼』は後方待機を推奨していた。それを信じないわけじゃない。けど……このまま放っておくわけにはいかない」
「……あなたなら、そう言うと思いました」
ステラは小さく息をついた。
「私も、見殺しにはしたくありません。ですが──」
その瞳が不安げに揺れる。
「だからこそ、だ。お前の『眼』でサポートしてくれ」
「魔王様……」
「お前の『眼』ならきっと打開できる。その手立てを見つけられる──信じて、いる」
俺は仮面越しに、彼女に微笑んだ。
「助けたいんだ、あいつらを。時代は違っても、俺たちの仲間を」
「承知いたしました」
ステラが微笑みを返してくれた。
「助けたい思いは、私も同じです」
「じゃあ、いっちゃいましょう~」
オリヴィエが元気よく叫んだ。
「怪我はあたしが治しますので~!」
「私はいつでも行けます、王よ」
リーガルが無数の骨を組み合わせたような禍々しい剣を抜く。
「いや、お前たちはここを守ってほしい。ヴェルファーたちを援護に行くのは、俺一人だ」
俺は指示を出した。
そして──戦いの第二幕が、始まった。








