15 魔軍VS天軍、勇者軍3
ヴェルファーはジュダとともに空を翔けていた。
「結界がそろそろ破られそうだね」
と、ジュダ。
前方の空には次々と亀裂が走り、その数が加速度的に増えている。
『勇者』と名乗った人間の集団が魔界に侵入するのは、時間の問題だろう。
「この期に及んで呑気だな」
「君は慌てふためく私が見たいのかい?」
ジュダが平然と言った。
「いや、それでこそお前だ」
ヴェルファーはニヤリと笑う。
ちょうどそのとき、空にひときわ大きな亀裂が走り抜けた。
同時に、無数の勇者たちが結界を通り抜ける。
ついに魔界への侵入を許したのだ。
虹色の光に包まれながら空を翔けてくる勇者軍。
「迎え撃つぞ」
「りょーかい」
ヴェルファーとジュダは同時に魔法の詠唱を始めた。
二人の呪言が、美しい旋律となって響き渡る。
そして、
「『灼天の火焔』!」
火炎系最上級呪文が、唱和した。
放たれた二つの火炎は空中で融合し、
「合体魔法──『双焔灼天弾導破』!」
赤から黒へと変色した巨大な火球が、数百人の勇者を跡形もなく消滅させた。
大爆発とともに、中空に巨大な穴が開く。
今ので空間の一部が消滅したのだ。
「し、信じられん……!」
「空間を灼くほどの火力とは……!」
背後から驚いたような声が響く。
竜にスライム、女剣士、アンデッド──。
ようやく追いついてきた四大魔軍長だった。
「お前たちにこれを見せるのは、初めてだったな」
「私とヴェルファーのとっておきさ」
ヴェルファーとジュダが笑みを浮かべた。
「なら、次は俺たちだ!」
魔軍長たちが気勢を上げる。
『焔皇竜』ジード・ガ・ゼルフィードが灼熱のブレスを吐き出し、勇者たちを吹き飛ばす。
『不死王』ヘイゼルが配下のアンデッドたちとともに、勇者たちを薙ぎ払う。
『無形戦魔』ナバームがスライム状の体で盾となり、敵の反撃を完封する。
『雷覇騎士』アルフィナがその卓越した剣技で、勇者たちを斬り伏せていく。
四大魔軍長はさすがの強さを見せつけた。
「ほう。俺たちも負けてられないな」
「だね」
三面六臂の魔王と魔界最強の魔導師はうなずき合った。
「いくぞ!」
「りょーかい」
ヴェルファーが剣や魔法を振るうたびに、勇者たちがまとめて吹き飛ぶ。
ジュダは最上級魔法を連発し、広範囲にわたって勇者たちを掃討する。
彼ら六人だけで勇者軍が全滅しそうな勢いだった。
と、
「次は、あいつか」
ヴェルファーが結界の亀裂を見据える。
そこから、新たな影が現れた。
今度は、人間ではない。
全長数十メートルの巨大な影が、全部で三つ。
「我が名は『土の王』」
全身が土砂で形成された竜が厳かに語った。
「我は『雷の王』」
黄金に輝く怪鳥が名乗る。
「同じく『氷の王』」
九つの頭を持つ蛇が全身をくねらせた。
「聖獣か? それとも兵器の類か?」
「兵器のようだよ」
ヴェルファーのつぶやきにジュダが答えた。
「見た感じだと、本体は神聖銀でできているようだね」
「ミスリル──っていうと、魔法に強い耐性を持っているんだったか」
「それに、硬度も並はずれている……なかなか手ごわそうだね」
ジュダの細身の体から、バチッ、と稲妻がほとばしる。
強敵を前にして魔力を高めているのだろう。
ヴェルファーもまた、全身の魔力を燃え上がらせた。
「問題はない。俺とお前ならば」
「そうだね」
ヴェルファーの言葉にジュダが微笑む。
「私たちが組めば、敵じゃない」
たとえ、神が相手であろうとも──。








