14 魔軍VS天軍、勇者軍2
ステラの額に第三の瞳が開く。
『千里眼』で戦況を見通しているようだ。
究極の瞳術ともいえる『黙示録の眼』を使えば、もっと詳細に探知できるが、あれは術者の消耗が激しい。
いざというときのために『黙示録の眼』はまだ取って置き、まずは『千里眼』で様子見ということだろう。
「勇者軍と魔軍の戦力比から見て、この戦いで敗北することはないでしょう。こちらにはヴェルファー様やジュダ、四大魔軍長もいますので」
と、ステラ。
「やはり、彼我の戦力差は圧倒的か」
つぶやいたのはリーガルだ。
「時代が違えど、勇者どもなど恐れるに足らん」
「だが、いずれはもっと強大な天軍が攻めてくる」
ステラがリーガルに告げ、俺に向き直る。
「伝承によれば、以前に戦った『天想覇王』も、この時代の戦いで猛威を振るったとのこと……いずれ現れるでしょう。他にも私たちの時代には伝わっていない天軍の戦力があるかもしれません」
「この先、まだまだ戦況は動くということだな」
「はい」
俺の言葉にステラがうなずく。
『天想覇王』は数か月前に戦った神造兵器だ。
その攻撃力はすさまじいの一言だった。
最強攻撃形態である『光の王』になれば、単機で魔界を滅ぼしかねないほどの力を秘めている。
「緒戦は勇者主体の攻勢で、天軍の主戦力は温存でしょう。ですから今回はサポートに徹し、ヴェルファー様たちの戦闘能力を見極めるべきかと。今後に備えて──」
「見極める……か」
ステラの言葉にうなる俺。
「来たるべき決戦の際に、味方の能力を正確に把握しておくことは重要です。『始まりの魔王』ヴェルファー様──そのお力は伝説となっていますが、詳細は伝わっていませんので」
「正直、もどかしいな」
俺が出れば、もっと楽に勝てそうなんだが。
「実は──」
ステラが口ごもった。
「どうした?」
「……申し訳ありません」
いきなり俺の足元に跪くステラ。
深々と頭を下げ、
「魔王様に無断で、『黙示録の眼』を使い、今回の戦いの未来を見通してみました」
「えっ」
「使用を禁じられていたにもかかわらず……私の独断です。処分はいかようにも……」
「いや、その辺りの判断は柔軟にしてもらって構わない」
とはいえ、ステラが俺の命に反するとは珍しい。
もちろん彼女なりに考えがあってのことだと思うし、俺の利益になると思ってしてくれたんだろう。
「内容を教えてくれ」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
ステラはもう一度頭を下げた。
「内容ですが、その……断片的なイメージばかりが浮かんで、はっきりと見通せませんでした」
と、申し訳なさそうに語るステラ。
「見通せない……?」
「あまりにも未来が不確定かつ流動的すぎて、『黙示録の眼』をもってしても、明確な映像として表示できない──といったところではないでしょうか」
ステラが説明する。
「ですが、初戦から魔王様が出られるよりも、まずは後方待機を選んだほうが、未来のイメージは明るいようでした」
「明るい?」
「希望がある、ということだと思います。あいまいなイメージなのですが」
と、ステラ。
「なら、やはり初戦は、ここで戦況を見守ったほうがよさそうだな」
つぶやき、俺は大きく息を吐き出す。
歯がゆい気持ちもあるが、ここはステラの『眼』を信じよう。
それに、彼女が言ったとおり、ヴェルファーもジュダも魔界史上に残る猛者たちだ。
さらに歴代魔王に匹敵する強さの四代魔軍長もいる。
天軍や勇者軍がいくら強くても、そうそう引けは取らないだろう。
そして、俺たちが後方から見守る中で──。
ヴェルファー率いる魔軍と、天軍や勇者軍との戦いが始まった。
※
ヴェルファーはジュダとともにたたずんでいた。
見上げた空に、無数の亀裂が走る。
結界の外から勇者たちが次々と攻撃を放っているのだ。
ヴェルファーの強大な魔力をジュダの魔導技術で練り上げ、作り上げた魔界全土を覆う結界──。
それが今、破られようとしていた。
「たとえ、どれほど敵が強くても、多くても──魔界は俺が守る!」
ヴェルファーは咆哮した。
同時に、その全身が黒い稲妻を発する。
禍々しい雷光に包まれ、始まりの魔王の姿が変容した。
顔が三つに、腕が六本に。
三面六臂と化したヴェルファーが空へ飛び上がる。
「まったく……王自らが単騎先行とはね」
高速飛翔魔法でそれについていくジュダ。
他の魔族は、二人の速度にとても追いつけないようだ。
「無茶だと思うか?」
「いや、全然」
「なら、いつも通りにいくぞ。俺とお前で蹴散らす」
「りょーかい」
二人の会話は戦場とは思えないほど穏やかで、楽しげだ。
友同士の語らい、そのままだった。








