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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第11章 神話の戦い

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13 魔軍VS天軍、勇者軍1

 上空に無数の影が見える。

 虹色の輝きに包まれて降下してくる、数百単位の人影だ。


「天軍か……?」

「いや、魔力波形(パターン)が違う。どうやら人間のようだね」


 ヴェルファーのつぶやきにジュダが答えた。

 人間──ってことは、あれはこの時代の勇者たち、か?


「あの輝きは浮遊効果があるみたいだ。空中を移動して、こっちに向かってくるつもりだね」

「人間が、俺たち魔族に戦いを挑みに来たのか」


 ヴェルファーがうなる。


「舐められたもんだぜ、俺たちも」

「うーん、ちょっと普通の人間とは違う雰囲気だね。とりあえず、結界の出力を最大にしてみようか」


 ぱちん、と指を鳴らすジュダ。

 同時に、空一面に薄紫色の光幕が広がった。


 ばちぃぃっ!


 激しい火花を散らし、人間たちの動きが止まった。


「くっ、これ以上降下できん──」


 戸惑ったような彼らの声。


「さすがに魔界の結界は突破できんか」


 ヴェルファーがつぶやく。


「……どうかな」


 対するジュダは、わずかに眉を寄せた。


 目をこらすと、結界がわずかに揺らいでいるのが分かった。

 人間たちのエネルギーが、結界を侵食し始めている──?


「魔族め……!」


 彼らはヴェルファーたちを見下ろし、憎々しげにつぶやいた。


「ひるむな。我ら『勇者』には神より授かった武具がある!」

「そうだ、起動せよ──奇蹟兵装!」

「起動せよ!」


 人間たちが叫ぶ。


 同時に、彼らの体が黒い衣に覆われた。

 手にした武器も、同じく黒。


「あれは──」


 見覚えがある。

 そう、第二次勇者侵攻戦でルドミラたちが使った黒い奇蹟兵装や法衣だ。


 やはり彼らは勇者のようだ。


「おおおおおおおおおおおおっ!」


 雄叫びが唱和した。


「『天想烈壊聖燐弾(ヘブンズストリーム)』!」


 彼らの手にした黒い奇蹟兵装が、いっせいにエネルギー弾を放つ。


 それらは空中で融合し、より巨大な光の矢と化して結界に叩きつけられた。


 ごおおおおおおおうううううんんっ!


 大音響と爆光がまき散らされた。


「……へえ」


 ジュダがわずかに表情を引き締める。


 空中に浮かぶ、無数の亀裂。

 勇者たちの集中砲火が、結界にダメージを与えたようだ。


「私とヴェルファーが共同で作った結界も、長くはもたないようだね」


 ジュダが肩をすくめた。

 この期に及んでも飄々とした態度は崩さない。


「なかなか骨のある連中らしいな。部下に欲しいくらいだぜ」


 ヴェルファーもそんな豪快な感想をもらす。

 まあ、パニックに陥られるよりもずっといい。


 とはいえ、安心していられる状況ではない。


 戦うか、静観か。


 この時代でなんらかの行動を起こせば、未来を改変してしまい、最悪の場合は俺たちの存在自体が消えてしまう──。

 そんな可能性を警戒していたが、さっきのジュダの話だと、その心配はいらなさそうだ。


 未来とは無数に存在する可能性の集合体。

 俺がここで行動を起こしたところで、新たな未来が生まれるだけ。


 俺たちがやって来た時代には影響しない。


 その、はずだ。


「……俺も戦いに協力する」


 俺は腹をくくった。


「ほう? そいつは心強いな」

「実戦での君を見られるのは興味深いね」


 ヴェルファーがうなり、ジュダは楽しげに微笑む。


「ステラたちを呼んでくる。それまで持ちこたえてくれ」


 言うなり、俺は城の中に駆け戻った。




 俺はステラ、リーガル、オリヴィエを集め、元の場所に戻ってきた。

 先ほどのヴェルファーたちとの会話内容は、ステラたちにも概要を伝えてある。


「まずは俺たちが出る。お前はいざというときのために、後方で備えてくれ」


 と、ヴェルファー。


 せっかく集まったが、最初は後方待機ということになった。

 まあ、ここはあくまでも彼らの時代だ。


 まずは彼ら自身に任せ、俺たちは機を伺おう──。


 ほどなくして戦いが始まった。


 派手な爆音が鳴り響き、無数の閃光が瞬く。

 自分で戦うよりも、他者の戦いを見守る方がよっぽど緊張した。


 ヴェルファーたちは大丈夫だろうか?

 彼らが強いことは承知しているが、相手は天軍と勇者軍だ。


 それに、かつてジュダの睡眠装置の中で見た夢──この時代の、神と魔の戦い──を思い返すと、嫌な予感しかしない。


「なあ、ステラ。歴史通りなら魔軍は負けるのか?」

「……はい」


 俺の問いに、ステラは悲しげな表情でうなずいた。


「天軍相手に魔王ヴェルファー様は奮戦するも、力及ばずに戦死。多くの魔族も討たれ、さらに神の力によって魔族全体がその力を大きく弱めます」

「弱体化の呪縛だ。それは今も魔族を縛っている」


 リーガルが半ば独り言のように続ける。


「歴史通りなら、みなさんが殺されちゃうんですか?」


 悲しげな顔をしたのはオリヴィエだ。

 狐耳と尾をしなだれさせている。


「あたし、できるなら助けたいです……治癒魔術ならいくらでもかけますから」

「ああ、俺だって守りたい気持ちは同じだ」


 だが、敵が後方にも軍を配置している可能性がある。


 ヴェルファーは万が一の備えとしてだけでなく、別働隊への防備も頼むつもりで俺たちを後方待機させたんだろう。


「まずは戦況を見守る。危険な雰囲気なら、早めに助けに行く」

「では、私が『眼』で戦場全体を見通します」


 ステラが進み出た。


「頼む。何か変化があったらすぐに知らせてくれ」

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