13 魔軍VS天軍、勇者軍1
上空に無数の影が見える。
虹色の輝きに包まれて降下してくる、数百単位の人影だ。
「天軍か……?」
「いや、魔力波形が違う。どうやら人間のようだね」
ヴェルファーのつぶやきにジュダが答えた。
人間──ってことは、あれはこの時代の勇者たち、か?
「あの輝きは浮遊効果があるみたいだ。空中を移動して、こっちに向かってくるつもりだね」
「人間が、俺たち魔族に戦いを挑みに来たのか」
ヴェルファーがうなる。
「舐められたもんだぜ、俺たちも」
「うーん、ちょっと普通の人間とは違う雰囲気だね。とりあえず、結界の出力を最大にしてみようか」
ぱちん、と指を鳴らすジュダ。
同時に、空一面に薄紫色の光幕が広がった。
ばちぃぃっ!
激しい火花を散らし、人間たちの動きが止まった。
「くっ、これ以上降下できん──」
戸惑ったような彼らの声。
「さすがに魔界の結界は突破できんか」
ヴェルファーがつぶやく。
「……どうかな」
対するジュダは、わずかに眉を寄せた。
目をこらすと、結界がわずかに揺らいでいるのが分かった。
人間たちのエネルギーが、結界を侵食し始めている──?
「魔族め……!」
彼らはヴェルファーたちを見下ろし、憎々しげにつぶやいた。
「ひるむな。我ら『勇者』には神より授かった武具がある!」
「そうだ、起動せよ──奇蹟兵装!」
「起動せよ!」
人間たちが叫ぶ。
同時に、彼らの体が黒い衣に覆われた。
手にした武器も、同じく黒。
「あれは──」
見覚えがある。
そう、第二次勇者侵攻戦でルドミラたちが使った黒い奇蹟兵装や法衣だ。
やはり彼らは勇者のようだ。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
雄叫びが唱和した。
「『天想烈壊聖燐弾』!」
彼らの手にした黒い奇蹟兵装が、いっせいにエネルギー弾を放つ。
それらは空中で融合し、より巨大な光の矢と化して結界に叩きつけられた。
ごおおおおおおおうううううんんっ!
大音響と爆光がまき散らされた。
「……へえ」
ジュダがわずかに表情を引き締める。
空中に浮かぶ、無数の亀裂。
勇者たちの集中砲火が、結界にダメージを与えたようだ。
「私とヴェルファーが共同で作った結界も、長くはもたないようだね」
ジュダが肩をすくめた。
この期に及んでも飄々とした態度は崩さない。
「なかなか骨のある連中らしいな。部下に欲しいくらいだぜ」
ヴェルファーもそんな豪快な感想をもらす。
まあ、パニックに陥られるよりもずっといい。
とはいえ、安心していられる状況ではない。
戦うか、静観か。
この時代でなんらかの行動を起こせば、未来を改変してしまい、最悪の場合は俺たちの存在自体が消えてしまう──。
そんな可能性を警戒していたが、さっきのジュダの話だと、その心配はいらなさそうだ。
未来とは無数に存在する可能性の集合体。
俺がここで行動を起こしたところで、新たな未来が生まれるだけ。
俺たちがやって来た時代には影響しない。
その、はずだ。
「……俺も戦いに協力する」
俺は腹をくくった。
「ほう? そいつは心強いな」
「実戦での君を見られるのは興味深いね」
ヴェルファーがうなり、ジュダは楽しげに微笑む。
「ステラたちを呼んでくる。それまで持ちこたえてくれ」
言うなり、俺は城の中に駆け戻った。
俺はステラ、リーガル、オリヴィエを集め、元の場所に戻ってきた。
先ほどのヴェルファーたちとの会話内容は、ステラたちにも概要を伝えてある。
「まずは俺たちが出る。お前はいざというときのために、後方で備えてくれ」
と、ヴェルファー。
せっかく集まったが、最初は後方待機ということになった。
まあ、ここはあくまでも彼らの時代だ。
まずは彼ら自身に任せ、俺たちは機を伺おう──。
ほどなくして戦いが始まった。
派手な爆音が鳴り響き、無数の閃光が瞬く。
自分で戦うよりも、他者の戦いを見守る方がよっぽど緊張した。
ヴェルファーたちは大丈夫だろうか?
彼らが強いことは承知しているが、相手は天軍と勇者軍だ。
それに、かつてジュダの睡眠装置の中で見た夢──この時代の、神と魔の戦い──を思い返すと、嫌な予感しかしない。
「なあ、ステラ。歴史通りなら魔軍は負けるのか?」
「……はい」
俺の問いに、ステラは悲しげな表情でうなずいた。
「天軍相手に魔王ヴェルファー様は奮戦するも、力及ばずに戦死。多くの魔族も討たれ、さらに神の力によって魔族全体がその力を大きく弱めます」
「弱体化の呪縛だ。それは今も魔族を縛っている」
リーガルが半ば独り言のように続ける。
「歴史通りなら、みなさんが殺されちゃうんですか?」
悲しげな顔をしたのはオリヴィエだ。
狐耳と尾をしなだれさせている。
「あたし、できるなら助けたいです……治癒魔術ならいくらでもかけますから」
「ああ、俺だって守りたい気持ちは同じだ」
だが、敵が後方にも軍を配置している可能性がある。
ヴェルファーは万が一の備えとしてだけでなく、別働隊への防備も頼むつもりで俺たちを後方待機させたんだろう。
「まずは戦況を見守る。危険な雰囲気なら、早めに助けに行く」
「では、私が『眼』で戦場全体を見通します」
ステラが進み出た。
「頼む。何か変化があったらすぐに知らせてくれ」








