11 二人の魔王2
お前たちは未来から来たのか──?
ヴェルファーの質問に、俺は沈黙した。
どう答えるべきだろうか。
「ジュダが解析したんだ。お前たちの魔力波長は、この時代のものではあり得ない、と」
と、ヴェルファー。
「魔力の波長……?」
「私たちはみんな、因果律というものに縛られている。世界を規定する絶対のルールだよ」
ジュダが説明する。
因果律?
それがさっきの問いかけと、どうつながるんだ?
「魔力の中にも因果律による規定が含まれていてね。細かい説明は省くけど、要は個人の魔力を解析すると、その者が由来する時代なんかも分かるんだよ。君の魔力を分析すると、今とは異なる時代の因果律規定が見えたわけだ」
と、ジュダ。
正直、理屈はよく分からない。
ただ、要はこういうことだろう。
俺やステラたちの魔力を分析したことで、俺たちが未来からやって来たことを解析した──と。
「別に咎めだてとかじゃないんだ。そこは勘違いしないでくれ」
ヴェルファーが言った。
「──お前たちの見立て通りだ。俺やステラ、オリヴィエ、リーガルは未来の魔界から来た」
考えた末、隠さずに真実を告げることにした。
「今まで黙っていてすまない」
「いや、謝らないでくれ。お前たちがどこから来ようと、俺はお前たちが気に入って逗留してもらっている」
ヴェルファーは手を振って笑った。
普段と変わらない豪快な笑みだ。
「未来の魔界のことは、聞かないことにしよう。先のことが分かってもつまらんしな」
「そもそも聞いたところで、その通りになるとは限らないからね」
ジュダが言った。
「未来とは無数の可能性。君たちがやって来た未来と、私たちが過ごす時間の行く末がつながるとは限らない」
「どういう意味だ」
「簡単に言えば、枝分かれするということさ」
と、ジュダ。
「枝分かれ……」
俺はその言葉を繰り返した。
「つまり、何かのきっかけにとって未来が二つに分岐する──ということか?」
「うん、その繰り返しによって、未来世界というのはおそらく無限に存在している。要は──可能性の数だけ未来がある、ということさ」
ジュダが説明する。
「これは、私が因果律の解析によって得た情報だよ」
「無数の未来……か」
じゃあ、俺たちがここでどう行動しようと、俺たちがやって来た未来は変わらない、ということか……。
「俺には小難しい話はよく分からん。そういったことはジュダの領域だな」
苦笑するヴェルファー。
「ここから別の話をしようか」
ヴェルファーは未来関連の話を打ち切るように、ぱん、と手を鳴らした。
「魔界には太陽がない。月はあるが、世界を明るく照らすようなものじゃない」
言って、『始まりの魔王』は俺を見つめた。
「フリード、お前が来た時代はどうなんだ? やっぱり魔界は暗黒の世界なのか?」
「……ああ」
「人間は、私たち魔族を『悪しき者』として一方的に殺そうとしている。それは未来でも変わらないのかな?」
たずねるジュダ。
「人間にとって魔族は──滅ぼすべき存在なのかな? ぜひ君の口から聞きたいね。元人間だった君の口から」
「っ……!」
俺は思わず息を飲んだ。
「あ、心配しないで。このことはヴェルファーにしか言ってないから。無用な混乱や対立を生むのは面倒だし、ね」
あっけらかんと手を振るジュダ。
こいつ、どこまで見通しているんだ。
俺たちが未来から来たことだけじゃなく、俺が元人間だったことまで。
おそるべき洞察力と感知力。
やはり時代は違えど、ジュダはジュダだ。
「ぜひ聞きたいよ。元人間かつ現魔族の君の口からの意見は、とても興味深いからね」
ジュダが微笑んだ。
「人と魔──両方の生を過ごす君が、どう感じているのかを知りたい」
「ふむ。そいつは俺も興味があるな」
ヴェルファーが俺を見つめる。
「俺は──」
魔族のことをどう思っているんだろう。
俺自身が魔王に生まれ変わってから、一度ならず自問したことだ。
あらためて自身に問いかける。
人間だったころは、魔族を滅ぼそうと戦っていた。
魔を討つことで、世界は平和になると信じていた。
人々の幸せを守ることができると信じていた。
討つべき対象である魔族もまた、幸せを希求している──などと想像もしていなかった。
だが魔王になり、魔族を敵ではなく臣下として、そして仲間として接するうちに、俺の考えは大きく変わった。
感じ方も、変わった。
「俺は、魔界を平和に暮らせる場所にしたい」
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