8 神の試練・さらなる先へ2
「まず、あなたたちが身に着けた力について、あらためて整理しましょう」
ルージュが言った。
「奇蹟兵装を高出力型に変形させる『混沌形態』。高めた神気によって生み出す局所結界『黒の法衣』。そして瞬間的かつ爆発的に神気を高める技『神気烈破導』。全部でこの三つです」
「それによって、君たちは他の勇者を圧倒する能力を備えることになった。魔軍長すら軽く凌ぐほどの力をね」
ノワールが続ける。
「かつて──神話の時代、勇者たちは誰もがその力を持っていました。現魔王フリードを除けば、歴代最強にして原初の魔王ヴェルファーと戦うために」
「その後、神の力で魔族は弱体化したけれど、神もまた魔王との戦いで消耗したんだ。その余波で勇者もまた弱体化している」
ふたたびルージュとノワールが交互に告げた。
「あたしたちも、弱くなっている……?」
つぶやくルドミラ。
「『奇蹟兵装』は神の力を具現化する武具。したがって神の力が弱まれば、その出力も弱まります」
「逆に言えば、神の力が高まれば、『奇蹟兵装』もより強大な力を発揮する、ということだね」
ルージュとノワールが交互に説明する。
「神は、かつての力を取り戻しつつあります」
「ゆえに、君たちは──その力を具現化できるだけの精神力を身に着けなければならない」
「それができれば、今よりもさらに上の力を得られるでしょう」
「あるいは魔王すら凌ぐほどの力を」
「それが、今回の修業ということですか?」
ルドミラの問いに、二人の使徒はうなずいた。
「奇蹟兵装を操るのは、所持者の精神力──心、そのもの。今回の修業では、あなたたちはそれぞれが自身の根源と向かい合うのです」
言ってルージュは、ルドミラたちを見つめた。
「ただし、乗り越えられなければ──あなた方の精神は破壊され、二度と目覚めることはできないでしょう」
「二度と……」
ごくりと息を飲むルドミラ。
「それでも、やりますか」
「当然ですわ」
まっさきに進み出たのは、フィオーレだ。
普段は穏やかで、上品な笑みを絶やさない美貌に──今はすさまじい闘志が満ちていた。
そして、復讐心が。
「愛する弟の仇を討つために──この心も、命も惜しくありません」
「当然だ」
シオンも進み出た。
彼の表情もまた、闘志に満ちている。
「剣聖ザイラスから連なるメルティラート家の誇りを示すために」
「あたしも」
ルドミラが凛とした口調で宣言した。
魔族との戦いに闘志を燃やしているのは、彼女も同じだった。
連綿と続く人類と魔族の戦いに終止符を打つために。
この世界を、人々を、魔族の脅威から守るために。
魔族に大切な者たちを奪われた自分のような人間を、もう二度と出さないために──。
「すべてに、決着をつけるために。その力を、望みます!」
「お三方とも決意のほどは分かりました。では、さっそく──」
ルージュが右手を突き出す。
そこからあふれ出した薄桃色の光が、粉雪のように舞いながらルドミラたちの体にまとわりつく。
視界からいっさいの色が、景色が──消えた。
「これは……!?」
戸惑うルドミラ。
意識が、すうっ、と浮遊していくような高揚感。
その後、今度は意識がどこまでも沈んでいくような落下の感覚。
「あたし……は……」
上下動する意識の中、ルドミラは思い出していく。
それは自分自身の心の根源。
勇者としての、彼女の始まり──。
「あたしが……勇者になったのは」
そう、あれはルドミラがまだ幼い少女だったころ。
炎に包まれた村。
魔族に殺されていく近しい人たち。
忌まわしい惨劇の記憶が、今鮮やかによみがえる──。








