6 合流
ステラの案内で、俺たちは森の中に降り立った。
そこで再会したのが、魔軍長の一人である狐娘──邪神官オリヴィエだった。
以前、俺たち以外にこの時代に来ている魔族がいるかどうかを、ステラに探知してもらった。
そのときは『アンデッドと獣人系の魔族の反応がある』ということだった。
獣人系というのは、てっきりゼガートのことだと警戒していたのだが、どうやらオリヴィエだったようだ。
「お姉さま~!」
ぴょこぴょこと狐耳や尾を揺らしながら、そのオリヴィエが駆け寄ってくる。
「会いたかったですっ」
そのままステラに抱きついた。
「お、おい、オリヴィエ」
「ううう……一人で寂しかったです~」
戸惑うステラをよそに、彼女の胸の中で泣き出すオリヴィエ。
相当に心細い思いをしていたんだろう。
「まったく……」
ため息をつきつつも、ステラはオリヴィエの頭をよしよしするように撫でていた。
「えへへ、お姉さま優しい」
そうやって彼女が落ち着きを取り戻し、
「あ、魔王様もご無事で何よりです」
オリヴィエが俺に向かって一礼する。
「まずは魔王様にお声掛けするべきだろう。私に駆け寄る前に」
ステラがジト目でオリヴィエをにらむ。
「だって……ふふ、言わせないでください、お姉さま」
なぜか妙なしなを作り、オリヴィエが顔を赤らめる。
「……何が言いたい」
「お姉さまに抱きしめてもらえて、オリヴィエ幸せです」
うっとりとつぶやくオリヴィエ。
「お胸の弾力と柔らかさも気持ちよかったです」
「……まったく」
ステラはますますジト目になり、
「とにかく、臣下としての礼儀はわきまえるんだぞ、オリヴィエ」
「はい、お姉さまっ」
言ってオリヴィエは、あらためて俺に一礼した。
「魔王様、今ほどは失礼いたしました」
「いや、いいんだ。それよりも……お前以外に、こっちの世界に来た者を知っているか?」
「気が付いたときは、あたし一人だけでした」
と、オリヴィエ。
「他にも来ている方がいるのですか?」
「私が探知したのは獣人系とアンデッドが一人ずつ。獣人系はお前だったから、残るはおそらくリーガルだろう」
ステラがオリヴィエに説明した。
「私の探知漏れがあれば、他にもいるかもしれないが──」
「とにかく、そのアンデッドを探してみよう」
俺は二人に言った。
それがリーガルなのか、あるいは別の魔族なのか──。
その答えは、数日後に明らかになった。
「……王よ」
魔王城の近くで、俺たちの元に現れたのは、古めかしい甲冑をまとった髑髏の剣士。
予想通り、リーガルである。
「ご無事で何よりです~!」
と、オリヴィエ。
「待て、オリヴィエ。奴は先の動乱でゼガート側についたんだぞ」
ステラが彼女を制する。
「あ、そうでした……」
「ゼガートとの最終決戦では魔王様の側についたとはいえ、その処遇は未定だ。死罪だってあり得る」
「し、死罪……」
オリヴィエが青ざめた顔で言った。
ステラの方は険しい表情のまま、不死王を見据えている。
「元より覚悟の上。王に刃を向けた時点で、この命などないものと思っている」
リーガルがオリヴィエとステラを見返した。
「まあ、待て。俺たちは全員、勝手が分からない時代に飛ばされてしまったんだ。しかも帰る方法も分からない。ここは先のいざこざをいったん忘れて、協力しあおう」
俺はとりあえずステラとリーガルをなだめた。
「よかった……少なくとも、ここでは死罪回避なんですね」
ホッとした顔のオリヴィエ。
「まずは魔王城に行こう。お前のことをヴェルファーたちに紹介しないと、な」
すでにオリヴィエのことは俺やステラの仲間、ということで紹介済みだ。
リーガルについても同様の紹介をするつもりだった。
そう、今はリーガルも仲間だ。
今後の処遇がどうあれ──少なくとも、今は。
※
天界──。
全長百メートル以上もある巨大な玉座に、巨大なシルエットが座していた。
名を持たず、称号もなく、ただ『神』とだけ呼ばれる存在だ。
あまねく世界を治め、絶対の力を持つ超越者。
「強大な魔力の気配を感じる──」
その神が、告げた。
「あるいはヴェルファー以上の脅威になるかもしれんな」
言って、眼下を見下ろす。
そこには赤や青、黒などの衣装を身にまとった天使たちがかしずいていた。
「それほどの存在が──?」
「魔族でしょうか?」
驚いたように顔を上げる天使たち。
「うむ。しかもこの気配は突然出現した。まるで──別の世界から現れでもしたかのように」
神がうなった。
あるいは別の時空から、か。
「我らの魔界侵攻は間もなく開始される。邪悪なる者どもを一掃し、すべての世界を神のものとする──一大作戦だ。失敗は許されぬ。不確定要素は確実に排除せねばならぬ」
次回は3月24日(日)更新予定です。
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