4 魔王城へ
最強と称される『ガ』の竜種──『焔皇竜』ジード・ガ・ゼルフィード。
無限の生命力と卓越した魔導を備えた不死の魔物──『不死王』ヘイゼル。
あらゆる攻撃を無効化する不定形生物──『無形戦魔』ナバーム。
最強の剣技を誇る女魔族──『雷覇騎士』アルフィナ。
いずれも歴代魔王に迫る強さを持つ屈強の魔族たち。
それがこの時代の四大魔軍長だ。
「なあ、あんたの魔力を見せてくれないか?」
巨大な竜──ジードが俺をじろりと見た。
「いくらヴェルファー様のお言葉とはいえ、やはり俺は直接自分の目で確かめたい。あんたが魔王様に認められるほどの強者なのか、どうか」
「──分かった」
『フリード様……!』
『いいんだ。ここは力を示しておいたほうが、後々のためによさそうだ。特に、ジードみたいなタイプには、な』
念話で語りかけてきたステラに、俺は念話を返した。
ジードは、いかにも生粋の戦士といった雰囲気の竜種だ。
俺の実力を──その一端を見せれば、信頼を得ることができるかもしれない。
「魔力を軽く放出する。まずは一割だ」
俺は巻き添えを出さないように、中空まで飛翔魔法で飛び上がった。
上空100メートルほどの地点で止まり、魔力の一割ほどを解放する。
ごおおおおっ……!
轟音と爆炎が、弾けた。
俺の全身から黒紫色のオーラが立ち上る。
歴代最強の、魔王の魔力──。
その一部が可視化され、空間すら灼くほどの熱量で吹き上がる。
「な、なんだと……!? 一割で、これか!」
眼下でジードがうめいた。
他の三人の魔軍長も呆然としている。
「すさまじいな」
「やっぱり、ただ者じゃないね」
ヴェルファーやジュダは、真剣な顔で俺を見据えていた。
「ああ……さすがです、フリード様」
ステラはうっとりと頬を染めている。
俺はしばらくの間、魔力を放出し、それから地上に戻った。
「すげーな、あんた!」
「なるほど、ヴェルファー様がお認めになるわけだ」
「ジュダ以上の魔力ではないか……恐るべし」
「そっちの女の子もやっぱり強いのかしら? 萌えるわ」
魔軍長たちが俺に駆け寄る。
一人だけ違う感想の魔族もいたが、まあそれはともかく。
「みんな納得してくれて何よりだ。俺自身も、お前の力の一端を見ることができて満足だよ」
ヴェルファーが俺たちに笑みを向けた。
「よければ、魔王城にしばらく滞在してくれ。フリード、ステラ」
「私も君たちには興味があるよ。できれば、もう少しゆっくりしていってもらいたいね」
と、ジュダ。
『どう思う、ステラ?』
『なんらかの企みがないとは限りません……が、かなり好意的なようですし、罠ではなさそうに感じます』
『ああ、俺もそう思う』
こうして、俺とステラは魔王城に滞在することになった。
過去の世界の情報を探りつつ、この世界に迷いこんだ現代の魔族たちを探さなければ──。
ヴェルファーたちに連れられ、俺とステラは魔王城に入った。
俺の時代の魔王城と造りは同じだが、破損はまったくなく、城内は壮麗の一言だった。
長く続く回廊をステラと二人で歩く。
──歩きながら、俺はあることを考えていた。
ここは過去の世界だ。
俺やステラがやって来たことで、歴史が変わる……ということはないだろうか。
歴史が変われば、未来に起きる出来事も変わるだろう。
あるいは俺やステラ、他の魔族たちが生まれなくなる可能性はないだろうか……。
「どうかなさいましたか、フリード様?」
ステラが怪訝そうに俺を見ていた。
「……ああ、少し考えごとをな」
言って、俺はステラに今の考えを説明する。
「ステラはどう思う?」
「そうですね……考え方としては、二種類あると思います」
と、ステラ。
「まず一つ目はフリード様が危惧されている通り、未来が変わってしまうこと。場合によっては、本来の歴史では存在していた者が消滅してしまうかもしれません。もちろん、その『消えるかもしれない者』の中には、私やフリード様も含まれます」
「そうだな……」
自分が、あるいは互いが、両方が消えるかもしれない。
想像するだけでゾッとする話だ。
失いたくない、という思いが胸から湧き出る。
「フリード様……」
ステラが俺に手を伸ばした。
俺はその手をそっと握る。
小さくて、柔らかな手だ。
温かい、手だ。
「あ……も、申し訳ありません」
ステラは顔を赤らめ、慌てたように手を離した。
「いや、いいんだ」
微笑む、俺。
「え、えっと、話を戻しますね……」
ステラは照れたようにはにかみながら、
「二つ目は──世界が枝分かれすることです」
「枝分かれ?」
「つまり、私たちが知る『本来の歴史の世界』とは別に、私たちが過去に来たことで『歴史が変わってしまった世界』も存在するようになる──世界が二つに枝分かれするということです」
「なるほど……」
こっちもありそうな話では、ある。
はたして、どちらが正解なのか──。
と、そこで、俺は足を止めた。
話している間に、用意された客室に到着したのだ。
「あ、部屋まで着いてしまいましたね」
ステラもその客室を見ている。
「……ん? 俺はこの部屋を使うように案内されたんだが」
「……私もです」
俺たちは顔を見合わせた。
もしかして、同じ部屋なのか……!?
次回は2月24日(日)更新予定です。
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