2 邂逅
「過去の……魔界?」
俺は驚いてステラにたずねた。
「それも数十万年以上前の──おそらくは、神話でのみ語られている、超古代だと思われます」
「俺たちは時間を移動してきた、っていうのか?」
「時空の流れが激しく乱れている痕跡を探知しました……もしかしたら、ゼガートの封印装置が破壊された際の爆発エネルギーが影響しているのかもしれません」
と、ステラ。
彼女自身も、まだ呆然とした顔だ。
「時間を移動するなど、どのような魔法をもってしても不可能ですし、正確な理由は不明ですが──」
「過去の世界……」
俺はまだ戸惑いが強かった。
神話の時代に来てしまうとは、信じられない話だ。
とはいえ、俺は彼女の『眼』を全面的に信頼している。
もちろん、彼女自身のことも。
だからステラが『ここは過去の魔界だ』というなら信じよう。
そして、その前提で今度の行動方針を決めなければならない。
まず確認しなければいけないことは、
「俺たち以外にも、この世界に迷いこんだ魔族がいるのか?」
「探ってみます」
ステラが第三の瞳を輝かせた。
「反応が──二つ。アンデッドと獣人系ですね」
しばらくして探知を終え、告げるステラ。
アンデッドというのはリーガルだろうか。
ということは──獣人系はゼガートか?
「ここは右も左も分からない世界だ。まずはその二人と合流しよう」
「よろしいのですか? もしもリーガルとゼガートだった場合──」
不安げにたずねるステラ。
「リーガルに関しては、大丈夫だと思う。ゼガートも──奴の切り札はすでに破壊したし、戦闘になったとしても追いこまれる可能性は低いだろう」
俺は言った。
「敵になる可能性が低いとは言えないが、実際に会って、奴らの反応を見てから対応を決めても遅くない。そもそもリーガルやゼガートとは限らないしな」
「承知いたしました。フリード様のご意志のままに」
「行こう」
俺たちは進み始めた。
神話の時代の、魔界の大地を──。
荒野をしばらく進むと、前方からまばゆい輝きがあふれた。
「なんだ、あれは……?」
赤、青、緑の三色に明滅する半球形のドームだった。
あちこちにパイプやチューブが取り付けられた、機械的な外観。
と、
「接近者発見……マスターの快適な眠りを妨げる者……排除する……」
無機質な声が響いた。
装置のあちこちから細い機械腕が伸びてくる。
十数本の機械腕の先端部に、魔力の輝きがいっせいに宿った。
「おい、まさか──」
「『ラグナボム』」
爆裂系の最上級魔法!
同時に放たれた十数発の黒い魔力弾を、
「『ルシファーズシールド』」
俺は魔力障壁を自分とステラの周囲に張り、しのいだ。
「『ラグナボム』──魔王クラスの魔法を撃ってくるなんて」
ステラが驚いた顔だ。
「なんなんだ、この装置は」
「立ち去れ……マスターの安眠のために……」
なおも装置は十数本の機械腕を揺らし、警告らしきものを送ってくる。
安眠のため、というフレーズがどことなく間抜けだが。
裏腹に、攻撃魔法は一級だ。
「悪いが、こっちも身を守らせてもらうぞ」
俺は右手を突き出した。
「『メテオブレード』」
炎の剣を数十本まとめて射出。
装置の機械腕をすべて切り裂く。
「中に誰かいるのか」
俺は装置に向かって問いかけた。
さっきこの装置が告げた『マスターの安眠のために』という言葉を思い返す。
ならば、装置内に眠っている誰かがいるはずだ。
と、
「やれやれ、私の『究極快眠魔導昼寝装置』が破壊されてしまった」
ため息まじりの声は背後から聞こえた。
「ここは禁止区域だよ。君たちは、どこから紛れこんだのかな」
振り向くと、そこに一人の魔族がいた。
「お前は──」
銀色の髪に紫色の衣装。
あどけない顔立ちをした少年だ。
「ジュダ……!」
こいつも過去の世界に来ていたのか。
俺に気配も感じさせず、背後に回るとはさすがだった。
「ん、誰かな、君は?」
ジュダはキョトンとした顔で首をかしげる。
「……すさまじい魔力を感じるね。魔力量なら私が魔族一のはずなんだけど、君はそれをはるかに上回っている。一体、何者かな?」
飄々とした表情が引き締まる。
「それに──なぜか人間の気配までするし」
「俺が分からないのか、ジュダ?」
眉を寄せる俺。
「私の知り合いに、君のような魔族はいない。そっちの少女もね」
ジュダは俺とステラを見て、断言した。
記憶でも失っているんだろうか。
それとも──。
「どうした、ジュダ?」
「ああ、ちょっと変わった魔族たちと出会ったんだよ」
ジュダは新たに現れた魔族の方を振り返る。
こちらは華奢なジュダとは対照的に、筋骨隆々とした偉丈夫だった。
金や翡翠でかざられた豪奢な甲冑をまとっている。
いかにも武人といった雰囲気である。
「君も興味があるかい、ヴェルファー? 強さなら、私や君に匹敵──もしくは上回るかもしれないよ」
「ほう、それは興味深いな」
うなる武人魔族。
ちょっと待て。
今、なんて言った?
こいつの名前は──。
「まさか……」
隣でステラも息を飲んでいる。
「なるほど、とてつもない魔力を感じる。この地にまだお前のような猛者がいたとは……嬉しいぞ。くははははははは!」
武人魔族が豪快に笑った。
「俺は魔王ヴェルファー。こいつは側近であり、相棒でもある魔導師ジュダ。お前の名を聞かせてくれ」
ヴェルファー。
それは──始まりの魔王の名だ。
次回は2月10日(日)更新予定です。
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