1 たどり着いた場所は
魔軍長ゼガートの反乱──。
その戦いは俺たちの勝利に終わり、奴はみずから命を断とうと魔導装置に攻撃を加えた。
巻き起こる大爆発。
──そして。
気がつけば、俺は虹色のモヤの中にいた。
「どこだ……ここは……!?」
周囲を見回す。
城の中ではなさそうだ。
異空間──だろうか。
「誰かいないか……?」
呼びかけてみるが、返事はない。
探知魔法の『サーチ』を使ってみたが、敵も味方も──生物の反応が何もない。
とりあえず進むしかないか。
俺はまっすぐに歩いていった。
数十分も歩くと、やがてモヤが晴れてくる。
荒涼たる大地が現れた。
太陽がなく、空一面に暗雲が広がっている。
魔界であることは間違いなさそうだが……。
と、そのときだった。
「きゃあっ……!?」
可愛らしい悲鳴が上空から聞こえる。
見上げると、誰かが俺に覆いかぶさってきた。
むぎゅぅぅっ。
柔らかな感触が顔に押しつけられる。
「ひあ、んっ……!?」
甲高い悲鳴が聞こえた。
ん、この声は──。
「ステラ……か?」
「え、あ、フリード様……っ!?」
やはりステラだ。
ということは、この柔らかくて弾力があるものは、彼女の胸──。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ももももももも申し訳ありませんっ! なんというご無礼をっ!」
ステラがふたたび悲鳴を上げた。
「ご不快な思いをさせてしまい、大変失礼いたしました……」
俺からすぐさま離れた彼女は、恐縮しきりといった様子だった。
……いや、まあ俺としては不快な思いはまったくしていないんだが。
正直に打ち明けても微妙な雰囲気になるので、自重しておく。
「でも、よかったです……ご無事だったのですね」
ステラが安堵したような表情を浮かべた。
「お前も無事で何よりだ」
微笑みあう俺たち。
「……え、えっと、その」
ステラがモジモジしている。
「……すみません、思い出してしまって」
さっきのことで、まだ照れているんだろうか。
とはいえ、乙女らしい情緒に付き合うよりも、まずは現状確認だ。
「ここがどこか分かるか、ステラ?」
「私の『眼』で見てみますね」
ステラの額に第三の瞳が開いた。
「っ……!」
そのとたん、彼女の顔が蒼白になる。
「どうした!?」
ただ事ではない様子に、俺は思わずステラを見つめる。
「す、すさまじい魔力が……信じられません、フリード様以外にこれほどの力を持つ魔族がいるなんて……!」
はあ、はあ、はあ、と荒い息をついて、その場にしゃがみこむステラ。
「大丈夫か」
「申し訳ありません。探知しただけで、私にまでフィードバックが……魔力が強烈すぎてダメージを……」
俺はステラを抱き寄せた。
「しばらく休め。探知は後でいい」
「……お役にたてず、申し訳ありません」
「謝るな」
俺は彼女を抱く腕に力を込める。
「お前の体のほうが大事だ。無理をさせて悪かった」
「フリード様……」
ステラは俺の胸元に顔をうずめ、小さく息をついた。
一時間ほどが経ち──、
「先ほど感じた魔力は、おそらくレベル3000台──歴代の魔王クラスと比べても、突出した数値です」
回復したステラが説明した。
「フリード様がレベル4000台の後半ですから、それには及びません。ですが、一般的な魔族の常識からは考えられないほどの高レベルですね」
確か、以前にフェリアの夢の中で出会った過去の魔王たち──ヴリゼーラやエストラームたちはレベル700前後だったな。
その過去魔王たちと比べても、桁違い──そんな奴が存在するとは。
「ぜひ味方に引き入れたいな」
ただでさえゼガートの反乱で魔界は混迷状態だ。
強い魔族は一人でも多く、味方に欲しい。
ただ、そいつを直接探知するのはステラに危険が及ぶ。
まずは最初の目的通り、ここがどこなのかを探るべきだろう。
「今度は魔力ではなく風の動きや水の流れなどを感知して、周囲の地形を探ってみます。上手くいけば、ここがどこなのか分かるでしょう」
と、ステラ。
「さっきみたいにお前がダメージを受けることはないのか?」
「地形に対する探知ですから大丈夫です」
不安になってたずねた俺に、ステラは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。私を気遣ってくださって」
「お前を心配するのは当たり前だろう」
「……フリード様」
ステラは頬を赤く染めて、うつむいた。
「え、えっと、それでは探知を始めますね」
照れたように微笑み、ステラがふたたび額に第三の瞳を開く。
鮮烈な眼光が弾けた。
探知が始まったようだ。
──それから、数分後。
「まさか、そんな……!?」
ステラは愕然とした様子でつぶやいた。
「どうした?」
「いえ、確実なことは申し上げられませんが……」
ステラは呆然とした顔を俺に向ける。
動揺したように、その双眸も、第三の瞳も──激しく揺れていた。
「ここは──過去の魔界のようです」
次回は2月3日(日)更新予定です。








