15 王の力
先の戦いで、ツクヨミは『闇の王』に俺を攻撃させようとした。
だが、『闇の王』は戸惑ったように動きを止めていた。
あれは、煉獄魔王剣が理由だ。
かつて俺は先王ユリーシャに教わった。
始まりの魔王から歴代魔王に受け継がれてきた剣。
それは魔王の象徴であり、すべての魔軍を服従させる力を持つという。
そう、『すべての魔軍』だ。
ゼガートのように強靭な意志を持つ者なら、その効果を跳ねのけることもできるようだが──純然たる魔導兵器に過ぎない『闇の王』には効果てきめんだった。
要は──『闇の王』の命令優先権は、煉獄魔王剣の所持者である俺にあるということだ。
だから今、『闇の王』はゼガートたちの命令ではなく、俺の命令に従い、奴らを攻撃した。
この不意打ちで、ゼガートの虚を衝く。
俺たちは最初からそこに賭けていた。
彼我の戦力差を逆転するための秘策に──。
「お、おのれ……っ」
巨竜のドラゴンブレスをまともに食らい、それでもゼガートは立っていた。
だが、さすがにダメージを受けたようだ。
全身から白煙を上げ、あちこち裂けた皮膚から血を流している。
「ゼガート!」
リーガルが咆哮とともに突進し、斬撃を繰り出した。
「くっ、この……っ!」
獣帝も反撃するものの、その動きは確実に鈍くなっている。
それでも──ゼガートは恐るべき膂力でリーガルを押し返そうとした。
「さすがにてごわい……!」
「いくらダメージを受けようが、今のお前などに──むっ!?」
「あたしもいます~!」
と、スライムに変化したリリムがゼガートの足元にまとわりつき、動きを封じる。
「お、おのれ……っ」
動きが止まった獣帝に──その背から生えるサブアームに向けて、俺は懐から抜いた銃を構えた。
「さっきの言葉をそのまま返す。王手だ、ゼガート」
引き金を、引く。
ごうんっ!
「『アクセラレーション』!」
弾丸を発射した轟音と、ステラの呪文が重なった。
その呪文によって加速し、威力を倍加された弾丸が、ゼガートの魔導腕を打ち砕く。
「サブアームが……!?」
ゼガートが愕然とうめいた。
「魔法には強くても、物理にはそこまででもなかったらしいな」
これも、ステラの『黙示録の眼』が見抜いた情報だ。
彼女はツクヨミがサブアームを作成した『過去』を見て、その弱点を把握した。
俺の本来の力やジュダ級の魔力ならともかく、上位魔族クラスでも壊せないほどの魔法防御装甲。
だが反面、物理防御はそれよりは脆い。
もちろん、ゼガートも簡単にサブアームを砕かせるような隙は見せないだろう。
だから俺たちで連携攻撃してギリギリまで奴の注意力を削った。
そして待った。
一瞬の隙ができるのを。
「──戻った!」
全身が燃えるように熱くなった。
奴の手から奇蹟兵装が離れたことで、弱体化していた俺の魔力は復活したのだ。
「力と策略に頼るのがお前の『王の力』なら、俺の『王の力』はこれだ」
右手を突き出す。
収斂型・虚空の斬撃。
黒紫に輝く魔力刃がそこに生まれた。
「仲間とともに生み出す、絆の力──」
「甘い……どこまでも、反吐が出るほどに」
ゼガートが吐き捨てる。
「甘いと呼ぶなら、呼べばいい。俺はこの絆で、お前の野望を断つ!」
突き出した虚無の剣が、獣帝の胸を貫いた。








