14 獣帝攻略戦
俺は魔王剣を手に突進する。
「天共鳴!」
すかさずゼガートが俺の魔力を弱体化させた。
「この術式があるかぎり──お前など儂の敵ではない!」
吠える獣帝。
「全開戦闘モードで思い知らせてやろう。儂こそが魔界に君臨する王であることを! 王の、力を!」
ばぐん、と体を覆う甲冑が割れ、胸元に血のような赤い紋様が浮かび上がった。
「があああああああああああああああああああああああああっ!」
大気を震わせる咆哮。
同時に、ゼガートの全身の筋肉が大きく盛り上がる。
獣人系の身体能力を限界まで──いや、限界を超えて引き出したのか!?
「さあ、砕け散れ! 先代魔王よ!」
剣のように長く伸びた左右の爪が振り下ろされる。
まともに受ければ、膂力の差で押し切られる──。
「『ファイア』!」
俺はとっさに火炎呪文を唱えた。
といっても、ゼガートを攻撃するためじゃない。
俺が狙ったのは足元の地面。
爆発を起こし、それを推進力に大きくバックステップする。
「むっ……!?」
戸惑ったように、一瞬動きを止めるゼガート。
その一瞬の隙を突き、
「ゼガート、覚悟!」
背後からリーガルが斬りかかった。
「遅い!」
が、超速反応で振り返ったゼガートが回し蹴りを食らわせる。
「ぐおっ……」
髑髏の剣士は胴体部を砕かれ、大きく吹き飛ばされた。
なんとか踏みとどまったリーガルに、ゼガートが追撃をかける。
爪が、牙が、尾が、体当たりが、頭突きが、腕や足が──。
体のあらゆる部位を使った、流れるような連撃。
魔族の知性と獣の膂力、反射神経が合わさった怒涛の攻め。
「ちいいっ……」
不死王は鎧や体の各部を砕かれながら、さらに吹き飛ばされる。
リーガルが白兵戦で押し切られるとは……。
獣帝の身体能力は想像以上だ。
と、
「自分を忘れてもらっては困るのであります。まったく、接近戦しか能がない脳筋ばかり……ぶつぶつ」
ツクヨミが後方から不満げにつぶやく。
その頭上で黒い巨竜が羽ばたいた。
魔王城地下に眠っていた防衛兵器──『闇の王』。
おそらくはかつて戦った天軍最強兵器の『天想覇王』に匹敵する性能を持つであろうそれが、
ごうっ!
強烈なドラゴンブレスを吐き出す。
「『ルーンシールド』!」
ステラが防御呪文を唱えた。
魔力攻撃を弾く障壁は、しかし、あっさりと吹き散らされる。
「ここはあたしが~!」
すかさずリリムがスライム形態になり、ブレスを包みこんだ。
ステラの防御魔法で威力を減じていたブレスを、かろうじて相殺する。
「きゃあっ……」
だが、それが限界だ。
リリムとて警備隊長を務める上位魔族ではあるが、相手が悪すぎる。
ブレスの威力で大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「うう、やっぱり痛い~」
スライム体から人間体に戻ったリリムが顔をしかめる。
「よく防いでくれた」
俺はリリムをねぎらった。
「たった一撃でそのザマ。もはや勝負は見えたのであります」
ツクヨミがこちらを見た。
「次はもう防げないのであります」
「……だろうな」
俺はツクヨミを見返す。
実際、もう一撃食らったらリリムやステラの防御を突き破られ、俺たちは全員薙ぎ払われるだろう。
かといって、敵の懐に飛びこんでも、近接戦最強のゼガートが待ち構えている。
「文字通りの王手だ、先代魔王」
ゼガートが笑う。
と、
『──フリード様、準備ができました』
頭の中にステラの声が響いた。
念話だ。
俺の左手の指には彼女の髪を数本巻きつけてある。
それを媒介にして、心の声で通信する──四天聖剣リアヴェルトとの戦いでも使った戦法だった。
『いけるか?』
『魔王様たちが時間を稼いでくれたおかげで、すべて読み切りました』
と、ステラ。
『じゃあ、頼む。リーガル、リリム。打ち合わせ通りに』
『承知した』
『了解です~』
同じようにステラの髪を手に巻いているリーガルとリリムが、心の声で返事をする。
さあ、獣帝攻略戦の仕上げだ──。
『今からゼガートの未来の動きを伝えます。魔王様はそれに応じて動いてください。リーガルも、いけるか?』
『分かった』
『承知した、ステラ魔軍長』
ステラの声に、念話を返す俺とリーガル。
次の瞬間、ステラがゼガートの未来の行動を事細かに伝えてくれる。
俺とリーガルはそれを受け、前に出た。
「まとめて砕け散れ!」
獣帝の爪が、牙が、尾が、怒涛の勢いで繰り出される。
俺とリーガルは剣を振るい、それらの連撃を凌いだ。
近接戦闘能力では相手が上だが、あらかじめどう攻撃してくるかが分かっていれば、なんとか対応できる。
「『アイシクルブラスト』!」
その間隙をぬって、ステラが氷系の上級魔法を放つ。
狙いは、ゼガートの背中から生えたサブアームだ。
だが、
「この魔導腕は対魔法防御装甲を何層も張っている。無駄だ!」
あっさりと弾かれた。
「やれ、ツクヨミ!」
「了解であります──『闇の王』、奴らを薙ぎ払うのであります」
ゼガートの命を受け、ツクヨミが魔想覇王に指示を送る。
その、瞬間。
「薙ぎ払う相手は俺たちじゃない。ゼガートとツクヨミだ」
俺は煉獄魔王剣を掲げた。
「何──!?」
ゼガートとツクヨミの戸惑いの声。
「やれ、『闇の王』」
黒い巨竜は俺の命令に従い、二人に対してブレスを浴びせた──。








