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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第10章 魔界動乱

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14 獣帝攻略戦

 俺は魔王剣を手に突進する。


天共鳴(ハウリング)!」


 すかさずゼガートが俺の魔力を弱体化させた。


「この術式があるかぎり──お前など儂の敵ではない!」


 吠える獣帝。


「全開戦闘モードで思い知らせてやろう。儂こそが魔界に君臨する王であることを! 王の、力を!」


 ばぐん、と体を覆う甲冑が割れ、胸元に血のような赤い紋様が浮かび上がった。


「があああああああああああああああああああああああああっ!」


 大気を震わせる咆哮。


 同時に、ゼガートの全身の筋肉が大きく盛り上がる。

 獣人系の身体能力を限界まで──いや、限界を超えて引き出したのか!?


「さあ、砕け散れ! 先代魔王よ!」


 剣のように長く伸びた左右の爪が振り下ろされる。

 まともに受ければ、膂力の差で押し切られる──。


「『ファイア』!」


 俺はとっさに火炎呪文を唱えた。


 といっても、ゼガートを攻撃するためじゃない。


 俺が狙ったのは足元の地面。

 爆発を起こし、それを推進力に大きくバックステップする。


「むっ……!?」


 戸惑ったように、一瞬動きを止めるゼガート。

 その一瞬の隙を突き、


「ゼガート、覚悟!」


 背後からリーガルが斬りかかった。


「遅い!」


 が、超速反応で振り返ったゼガートが回し蹴りを食らわせる。


「ぐおっ……」


 髑髏の剣士は胴体部を砕かれ、大きく吹き飛ばされた。


 なんとか踏みとどまったリーガルに、ゼガートが追撃をかける。


 爪が、牙が、尾が、体当たりが、頭突きが、腕や足が──。

 体のあらゆる部位を使った、流れるような連撃。

 魔族の知性と獣の膂力、反射神経が合わさった怒涛の攻め。


「ちいいっ……」


 不死王は鎧や体の各部を砕かれながら、さらに吹き飛ばされる。


 リーガルが白兵戦で押し切られるとは……。

 獣帝の身体能力は想像以上だ。

 と、


「自分を忘れてもらっては困るのであります。まったく、接近戦しか能がない脳筋ばかり……ぶつぶつ」


 ツクヨミが後方から不満げにつぶやく。

 その頭上で黒い巨竜が羽ばたいた。


 魔王城地下に眠っていた防衛兵器──『闇の王』。

 おそらくはかつて戦った天軍最強兵器の『天想覇王(ディヴァインギア)』に匹敵する性能を持つであろうそれが、


 ごうっ!


 強烈なドラゴンブレスを吐き出す。


「『ルーンシールド』!」


 ステラが防御呪文を唱えた。

 魔力攻撃を弾く障壁は、しかし、あっさりと吹き散らされる。


「ここはあたしが~!」


 すかさずリリムがスライム形態になり、ブレスを包みこんだ。

 ステラの防御魔法で威力を減じていたブレスを、かろうじて相殺する。


「きゃあっ……」


 だが、それが限界だ。


 リリムとて警備隊長を務める上位魔族ではあるが、相手が悪すぎる。

 ブレスの威力で大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「うう、やっぱり痛い~」


 スライム体から人間体に戻ったリリムが顔をしかめる。


「よく防いでくれた」


 俺はリリムをねぎらった。


「たった一撃でそのザマ。もはや勝負は見えたのであります」


 ツクヨミがこちらを見た。


「次はもう防げないのであります」

「……だろうな」


 俺はツクヨミを見返す。


 実際、もう一撃食らったらリリムやステラの防御を突き破られ、俺たちは全員薙ぎ払われるだろう。

 かといって、敵の懐に飛びこんでも、近接戦最強のゼガートが待ち構えている。


「文字通りの王手(チェック)だ、先代魔王」


 ゼガートが笑う。

 と、


『──フリード様、準備ができました』


 頭の中にステラの声が響いた。


 念話だ。


 俺の左手の指には彼女の髪を数本巻きつけてある。

 それを媒介にして、心の声で通信する──四天聖剣リアヴェルトとの戦いでも使った戦法だった。


『いけるか?』

『魔王様たちが時間を稼いでくれたおかげで、すべて読み切りました』


 と、ステラ。


『じゃあ、頼む。リーガル、リリム。打ち合わせ通りに』

『承知した』

『了解です~』


 同じようにステラの髪を手に巻いているリーガルとリリムが、心の声で返事をする。


 さあ、獣帝攻略戦の仕上げだ──。




『今からゼガートの未来の動きを伝えます。魔王様はそれに応じて動いてください。リーガルも、いけるか?』

『分かった』

『承知した、ステラ魔軍長』


 ステラの声に、念話を返す俺とリーガル。


 次の瞬間、ステラがゼガートの未来の行動を事細かに伝えてくれる。

 俺とリーガルはそれを受け、前に出た。


「まとめて砕け散れ!」


 獣帝の爪が、牙が、尾が、怒涛の勢いで繰り出される。

 俺とリーガルは剣を振るい、それらの連撃を凌いだ。


 近接戦闘能力では相手が上だが、あらかじめどう攻撃してくるかが分かっていれば、なんとか対応できる。


「『アイシクルブラスト』!」


 その間隙をぬって、ステラが氷系の上級魔法を放つ。

 狙いは、ゼガートの背中から生えたサブアームだ。

 だが、


「この魔導腕は対魔法防御装甲を何層も張っている。無駄だ!」


 あっさりと弾かれた。


「やれ、ツクヨミ!」

「了解であります──『闇の王』、奴らを薙ぎ払うのであります」


 ゼガートの命を受け、ツクヨミが魔想覇王(アシュタロートギア)に指示を送る。


 その、瞬間。


「薙ぎ払う相手は俺たちじゃない。ゼガートとツクヨミだ」


 俺は煉獄魔王剣(ラーディス)を掲げた。


「何──!?」


 ゼガートとツクヨミの戸惑いの声。


「やれ、『闇の王』」


 黒い巨竜は俺の命令に従い、二人に対してブレスを浴びせた──。

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