11 反撃の決意
ゼガートとツクヨミが率いる反乱軍は、ジレッガから王都へと進軍した。
「さあ、我が精鋭たちよ。存分に暴れよ」
ゼガートが、配下で生き残った獣人魔族たちに号令をかける。
「我が命に従え。魔の兵器たち」
ツクヨミが、配下の魔導兵器群に加え、魔王城地下から発掘した魔想覇王を操る。
獣人と兵器の混成軍は、王都内へ一気に押し入った。
すでに魔王も他の魔軍長も、軒並み捕らえるか、撃退している。
残るは烏合の衆だ。
精強を誇るゼガートの軍やそれを補佐するツクヨミの軍を止められるはずもない。
一方的な破壊と暴力が駆け巡った。
悲鳴と恐怖の声があちこちで響く。
もっとも、ゼガートとて王都を滅ぼすつもりなどなかった。
晴れて魔王になった暁には、自分がここを治めるのだ。
あくまでも示威程度にとどめなければならない。
「だからといって、遠慮するつもりもない」
ゼガートが王座についたとき、民が彼を畏怖するように。
民が彼を讃えるように。
絶対的な力を示す必要がある──。
「さあ、恐れよ! そして崇めよ! 我こそは新たなる魔王ゼガートである!」
黄金の獅子の宣言が、朗々と響き渡った。
※
「──駄目だ、魔力が湧いてこない」
俺はため息をついた。
時間をおけば回復するかもしれないが、そう長くは待てない。
ゼガートたちが追撃してくるだろうし、何よりも王都をあのままにはしておけない。
俺は王都の方角を見た。
無数の炎と黒煙が立ち上っている。
ゼガート軍が暴れ回っている証拠だ。
どれだけの破壊が行われているのか。
どれだけの民が傷つけられているのか。
想像するだけで、心がえぐられるように痛む。
奴とて、王都を壊滅させたりはしないはずだが、ある程度の力は示すつもりなんだろう。
それで、魔界の民が多少犠牲になったところで──おそらく気に掛けることはない。
ゼガートは、そういう男だ。
「止めないと……!」
俺は耐えきれずに立ち上がった。
「でも、魔王様はいつもの力が使えないんでしょう? それでは勝ち目が、その……」
言いづらそうな様子ながら、リリムが俺の前に立ちはだかる。
「あたしは警備隊長として、魔王様を勝算のない戦いに行かせたくありません」
キッと俺を見据えた。
「リリム……」
「いえ、行かせません! だから止めてみせます。それがあたしの務めです!」
めったに見せない、彼女の厳しい顔。
俺を思いやる、顔。
「私も同じです、魔王様」
ステラが進み出た。
「もちろん、王都は気になります。ゼガートやツクヨミの反乱は許しがたい行為です。それでも──今は耐えるときかと」
耐えて、反撃の機会を待つべき……か。
分かっている。
頭では分かっているんだ。
だけど、ゼガートたちの軍によって王都が蹂躙されていることを思うと、居ても立ってもいられない気持ちになる。
「一つ、考えている戦法がある」
俺はステラとリリムを──そしてリーガルにも視線を向けた。
「ただし、お前たちの協力が必要だ。ステラ、リリム、リーガル」
苦い思いで付け加える。
「かなりの危険を伴うはずだ」
だが、その危険を乗り越えた先にしか勝利はない。
三人の力と俺の力、そして煉獄魔王剣の持つ『特性』──それらを組み合わせれば、万に一つの勝機がある。
「魔王様の命令とあらば、この身と命を捧げましょう」
「あたしもがんばりますっ」
恭しく告げるステラと、元気よく叫ぶリリム。
「……私も、ですか」
リーガルが俺を見つめた。
紅の眼光には、わずかに戸惑いの様子が見える。
「あなたを裏切った私を、信じるというのですか?」
「むしろ裏切りの贖罪だと考えたらどうだ、リーガル?」
俺は奴を静かに見据えた。
「この絶体絶命の窮地──もしも俺の戦いに貢献したなら、反乱の罪を減じることを考えよう」
「あなたは」
リーガルが小さく息をつく。
まあ、半分冗談だが。
少しは張りつめた雰囲気も和らいだだろう。
「今回の作戦ではお前の力が必要だ、リーガル。魔力をほとんど失った俺は攻撃力が激減している。ステラは直接攻撃タイプじゃないし、リリムたちにしても同じ。白兵戦に長けたお前が加わってくれなければ、ゼガート打倒は成り立たない」
俺はあらためて髑髏の剣士を見つめた。
「俺に力を貸せ、リーガル魔軍長」
「あなた……は」
「魔王としての命令だ」








