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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第10章 魔界動乱

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7 秘策

「結局、お前は(わし)ではなくフリードを選んだか」


 声が、空から響いた。


「お前は──」


 驚いて振り仰いだ俺の目に、銀色の鳥のようなものが映った。

 飛行用の魔導機械か?


 それに乗っていた二体の魔族が地面に降り立つ。


 甲冑をまとった金色の獅子の獣人。

 その側に付き従うのは、銀騎士型の改造生命体(ホムンクルス)だ。


 ゼガートとツクヨミである。


「だが、魔王をある程度は消耗させたようだな。十分だ」


 ゼガートがにやりと笑う。


「俺は……確かめたかった。フリードが王の器か、否か。今一度……」


 リーガルがうめいた。


「俺はやはり……貴公ではなく、この方こそが王にふさわしいかもしれないと感じ始めた。揺らいでいるのだ」


 首を左右に振る不死王。


「分からなく……なった」

「ならば、そこで見ておれ」


 ゼガートが進み出た。

 牙をむき出しにして、どう猛に笑う。


「分からせてやろう。真の魔王の実力を──」

「今度はお前が俺と戦うのか、ゼガート」


 俺は奴に向き直った。


「ふふ、それが仮面の下の素顔か。やはり人間そっくり──いや、人間のときと同じ顔なのだな」


 ゼガートが俺を見据える。


 そうか、リーガルとの戦いで仮面が壊れたままだったな。

 ゼガートやツクヨミにも素顔を見られてしまったか。


「……なぜお前は、俺が元人間だと知っている」


 たずねる俺。


「リーガルから聞いたのか」

「違うな。その前から、儂は知っておったよ」


 ゼガートが傲然と告げた。


「人の心を持つ魔王など、儂は認めん」


 ……リーガルと同じようなことを。


「人の心を持ちながら、魔王の座を儂から奪った……それが憎い」


 なるほど、同じ言葉でもリーガルが抱いていた思いとは全く違うわけか。


「野心と、嫉妬か」

「ああ、次の魔王は儂以外にいないと思っていた。いや、先王ユリーシャが選ばれたときも、儂は狂おしいほどに妬んだ。恨んだ。憤怒した。なぜ儂ではないのかと」


 ゼガートがうなる。


「儂ならば、この魔界をもっと強くできる。そして我が名を永遠に轟かせてみせる。だというのに、先代も、今代も──なぜ儂は魔王になれん!」


 獅子の瞳が俺を見つめる。

 暗い炎を宿した瞳が。


「ならば奪い取るのみ! 力だ! 誰よりも強く、すべてを打ち倒し、蹂躙する力──それこそが魔界で唯一絶対のルール!」

「力ずくで来るなら相手になるぞ、ゼガート」


 俺は魔力を集中した。

 リーガルとの戦いで消耗したのは事実だが、それでもまだまだ戦える。


「魔王様、あたしたちがお守りします!」


 リリムや警備兵が俺の前に出る。

 だが、俺はそれを制した。


「いや、リリムたちは下がっていてくれ」


 ゼガートの力は強大だ。

 無駄な犠牲は出したくない。


「奴は俺が倒す。魔王として、な」

「よくぞ言った! 今から儂がお前から魔王の座を奪う!」


 叫んで、ゼガートが地を蹴った。


「いざ尋常に──勝負!」


 獣帝の背後から何かが飛び出す。


「うなれ、奇蹟兵装『グラーシーザ』!」

「なんだと……!?」


 奇蹟兵装。

 勇者だけが操ることのできる神の武具だ。


 それをゼガートが使っている──?


 正確には、槍は獣帝が手にしているのではなく、鎧の背部から伸びた魔道機械らしき補助腕──いわばサブアームが握っていた。


「『メテオブレード』!」


 俺はとっさに炎の剣を十数本まとめて放ち、迎撃する。


「ぬるいわ!」


 ゼガートの槍がすべての炎の剣をまとめて切り裂いた。


 俺の『メテオブレード』は全開なら大地を焼き溶かし、切り裂くほどの威力がある。

 それを十数本まとめて斬り散らすとは、すさまじい威力だ。


 いや、違う──。

 これは、まさか。


「『ラグナボム』!」


 俺は続けざまに上級呪文を放った。


「ぬおおおおおおおおっ!」


 ゼガートが咆哮とともに、槍を掲げる。


天共鳴(ハウリング)!」


 呪言とともに、その穂先から黒い輝きが弾けた。


「くっ……!?」


 強烈な脱力感がこみ上げた。


 魔力が乱れる!?

 上手く『力』を放出することができない──。


 放った魔力弾は、普段の出力に遠く及ばず、


「ぬるいと言っておる」


 やはりゼガートの槍によって、斬り散らされた。


「はあ、はあ、はあ……」


 俺は全身から汗を滴らせ、荒い息をついた。


 なぜか、魔法の威力が極端に落ちている。

 そういえば、初めてゼガートに会ったとき、手合せした際にも同じようなことがあった。


 いや、それ以前にも覚えがある現象だ。


 そう、愛弟子ライルと戦ったときと同じ──。

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