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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第10章 魔界動乱

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6 瘴気と虚無、怨念と希望

「『冥王終焉斬ハーデスブレード・エンド』──俺の最大剣技を最高出力で貴公に放つ」


 瘴気の炎に包まれた剣を手に、リーガルが疾走する。


 速い──。


 瘴気の炎は剣だけでなく、どうやら奴の背中からも噴出されているらしい。

 それを推進力にして、爆発的に加速したのか。


 まさしく刹那で俺に肉薄した不死王が、上段からの渾身の斬撃を放つ。

 小細工なしの真っ向勝負──。


 ならば、俺も、


「『収斂型・虚空の斬撃(ヴァニティブレード)』!」


 空間をも断ち切る魔力剣を発動する。


 瘴気の剣と虚無の剣と──。

 俺たちの刃がぶつかり合った。


 互いの想いと志を込めた、刃が。


 ぎぎぎぃ、ばぢぃっ!


 俺たちの剣はぶつかり合い、金属が軋むような音と火花をまき散らす。

 そのまま、じりじりと鍔迫り合いの体勢に移る。


「斬れない──」


 俺は仮面の下で戸惑いの声を漏らした。

 空間すら切り裂く剣を、奴の剣は真っ向から受け止めている。


「まさか、これは……!」


 以前に『神の力』を得た勇者リアヴェルトと戦ったときと同じだ。


 魔力剣の威力が『拒絶』されている。

 リーガルの最大剣技はその域に達しているのか。


「数千年の蓄積が生み出した、たった一度だけの技だ」


 不死王が静かに告げた。


「だが、その一度だけは──俺はすべてを『拒絶』し、すべてを打ち砕くことができる。たとえ最強たる貴公の魔力といえども」

「とっておき、というわけか」

「貴公との戦いには、それだけの価値がある。そう判断しただけのこと」


 じりっ、とリーガルが押す。


「っ……!」


 俺の生み出した魔力の刃が大きく軋んだ。


 表面に亀裂が走る。

 魔力そのものがすり減っていくのを感じる。


 確かに、すさまじい斬撃だ。

 俺の魔力を凝縮させた虚無の剣すら『拒絶』し、破壊しようとしている。


 リーガルがさらに押しこむ。

 このまま押し切り、俺を真っ二つにする気か。


「だが──」


 俺はさらに魔力を込めた。

 ヒビだらけになっていた魔力剣が、ふたたび元に戻る。


「何……!?」

「その程度で、俺の魔力を使い果たさせることはできない。譲れない意志があるのは、お前だけじゃない……!」


 今度は俺が押し返した。

 リーガル優勢だった鍔迫り合いが、ふたたび五分に戻る。


「なぜだ!? なぜ押し切れん──この俺の瘴気が、怨念が、人間ごときの心になぜ押し勝てん!?」

「俺も、お前と同じだ」


 虚無の剣でリーガルの瘴気剣を受けながら、俺は静かに告げた。


 互いの間で吹き荒れるエネルギー流が、魔王の仮面を粉々に砕く。

 露出した素顔で──人間の顔で、俺はリーガルを見つめる。


「先代魔王ユリーシャとの戦いで、もっとも信頼していた者に裏切られた。そして──死んだ」

「……何?」

「俺は、奴を恨んだ」


 脳裏に浮かぶ、愛弟子ライルの笑顔。


 胸の芯がズキリと痛んだ。

 決別し、決着をつけたとはいえ、心の痛みが完全に癒えることなどない。


 だが、それでも──。


「本来なら俺もお前のように、人間すべてを憎むようになっていたかもしれない。だけど──俺の側にはステラやリリムたちがいた。魔王となり、新たに大切な者たちを得た」


 一歩、俺が押しこむ。

 均衡が、崩れる。


「くっ……まだ出力が上がるというのか……!?」


 一歩、リーガルが後退した。


「大切なものを守りたい、という心が、俺の人としての心をかろうじて保ってくれた。憎しみに囚われず、仲間を信じ、想う心をつなぎとめてくれた」


 もう一歩、俺が押す。


「だから俺は戦える」


 さらに、一歩。


「魔界を脅かすものがいるなら──魔族(なかま)を傷つける者がいるなら、俺のすべてを持って退ける。打ち砕く」


 そして俺は、最後の一歩を踏みこんだ。


「その意志を、彼女たちが与えてくれる!」


 虚空の刃が、瘴気の剣を半ばから断ち切った。


「ぐ、おおおおおおっ……!?」


 リーガルが大きく後退する。


「俺たちが目指すものは同じだろう、リーガル。一緒に戦うことはできないか」

「馬鹿な──」


 不死王は呆然とうめいた。


「お前の憎しみは、それを妨げるほど大きいからか? 俺では、お前の仲間にはなれないか」

「仲間……」

「お前も、大切な魔族(なかま)だからな」




 がらん、と。

 リーガルの手から剣が落ちた。


 刀身が半ばで折れた剣は、そのまま風化し、無数の灰となって舞い散った。


「──殺せ」


 うなだれる不死王。


「今ので瘴気が完全に尽きた。俺はもう……戦えん」

「勝者は敗者を自由にしていいんだろう? なら、今度こそ俺に忠誠を尽くせ」

「……貴公は、自身に剣を向けた者を許すのか」

「仲間だと言ったはず。他の多くの仲間を救うためにも──お前の力が必要だ」

「……甘いな」


 ふう、とリーガルが息をついた。


「なら、その甘さをお前が補え」


 俺はにやりと笑った。

 初めて出会ったときと同じ台詞だった。


「王命だ」

「……貴公は」


 リーガルが、心なしか笑ったような気がした。


「いえ、あなたは──やはり甘い」


 奴の台詞もまた、初めて会ったときと同じような言葉。


 だけど俺たちの間で交わした心は。

 きっと、あのときとは違っている──。

※次回は12月5日(水)投稿予定です。そこから章の終わりまで投稿していきます。

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