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愛弟子に裏切られて死んだおっさん勇者、史上最強の魔王として生き返る  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第10章 魔界動乱

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5 魔王VS不死王、ふたたび

「お前は、人の心を宿した魔王を認めない──と言った。それは人間を憎んでいるからか?」


 俺はリーガルを見据えた。


「なぜ人を憎む、リーガル。魔族としての(さが)なのか?」

「魔族が必ずしも人間を憎むとは限らない。歴代の魔王の中にさえ、人間と交流した者もいる」


 リーガルは淡々と語った。


「だが俺は──人間という存在を許さない。決して相容れない。そう感じている。なぜなら──」


 髑髏の眼窩(がんか)が、その奥にある赤い眼光が俺をにらむ。


「俺は、元人間だからだ」


 リーガルが告げた。


「貴公と同じく、な」

「っ……!」


 仮面の下で顔をこわばらせる、俺。


 俺と同じく、リーガルは人間が転生した魔族ということなのか?


「ゼガートから聞いたのだ。貴公は人間から魔族に生まれ変わった、と。そして、その精神は今も人間のものだとも」


 俺は息を飲んだ。


 なぜ、ゼガートはそのことを知っている──。

 驚く俺を、リーガルの赤い眼光が見つめた。


「俺は魔族として転生し、同時に人間を見限った。奴らは汚い。心を通じ合わせた者でさえ、利害によってはたやすく裏切る」

「裏切る?」

「数千年前、俺がまだ人間であったころ──俺は小国で英雄として称えられていた」


 述懐するリーガル。


「親友と呼べるただ一人の男、リオン。彼とともに俺は無数の戦場を駆け巡った。多くの魔族と剣を交え、打ち破り、やがて俺とリオンは強大な魔軍長と戦った──」


 初めて聞く、リーガルの過去だった。

 人間だったころの彼は、勇者のような生活を送っていたのかもしれない。


「俺たちは追い詰められた。そのときリオンが俺を裏切った。生き伸びるために……俺もろとも魔軍長を爆破して」

「っ……!」


 俺はふたたび息を飲んだ。


 シチュエーションこそ違うが、信じていたものに裏切られた過去は、俺と同じだ。


 奴の苦しみや怒り、絶望を容易に想像できた。

 それは、俺が愛弟子ライルに抱いた気持ちと類似しているだろうから……。


「無念の思い、憎しみや恨み……それらを抱いたまま、俺はアンデッドとして転生した。力を蓄え、やがて魔軍長になった」


 ふしゅうっ、とリーガルが息を吐き出す。


「俺には、すでに人としての心などない。ただ人という存在に対する怒りや恨みは決して消えん。奴らを一匹残らず消し去る──それが魔族として戦う理由だ」

「それが、人間のすべてじゃないだろう」

「俺にはすべてだ」


 リーガルは頑として譲らない。


「ゆえに、人の心を持つ魔王など断じて認めん」

「俺の元では戦えない、ということか」

「然り」


 うなずく髑髏の剣士。


「なら、どうする気だ? ゼガートを新たな王に祭り上げ、その下で戦うのか」

「……然り」


 リーガルが軋むような声で肯定した。


「ゆえに、俺はここで貴公を斬る」


 ばぐんっ!


 音を立てて、リーガルの甲冑が砕け散った。

 骸骨の全身から紫色の炎が立ち上る。


「これは──」


 すさまじい濃度の、瘴気……!?


「俺が数千年かけて錬成した怨念……それを凝縮した瘴気だ」


 炎をまとった髑髏の剣士が告げた。


「確かに基本能力値(ステータス)は、貴公の方がはるかに高い。まともに戦えば、俺に勝ち目はないだろう」


 リーガルの体から吹き上がる炎が、さらに熱度を増した。


 まるで大気そのものを焼き尽くすような──。

 まるで世界そのものを朽ちさせそうな──。


 炎の、瘴気。


「だが俺が蓄積してきたこの力なら、それを解放し、収束し、どこまでも高めていけば──一瞬だけその力をも超えられるかもしれん」


 リーガルは無数の骨を組み合わせたような禍々しい剣を掲げた。

 奴の体を覆う炎が、その刀身へと移動する。


「ただ一度だけ、一瞬だけしかしか使えぬ力だ。俺はその一瞬に賭けて、貴公を斬る」

「悪いが、斬られてやるわけにはいかない。俺は王として──フリード・ラッツとして、生きる目的がある」


 俺は静かに告げた。


 戦う決意は、すでにできている。

 奴を斬る覚悟も。


 だから、迷いを振り切って宣言した。


「王の道を阻むものは──たとえお前でも、打ち倒す」

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