表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お飾り聖女、光の魔法使いに転職します! 〜愛しさゆえに光の演出(ステージ)を創り出す〜  作者: 綾野あや
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/85

第23話 貴族の明暗②


「ようこそ、お越しくださいました、聖女様!」

 

 クルブス侯の貼りついた笑顔に、私はにこやかに微笑んだ。


「先の演奏会では大変お世話になりました」


 反射的に身体をすくませた侯爵だったけれど、すぐさま、表情を戻す。

 久しぶりにやってきた屋敷は、相変わらず贅を凝らした室内で、ブロット邸と大違いだ。

 四大侯爵家を巡ること3軒目。今日は、問題の起点となったクルブス侯爵邸を訪れた。


 エジュオさんの目論見は大きく外れて、抗議の撤回はなかった。

 市民に新曲を提供することは、単純にエジュオさんの芸術的価値が落ちるだけ。最高位のパトロンだったクルブス侯には一切関係がない。その思考は、すごく冷酷だった。

 そうして、エジュオさんを切り離すことでプライドを守り、矛先を“この国の音楽の秩序を乱そうとしている”アレクに向け直そうとしていた。


 けれど、アレクの作戦は、その高すぎるプライドを“別の形”で上書きするものだった。

 宮廷楽団と魔術師団の建国祭期間中の先行貸し出しという、四大侯爵家のみへの特別待遇。

 国が貴族の権威を認め、彼らの商機と名誉を最優先する姿勢を示すことで、クルブス侯爵の留飲を一気に下げることとなった。


(って、レクチャーしてもらって、ようやく理解できたんだよね)


 昨日、アレクから“クルブス侯爵対策講座”を開いてもらって、やっと自分の立ち位置がよくわかった。

 

 ――彼は今、政治的な勝利に酔っている。


 エジュオさんという天才作曲家を奪われたけれど、アレクの作戦は破格の待遇な上に先の利益までついてくる。だからこそ彼の面前では、その解釈を否定しないようすることが大切だと教わった。


 ――ハルカは笑顔を絶やさず、彼らの名誉と商機をいかに魔法演出で高められるか、プロとして堂々と語るだけでいい。


 もし小難しいことを言われたら文官がフォローするからと言われたので、そこはお任せしよう。

 私ができることは、いかに前回の演奏会よりも素晴らしいものになるか、そして、それがどれだけクルブス侯爵の利益になるかを推すことだ。


「他の侯爵家にもご挨拶されていると伺っておりますが……当家は二度目になります。聖女様としては、慣れ親しんだ会場での演出の方が、居心地良いかと存じますが」


「申し訳ございません。アレクシウス殿下からは、平等に演出するように、とご用命いただいております」


 席について早々、さらなる特別待遇を言ってくるとは思ってもみなかった。

 けれど、これも想定内だ。

 アレクからの色んな対応パターンをもらったけれど、就職課の職員と就活生のような気分だった。面接官に対して、どう答えるか、なんて元の世界じゃ事前のセミナーくらいだったのに。


 クルブス侯爵は少し怪訝そうな顔をしたけれど、すぐさま私は他のメリットを提案する。


「その代わりに、宮廷楽団、魔術師団ともに精鋭をクルブス家にお貸出しさせていただきます。先にご提案いただいた、小編成によるオーケストラも可能です」


「おぉ、それは大変ありがたい」


 クルブス侯爵は満足そうに噛みしめる。

 けれど、貪欲な彼はやはり聖女の箔が欲しいようだ。

 

「しかしながら、平等に演出ですか。聖女様の目の届かない事態になりませんかね?」

 

「おっしゃる通りなのですが、この度は総合演出家の任を預からせていただくことになったので」

 

 笑顔であしらっているけれど、内心は泣きたい状況だった。

 

 総合演出家――つまり、私は建国祭の総合プロデューサーの立場になってしまったのだ。


 アレクから言われたときは、さすがに無理!と声を上げた。

 1つの演奏会だけでも手一杯なのに、それが4倍。加えて、建国祭のメインイベントの演出まで割り振られた。

 通常の建国祭は3、4ヶ月前から準備するのに、今回は半年あるから余裕だと、有能な王子様は微笑む。

 万能の王子と凡人を一緒にしないでほしい。

 

 分裂なんて出来ないので、各侯爵家には魔術士団の四班メンバーが、演出リーダーとなって指揮することになった。

 ある程度のノウハウは出来てきたし、四班メンバーも宮廷楽団と仲良くなっているから問題はないはず。けれど、さすがに四班だけじゃ人手が足りないので、魔術士団も総がかりだ。

 

「それに、前回よりも大人数でのオーケストラ。まさにクルブス家らしい華やかなものとなります。来客者たちからは絶賛の嵐になることに相違はございません」


 力強く断言して、彼の貴族心をくすぐる。

 クルブス侯爵も「ですが……」とまだ懐疑的なので、さらに後押しを重ねる。


「でしたら、シルヴィオを手配いたしましょう。前回の演奏会にて私と共に演出を担当した者になります」


「おぉ!それでしたら問題ございませんな。ドルガスアの神童と謳われた天才魔術士。まさに当家の演奏会は盤石ですな」


 元からシルヴィオくんに依頼するつもりだったし、稀代の魔術士が演出するのだ。箔付けとしても申し分ない。

 アレクから教わったことを思い出しながら、話を進める。

 クルブス侯爵はその後も、上機嫌で打ち合わせに対応してくれた。



 *



 城に戻って、さっそくアレクに報告することにした。

 

「どうだった、クルブス侯爵は?」


「ばっちりだったよ。対策講座をしておいて正解だった」


「それは良かった。他になにか言われたことはない? 周囲の様子は?」


 アレクが声のトーンを下げて、後ろにいたシグリードに視線を向ける。

 今回もそうだけど、侯爵家に訪れる際は必ずシグリードにも同席してもらっている。

 事前に“聖女には特別な護衛騎士を同行させていてる”と通達している。薄明竜からの特別な加護があり、偽物なんか出たらすぐにわかる、と念押し済みだ。主にクルブス侯爵向けなんだけど、今後のことを考えると触れを出しておいて損はない。


「問題はなさそうだな。魔術的な仕掛けも感じられなかった」


 シグリードが頷いて、説明してくれた。

 こうして同行することは増えたけれど、本当に彼が後ろに控えているだけで安心する。

 何かあったら頼れる人がいるというのは心強い。


「次は……アルベリーニ家か」


 アレクが深く溜息をついて、考え込む。

 四大侯爵家のなかでも、一番動きが読めないのがアルベリーニ家だと聞いていた。


 大陸を東西に横断する交易路が領地にあり、その交易拠点で財を成す侯爵。

 他国との関わりも深く、政治よりも利益の方を追求する中立派だそうだ。

 アレクもアルベリーニ侯爵と話すときは、警戒してしまうと言っていた。本気を出されたらわからない。それくらい一枚か二枚上手の存在だと、彼がいうくらいなのだ。私が太刀打ちできるか自信はない。


「ハルカなら大丈夫だろう」


 シグリードがきっぱりと断言する。

 振り返って彼を見れば、穏やかに、けれど真っ直ぐに私を見つめて頷いた。


「前に比べたら迷いがない。むしろ、堂々としている――俺の聖女として誇らしい」


 一瞬、息が止まった。

 シグリードから発せられた“俺の聖女”という言葉に、ボッと赤くなる。

 確かにそうなんだけど、そうじゃないというか、急に心臓を止めるようなことを言わないでほしい。

 当の彼は「何か間違ったことを言ったのだろうか」という顔をしているけれど、ものすごいセリフを言ったことをなんで自覚できないのか。


「そうだね。“僕の”聖女様なら問題ないか」


 アレクもクスクスと笑いながら、シグリードと同じ言葉を重ねてくる。

 この前に言った言葉を彷彿とさせるようで、アレクも意地悪だ。

 二人に言われると、胸の奥がむずがゆい。けれど同時に、前へ進めと背中を押されてことに気づく。


「あーもうっ、頑張ります!」


 建国祭に向けて、二人の気持ちに応えられるよう、聖女としての仕事に取り掛かることを改めて決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ