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お飾り聖女、光の魔法使いに転職します! 〜愛しさゆえに光の演出(ステージ)を創り出す〜  作者: 綾野あや
第2部

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第19話 会議は踊る


 私は、城内を早足で駆け抜ける。

 本当は全力で走り出したかった。けれど、聖女という立場がそれを許してくれない。


(っ、アレク!)


 ロレッタさんに告げられた言葉が脳裏をよぎる。


 ――アレクシウス殿下が尋問にかけられています。


 理由は明白だ。

 私の軟禁が問題視されているのだ。


 竜の聖女は王族と同等の立場。その者を王族が軟禁するなんて、本来あってはならないことだ。

 それでもアレクがあの決断に踏み切ったのは、これ以上、私の勝手な行動をさせないためだったと思う。


 勝手に抜け出して、魔法演出までした。アレクの責任下にある私が、こんなことをしたんだ。本来なら、その咎を背負うべきは私自身だ。


 ロレッタさんは「会議が終わるまで待ったほうがよい」と判断したけれど、それじゃアレクを守れない。


 案内されて辿りついた大会議室の前で、私は大きく息を吸った。

 完全に無策でここまで来てしまった。けれど、軟禁されているはずの人間がここに来たんだ。

 それ自体が、きっと切り札になる。


 重々しい扉に手をかけ、ゆっくりと開く。

 思わずその光景に息をのむ。


 室内にはドルガスア竜王国の重鎮たちがずらりと並び、空気が張りつめていた。

 おそらく四大侯爵家の人たちなんだろう。その中にクルブス侯の姿もあった。

 一歩踏み込んだだけで、その視線の重圧に押しつぶされそうになる。

 けれど、震え始めた手をぎゅっと握り締めて、さらに一歩前に進んだ。


 アレクが見えた。

 何か言いかけた彼は、すぐに口をつぐんで目を伏せる。

 尋問中だから、不用意な発言は禁じられているんだろう。


「聖女様、何用で?」


 ビリッと空気を裂く声が飛んだ。

 まるで雷鳴のように鋭く、有無を言わさない態度で構えている。


 ――ウィリオット王子だ。


 アレクを糾弾するのに、ちょうどいい事件を起こしてしまったことが悔やまれる。

 けれど、守るって決めたんだ。

 私の居場所を取り戻すために、頑張ったことだけは後悔したくない。

 ロレッタさんやアレクを傷つけて、イル・スオーノのみんなも巻き込んでしまった。

 本当にどうしようもない“わがまま聖女”だ。でもだからといって、責任だけは放り出したくない。


 そんなの“竜の聖女”の名がすたる。


「説明を伺いに参りました」


 思いのほか凛とした声が響き、自分でも驚く。

 キッとウィリオット王子を睨み返して、左手に力を込める。

 シグリードと結んだ紋章が熱を帯び、勇気が湧いてくるようだ。


「ほぉ……。ではお聞きしますが、兄上から軟禁の理由は聞かされていないのですか?」


「お言葉を返すようですが、そもそも――なぜ、私が軟禁されたと思われるのです?」


「おや? まるで理由も知らずに閉じ込められたと……まぁ、いい。では改めて皆様に状況をご説明しましょう」


 ウィリオット王子は芝居がかったような態度で、朗々と語り出す。


 貴族も、そして市民も“魔法演出”を待ち望んでいるのに、国は一向に技術を開放しない。

 市民演奏会では、聖女の真似事をした“魔術士”まで現れた。これは、国に対して不敬でもあり、不満の表れだ。

 ならばこそ、一技術の開示を急ぐべきではないか――と。


「なのに兄上は、その象徴たる聖女様を軟禁された。これは一体どういうことでしょうか? これでは我欲で独占したと受け取られても仕方ない。……いかがです、兄上」


 ねっとりとした口調で煽るようにウィリオット王子は、兄を見下す。

 その姿は、獲物を追い詰めた蛇のようだ。どこまでも狡猾に逃げる暇さえ与えない。

 その笑みには、兄を陥れる未来をすでに計算し尽くした者の余裕があった。


(軟禁って、そうだけど……。でも)


 私が外に行けるようになったのも、シグリードが護衛騎士になったおかげだ。その自由を与えたのは、他ならないアレクだ。

 そう――全ては、私を“守るため”に。


(あっ……これだ)


 そうだ、それだ。

 起死回生のひらめきが落ちた。


「軟禁なんて、そんなの違います! 私から保護をお願いしたんです!」


「保護、だと?」


 予想外だったらしく、ウィリオット王子がわずかにたじろぐ。


「私、誘拐されたんです!」


 ザワッ。

 一瞬にして、空気の色が変わった。

 そのとき、ウィリオット王子とクルブス侯の顔色がサッと青ざめたのが見えた。

 が、すぐに冷静さを取り戻して、唇を噛み締める。

 

「失礼ながら、聖女様。一体、どういうことでしょうか?」


 クルブス侯の隣席者が手を挙げた。

 事実をつかみあぐねているに違いない。

 けれど、私も核心的なことは言えなかった。舞踏会の時にアレクは「尻尾はつかめていない」と言っていた。


(――だったら、でっちあげるしかない!)


 私は頭をフル回転させて、言葉を続ける。


「すみません。正確には……誘拐されかけました」


 ほんの少しだけ安堵の空気が広がった。

 実際、誘拐されたけれど、今の問題はそこじゃない。


「最近、妙な人影を見ることが多くて……つい先日、誘拐されそうになって……」


 わざと声を震わせる。

 ウィリオット王子への意趣返しだ。

 

「アレクシウス様には以前からご相談しており、優秀な護衛騎士をつけてくださっていたので、事なきを得ました」


 胸の前で手を握り、必死に堪えている芝居をする。

 でも、あのときは本当に怖かった。

 シグリードが助けに来なかったら、今ごろどうなっていたのかわからない。


「それで……外に出るのが怖くなってしまって。だから、アレクシウス様に保護していただいていたんです!」


 わっと顔を手で覆って、身体を震わせてみる。

 やりすぎたかな、と思ったけれど、でも、今はこれで押し切るしかない。

 すると、後ろからそっとロレッタさんが肩に触れた。


「ハルカ様……とても怖い思いをされましたね」


 完璧なアシストだ。


 こうなると分が悪いのはウィリオット王子だ。

 “軟禁ではなく保護”という構図になったことで、形勢は一気にアレクの味方をする。


 重鎮たちも彼の指摘とは異なる話に、意見が飛び交い始めた。

 

「静粛に。この件につきましては、審議を改める必要がありますな」


 宰相の言葉で、審議は一旦保留。

 私は別室で話を聞かれることになり、先に退室することになった。


 ――これで、大丈夫、だよね。


 不安はぬぐい切れないけれど、ひとまず最悪の事態は避けられた気がした。


 

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