第28話 合同練習
気が付けば、準備期間も3ヶ月が過ぎていた。
そろそろ成果を持ち寄って合わせよう――魔術士団と宮廷楽団との話し合いの末、第1回目の合同練習が開かれることになった。
まずは演出の方向性を探るため、宮廷楽団の演奏を聴くことから始まる。
魔法演出の対象となる曲は、全部で四曲。
テーマは「色彩」だ。
曲ごとにまったく異なるテイストを用意し、変幻自在な色と動きでドルガスア国の力量を示す――そんな意図を込め、極彩色の夢のような空間を創り出す計画である。
プロローグ曲は、静かで切ないイントロから始まる。
次は一転して、明るく跳ねるようなポップな音。
3曲目は重厚なロックテイスト。
そして締めくくりは、穏やかに心へ響く余韻を残すメロディソング。
どの曲も見事な演奏で、魔術士団の面々も、演出の構想そっちのけで聴き惚れていた。
けれど私は――四重奏の練習を思い出したせいか、ほんのわずかな違和感を覚えていた。
(うーん……何だろう)
音はほぼ完璧だ。
団長のダーヴィットさんも、まだ課題はあるという空気を残しつつ、概ね満足げに見える。
だから素人の私が口を挟むことではないし、ただの思い過ごしかもしれない。
――――けれど、団員同士の空気が、どこかよそよそしい。
四重奏のときは、もっと自由に意見が飛び交っていた。
しかし大人数のオーケストラでは、息を合わせるのも容易ではないのだろう。
それでもプロである以上、これから歩調を整えていくはずだ。
(たぶん、大丈夫)
そう思って、私は魔術士団に視線を戻し、今度は私たちの番だと合図する。
「じゃあ――行くぜ、4班!」
「おう!」
シルヴィオくんの号令で、魔術士たちが事前に準備していた魔法陣を展開し、魔石装置を手際よく設置していく。
今回の目玉は、何といってもプロジェクションマッピング風の投影魔術だ。
四重奏のときよりもさらに大きな天幕を用い、特製の塗料で術式を書き込んである。
「おぉ〜!」
「これは見応えがある!」
楽団の面々から、感嘆の声が次々と上がる。
鮮明な映像に加え、幕を2枚、3枚と重ねて立体感を生み、その世界に引き込む構造だ。
「次は炎と水の演出だな」
「とうとう……解き放つときが来た……! 俺、頑張った」
「あはは、本当だよー。ハルカちゃんが『炎も入れたい』って言わなきゃ、やらなかったんだから」
「炎の演出、ロック調の曲だとテンション爆上がりなんで!」
思わず私が力説してしまったのも、過去に見たライブで、小さな火柱が音に合わせて上がる光景が忘れられなかったからだ。
そのとき最前列にいた子から「ぶわっと火が出た瞬間、こっちまで熱くてびっくりするよ!」と聞き、それ以来、一度は体験してみたかった演出でもあった。
もちろん火力も角度も、演奏の妨げにならぬよう計算済みである。
「うわっ!」
「えっ……一瞬!? でもすごい!」
流れる炎は、攻撃魔術を専門とする第1班にも協力を仰いだ。
見栄えは抜群で、安全性にも万全の態勢を取っている。
噴水も同様に、客席や会場を濡らさぬよう魔石の装置で制御して、対策済みだ。
その他にも、さらに種類を増やした光の演出や、シルヴィオくん渾身のレーザーライトなど――バリエーション豊かな演出が、次々と披露されていった。
*
ひと通りの演出を見せ終えると、場の熱気はまだ冷めやらぬまま、次は意見を交わすための話し合いへと移っていった。
「お互い成果を見せ合ったわけだが――率直に言って、どうかね?」
休憩を挟み、別室での話し合いが始まった。
出席者は、ダーヴィトさんと各パートのリーダー、それに第四班の面々。
「オレとしては……これからどう合わせていくかが難しいかなーって思った。単純に魔術を足せばいいって話じゃないし」
「うむ。我々としても、その点が課題のように思う。曲に合わせて、どのような演出にするか……ロベルト、君はどう見る?」
指揮者の相棒とも言える、コンサートマスターのロベルトさんは、私に一瞬だけ視線を送り、それから答える。
「私の経験では、まず曲のイメージをしっかり伝え、その上で演出を構築する。そうしてきました」
そして、はっきりと私を見て「続きは君が」とでも言うような目をする。
……なぜ私に振るんですか。と心の中で突っ込みつつ、しぶしぶ口を開いた。
「えっと……四重奏の1曲目はワルツ調だったので、舞踏会の情景が真っ先に浮かびました。そのままのイメージを踏襲しました」
全員の視線が集中し、話しながらも緊張は増すばかりだ。
背中に汗がじわりと滲む。
「3曲目は、とても疾走感のある曲で……最初は――」
言葉が少し詰まりながらも、四重奏のときの経緯を説明する。
こうして人前で話すのは、大学のゼミ以来だ。あのときは課題の原稿があったが、今回は自分の体験を言葉にするだけに難しさを感じる。
頭の中で整理しても、きちんと伝わっているのか自信が持てない。
「なるほど。では、同じ形式で進めてみましょうか。シルヴィオ、君は?」
「あぁ。四重奏のときもそのやり方で上手くいったんだろ? なら、大丈夫だろ」
――な、ハルカ。
シルヴィオくんが、太陽のように笑って私を安心させてくれる。
こうして、1曲目から具体的な打ち合わせが始まった。
さすがに1日では終わらず、日を改めて2曲目、3曲目と会議を重ねる。
その合間にも、第四班ではテーマに沿った演出方法の議論が続けられた。
――このときの私は、ほとんど魔術士団に張り付き、宮廷楽団の方へは顔を出すことすらなかった。
それが原因だったのかもしれない。
魔法演出をすると決めた以上、私が先導する立場だったのだから。
本来なら、気づかなければならなかったのだ。
「音楽」に「魔法」を重ねることが、この国にとってどれほど特別で、どれほど影響を与えるものなのか。
私にとっては当たり前のライブ演出が、この国では「初めて」の試みだった。
だからこそ、周囲を見渡し、耳を傾ける必要があった。
でも――あのとき、どうすればよかったのだろう。




