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お飾り聖女、光の魔法使いに転職します! 〜愛しさゆえに光の演出(ステージ)を創り出す〜  作者: 綾野あや
第1部 竜の聖女編

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第16話 光跳ねる


 

 昨日と同じ石畳の広場に、ミディーナの姿があった。

 私に気づくと、彼女は演奏を止め、舞台から軽やかに降りてきた。


「そんな、走ってこなくてもいいのに」


 それでも嬉しそうな笑みを浮かべて迎えてくれたミディーナに、頷きつつも息を整える。

 

 走ってきた理由。それは、頭に浮かんだイメージを早くこの目で見たくなったからだ。

 光球が演奏にのって跳ねる様や、スポットライトのように彼女一人の演奏に焦点を当てたり、パート演奏者それぞれのテーマカラーだっていい。

 走っている間も、次々に映像が浮かび上がっていた。

 膝に手をおいて呼吸を整える。久しぶりに走ったから、なかなか息が落ち着かなかったけれど、何とか飲み込んで、ミディーナに顔を向ける。


「ミディーナ、お願いがあるの」


「なに?」


「もう1回、演奏を聞かせて。それで……出来れば、驚かずに演奏し続けてほしいの」


 魔法が使えることを説明してからの方がいいかもしれない。

 けれど、拒否されたら、全てが泡となって消えてしまう。それは、ものすごく嫌だった。せめて、1度だけでも、私の魔法の可能性を確かめたい。

 急なお願いにミディーナも眉をひそめて戸惑いを隠しきれず、少し黙り込んでしまった。

 ドキドキと心臓が口から飛び出そうになりつつ、どうか演奏してくれますように、と思わず手を合わせてしまう。


「ん~…変なことしない?」


「しない、しない!絶対にしないし、その……楽しい、と思う」


 あの空間に立つすべての人が、輝きを与えられていた。

 ライブは歌手だけじゃなくて、バンドメンバーにもライトは当たっていたんだ。

 同じようにキラキラと輝いていて、私よりもずっと年上の人ですら、少年みたいにはしゃいで盛り上げてくれる。ステージは、誰もが主役で特別な空間だった。その空間が大好きで、恋焦がれるような空気があった。


 もしかしたら、この世界でも見ることができるかもしれない。

 しかも、この手で――――この魔法で、作れるかもしれないんだ。

 私が感じてきた想いを、あの感情をかき乱されるような快感を、誰かと共有したいと強く願ってしまう。


「それならいいよ。希望曲は?何かある?」


 スッとヴァイオリンを構えて準備を整える。曲名はわからないので、明るくてテンポが速めの曲がいい、とリクエストしてみた。

 彼女は頷いて目を閉じると、ゆっくりと弓を動かし始める。そして、スローテンポから少しずつ動きが細かくなっていく。ヴァイオリン特有の流れるような旋律と小刻みな波が噛み合って、自然と手拍子を打ちたくなってきた。


 一定のテンポがわかってきたところで、まずは、私の平の上に赤とピンク色の光球を生み出す。

 演奏の邪魔をしないように、大道芸のジャグリングのような感覚で音に合わせながら両手の間を行き交わせたり、上に投げて跳ねさせるような動きをしてみる。

 ミディーナの様子を窺えば、驚いた目は光球を少し追っているけれど、手の動きは全く止まらない。さすがプロだ。

 そのプロの目には、驚き以上の興味と興奮が宿っているのが見え隠れする。

 それから、少しずつ私の手から離していく。

 

 私とミディーナの中間くらいの距離で同様に跳ねさせたり、螺旋を描いたり、自由に動ける様子を見せる。

 彼女もそれがわかってきたのか、この光を受け入れるように柔らかくも力強い笑みを浮かべると、大きく弓を動かし、メロディが情熱的に動き始めた。

 

 大丈夫かもしれない。

 

 手を広げて、光球をミディーナの方へ明け渡す。

 すると、私のジェスチャーが伝わり、曲が疾走感を上げてフィナーレへ近づく。

 赤とピンク色の光が彼女の周りで、下から上へと螺旋を描き、早く回ることで光の軌跡が残る。

 響き渡る音色が、まるで光となって広がる円が見えるようだ。


 そして最高潮に盛り上がり、大きく弓を引き抜いたところで、演奏が終わった。


 お互いに息が切れて、大きく肩で深呼吸する。

 想像以上に魔力を使ったのか、紋章のところがほんの少しだけピリピリと痛い。

 けれど、そんなことよりも――――


「ねぇ……!」

 

「楽しかったねっ!」

 

 二人して同時に声をあげてしまい、思わず吹き出して笑った。

 この世界で、こんなにも清々しい気持ちになったのは初めてだ。

 思い描いていたライブのような演出と、魔法だからこそ自由に動ける部分があった。

 そしてその結果、ミディーナの音が更に際立つような、より引き込まれるような魅せ方ができた。それが、なによりも爽快だった。彼女の魅力を私の魔法で引き出せるんだと、わかったからだ。


 ひとしきり笑ったところで、ミディーナがまじまじと私をみると「ねぇ……これ、魔法?」と聞いてきた。


「あっ……うん」


 ミディーナも、魔法と魔術が違うことは知っているはずだ。

 この世界の人間が扱うのは、呪文を唱えて発動させる『魔術』――あくまで技術としての力。

 でも私は、ただ想像しただけであれを形にしてしまった。

 呪文も、道具もない。それは、『魔法』と呼ばれるべきものだった。


 だからこそ、怖かったんだ。

 

 人ならざる力は、身を滅ぼす。

 さっき、そう肝に銘じたばかりなのに、それをすっかり忘れて、ライブのような魔法の演出に夢中になってしまった。

 ミディーナは、それを受け止めてくれるだろうか。

 

 けれど、私の不安は、すぐに掻き消えた。


「……すごい、すごいよ! 初めて見た! さすが、竜の聖女様だね!」


 ミディーナの目が輝いている。その純粋な称賛の言葉に、心からホッとする。


 ――――竜の聖女。


 この魔法は、私だけの力じゃない。

 薄明竜と契約したからこそ得られた、特別な力だ。


 そう思えば思うほど、胸の奥が、ほんの少しざわめく。

 この力は、誰かにとって「ずるい」ものになるかもしれない。

 思い出したくない記憶が、ふと頭をよぎる。けれど、それを振り払うように首を横に振った。


 だからこそ、この世界で誰かの役に立ちたいと思ったんだ。

 そして今、目の前で笑うミディーナが、その気持ちを肯定してくれる。


「ね、ね、もう1回やろうよ! 今度は、ゆっくりした曲にする? それとも別のがいいかな?」


 ミディーナはまだ興奮冷めやらぬ様子で、楽しそうにあれこれと曲名を挙げていく。

 私は曲名だけではよくわからないけれど、曖昧に頷くだけでも楽しかった。

 彼女と共有できる時間が、ただ嬉しくて仕方ない。


「そうだ! ねぇ、ハルカ。今度、王太子殿下主催の小さな演奏会があるの。そこで、発表してみない?」


「えっ?」


 王太子殿下ということは、ウィリオット王子のことだろうか。

 初対面で「地味な女」と言われ、舌打ちまでされた。あの威圧的な態度も苦手で、正直、できれば会いたくない相手だ。


 けれど、ミディーナの期待に満ちた眼差しに見つめられると、とても断ることなんてできなかった。


「えっ、と……うん」


「決まりね!」


 ミディーナは嬉しそうに手を挙げ、「さっそく、みんなにも言わなくちゃ!」とその場を飛び跳ねそうな勢いで言った。


 (……って、演奏会!?)


 その場では頷いたけれど、私はその言葉の重みに、今さらながら途方に暮れていた。


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