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お飾り聖女、光の魔法使いに転職します! 〜愛しさゆえに光の演出(ステージ)を創り出す〜  作者: 綾野あや
第1部 竜の聖女編

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第13話 レッスンを始める前に


「……案外、大胆なんだな」


「そうかな?」


 薄明竜が小さくため息をつく。私としては、少しでも薄明竜が楽になればと思っただけだ。

 確かに、椅子を投げ入れるなんて普通はしないけれど――

 

 *


 翌朝。朝食を終え、椅子を手に塔へ向かおうとドアに手をかけたときだった。

 

 (そういえば、椅子……)


 と、昨日のことを振り返る。

 契約の最中は立っていたけれど、ミディーナの話をしているときは、私は椅子に座っていた。その一方で、薄明竜はずっと立ったままだったんだ。


 竜が地面に座るというのも変だし、これからレクチャーが始まれば、きっと疲れてしまうだろう。


(それに低燃費だし)


 少しでも負担を軽くするためには、座ってもらうのが一番だけど、その椅子がここにはない。


 ―――チラリと背後に目線を送って、ロレッタさんの方を見る。

 

 相変わらず、テキパキとベッドメイキングをして、掃除に取り掛かっていた。困ったことやお願いごとがあったら彼女を通してから、と言われた以上は、聞いてみるしかない。


 ギュッと手を握りしめて、忙しそうな彼女に思い切って声をかけた。


 椅子を二脚欲しいこと。できれば、ふわふわで座り心地のいいものがいい、と伝える。二脚、というのは、この自室と竜の塔、それぞれに置きたいからだ、と説明づけた。 

   

 表面上は、両方とも私が使うってことにして、実際の竜の塔用は薄明竜に座ってもらうことにする。そうすれば、少しは楽になって話しやすいはずだ。私はいつも使っている椅子のままでいい。


 ロレッタさんは一瞬、目を大きく見開いて驚いたようだったが、すぐに「気づかず申し訳ございません。すぐにご用意いたしますね」と、どこか嬉しそうに微笑んだ。

 お願いしてるのに、と思ったけれど、ロレッタさんは「ご要望をおっしゃらないので、心配しておりました」と柔らかく目を細める。

 

 (……本当に頼りになる、メイドさんだなぁ)


 ロレッタさんの好意をありがたく受け取りつつ、椅子が届くまでに、どうやって薄明竜に渡すかを考えなければならない。


……少しくらい無茶をしても、きっと彼なら受け取ってくれるはず。


 薄明竜に事情を説明してみたところ、困ったことに、牢には鍵がなく、内部に入ることができない構造になっていた。


 そこで私は、格子の隙間や、薄明竜の力でスペースを作れないか尋ねてみる。すると、この格子は「魔鉄」と呼ばれる特殊な素材でできており、魔力を込めることで、形や硬さが変幻自在になることがわかった。


 まるで鳥かごのようなこの格子も、その性質のおかげで成り立っているらしい。さすがの薄明竜でも、簡単には破壊できないという。


「それなら、次の手は――」


 私はふと上を見上げ、小窓に目を向けた。窓はだいたい2階ほどの高さにあり、他の小さな窓に比べて一回り大きい窓が1つあった。

 鍵がない以上、薄明竜の食事である牛の丸焼きは、地上からではなく、あの場所から投げ入れられているのではないかと気づく。


 実際に外に出て確認してみると、鉄の扉とは反対側に、塔に沿って階段があった。試しに登ってみると、先ほど見た大きな窓の前にたどり着く。


「薄明竜」


 窓から顔を覗かせると、薄明竜はギョッとしたように目を見開き、驚いた顔をした。すぐに眉をひそめて怪訝な表情に変わったが、その反応がなんだかおかしくて、私は心の中で小さく笑ってしまう。


(……すごい。あれ、レアショットだったのかもしれない)


 窓の大きさを見る限り、椅子を投げ入れても、薄明竜なら受け止められそうだ。

 そう算段がついたところで部屋に戻ると、ちょうどロレッタさんが椅子を運んできてくれていた。

 そして、無事にその椅子を薄明竜に届けることができた。


 *


「竜型なら、椅子をキャッチできると思って」


「それは……まぁ、そうだな。……まあいい、説明を始めるとしよう」


「よろしくお願いします」


 本棚にあったメモ帳とペンを膝に置き、聞く体勢を整える。勝手に拝借してきたけれど、たぶん問題ないはず。


 まずは、魔法と魔術の違いから説明が始まった。ものすごく簡単に分けると、「魔法」は人間以外の存在が使うもので、「魔術」は人間用、といったところだ。


 『魔素』と呼ばれる空気中の物質を集め、それを力に変えることで『魔力』が生まれる。

 その魔力をそのままの形で、炎や水といった形態に変化させるのが『魔法』。


 一方で、それらの変化を理論的に構築し、呪文として定式化することで、人間にも扱えるようにしたものが『魔術』。この世界の人々は、主にこちらを習得している。


 けれど、私はこの世界の人間ではないため、『魔術』は使えない。

 けれど、薄明竜と契約したことで、例外的に『魔法』を使うことができるようになった、というわけだ。


「ここまでは理解できたか?」


「うん。ということは、私も勉強すれば魔術も使えるようになるの?」


「そうだな。魔術を使うことは可能だが―――見たほうが早いな」


 そう言って、薄明竜はすっと立ち上がる。


 両手の人差し指を立てると、片方からはすぐに火球が現れた。もう片方は「炎よ、円を描け」と小さく呟いてから、同じく火球を生み出す。

 そして「どちらがいい?」と問われ、私はすぐに違いを理解した。

 再び椅子に腰を下ろした薄明竜が、補足するように言葉を続ける。


「だが、魔術にも利点がある。――複雑な効果や、永続性だな。この魔鉄もその一例だ。これは、鉄に魔力を注いで作ったものだが、そこに呪文を組み合わせることで、炎を宿す剣や、防御力に優れた鎧を作り出せる」


「なるほど……ってことは、魔石も似たようなものなんだね」


 私の部屋の水場について話すと、薄明竜は大きく頷いた。

 今のところ、私が使えるのは『魔法』だけだけれど、しっかり勉強すれば『魔術』も扱えるようになる。


 複雑なことをするには、魔術の方が適しているかもしれないけれど――そこに到達するには、きっと時間がかかるだろう。

 それに、まだ私の魔力回路は小さく、きっと初歩的なことしかできないはずだ。


「……薄明竜、魔力回路が増えれば、その分、複雑なこともできるようになるの?」


「それは違うな。あくまで、回路は“魔力の供給量”だ。

供給量が増えるだけで、魔法の“質”とは別の話になる。……そうだな、さっきの火球が大きくなるだけで、例えば“敵を追尾する”といった複雑な動きとは関係がない。そういうことだ」


 単純に薄明竜との繋がりが深まれば、それだけ魔力の供給量も増えるということだ。

 歴代の聖女はどのくらいの魔力を使えていたのだろう。ようやくスタートラインに立てたんだ、目標があった方がいい。


「なるほど……じゃあ、前の聖女って、どれくらい魔法が使えたの?」


 魔法か、もしかしたら魔術かもしれないけれど――そう口にしかけた時、薄明竜の表情が曇った。

 眉間にうっすらと皺を寄せ、彼は言いにくそうに言葉を探している。


「ハルカ……まさか、聞かされていないのか」


「えっ? なにが?」


「――あの女、マルタエル以降の聖女は、すべて“お飾り”だぞ」


「…………え?」


 “お飾り”という言葉が、耳に張り付いたまま離れない。

 まさか、薄明竜からも告げられるとは思ってもみなかったからだ。

 一体、どういう意味なのか――思考が追いつかなかった。

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