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46:ラビット四姉妹

 


 白い仮面をつけていると、遠くまでよく見える。



 火の輪くぐりをしてみせた鳥のような衣装のピエロは、ドレスの裾に火がついてしまったようだ。防火対策なんてされていないためあっという間に燃え上がった。


 ココロが重くなる。


 けれど……周りにいた彼女のショー・ペアが炎を消してくれていた。ほっと一息。

 意識しすぎたら、いくら心配しても足りないな。


 パレードにいるのは実力者のショーマンばかりなんだ。

 彼女らが持ちこたえてくれることを、祈ろう……。


 鞭の音。無視スルー

 コケる音。無視スルー


 ボクは、ずっとかけだしのピエロに手を伸ばしてきた。だからスルーがすごくつらい。でも、ピエロの地力を信用するしかない。

 ボクだって傷だらけの足でも歩み始めたみたいに──。


「リュウ……。はー、無理するよな。体からココロのカケラがこぼれてるぜ。ただでさえククロテアの外気に触れるだけでも魔力は奪われるんだから、早く終わらせるぞ。

 ココロを削られないように、俺様からひとつアドバイス、この動きはみんなのためになるモンだから、大丈夫」


 オーメンの言葉はボクを信用させる静かな力が宿っていた。


「”全く痛みを伴わなくて与えてもらうだけの者は、そのうち甘えてダメになっちまう”──本で見たことがあるだろう?」


 前の方から風船がいくつも飛んでくる。

 さらに紛れることができた。

 けれどオーメンの顔が見えなくなってしまった。


「もしかして、ボクの記憶を見たの?」

「あっ。そうでした」

「えー」


 風船をかわしていく。

 体を右にひねり、左にひねり、かつ、前に進めるように風船を押しのける。


「ボクもオーメンの記憶覗いちゃおうかな」

「きゃー!」

「できそうにないな。きっとボクのココロが削れるようなものをたくさん見てきたんだろ。今はココロを削る場合じゃない。だから一緒に行こう」


 オーメンの顔がひょこりと覗いた。

 申し訳なさそうにしていた。


 ──軽口はここまで。


 これから通り過ぎる【ラビット四姉妹】のフロート車は要注意!

 なにせ、とびきり耳がいい。


 イースターのような卵が飾られたフロート車。

 特別背が低い四人のショーマンが横に並んでいる。この四人はひとまとめで幹部相当、という扱いだ。

【ラビット四姉妹】と呼ばれているのは、人間の体にウサギの頭がついているから。着ぐるみというには生々しく、人間と異生物の生きたパッチワークという表現こそが似合う。


 メルヘンな見た目とはアンバランスな「銃」を抱えている。


 パパパパパパ! ……軽快に打ち鳴らす。

 ラッパの音と合わせてのパフォーマンスだけど、実弾が込められている。


 彼女らはパレードの主要警備を務めている。

 警備をする者たちの総取締役といっていい。


 パフォーマンスと威嚇を兼ねた彼女らが、パレード上に……。

 そして橋の下にはひっそりと警備隊がいる。

 うごめく[廃棄の仮面]から成る影たちが、あちこちをうろうろしているのが真下に見えていた。アレはルールに従って動いていて、おそらくは”パレードを止めるようなものがあれば攻撃しろ”……なんだろうな。

 魔法道具のように、プログラムがもう刻まれている。


 ”不審者”と思われてはいけない。


 さも、パレードの一部です、と装って、ボクたちは空をゆらゆら飛んでいく。

 ああ、ドキドキする!

 悪い意味で!


挿絵(By みてみん)


(橋の下、橋の上、それがダメだとふんだから、空をきた。…………………………ふう。正解だね……!)


(すげー。やりやがったぜリュウー!)


(正面から戦って勝てない実力差を認めること。それでも反抗したいなら、よく工夫すること。ボク、頑張るよ)


 ユメミガチのフロート車、ラビット四姉妹のフロート車、サカイの檻のフロート車……と、この順に通り越していかなくてはいけない。


 さあ、通り過ぎてゆく。

 耳を澄ませて──。

 声が聞こえる──。


 ギクリ。


「あれなに」

「どれよ」

「ほら上」

「上ええええ?」

「何か珍しいのがいるね」

「排除する?」

「排除いる?」

「排除すべき?」

「排除用?」


 四姉妹の声! え、ええと、可愛いポーズでもしておく!?


「「「「ジーーー」」」」


 視線を感じても、無視、無視、無視。ボクたち真面目に仕事してまーす。

 不審者枠にさえ引っかからなければいいんだもん!

 ほら!

 ボク可愛いね!!!!


「「「「まあいっか」」」」


 よかった!

 ココロが削れました。


「「「「あっ、芸のタイミング」」」」


(今!?)

(リュウの運がわるいぜ!)

(オーメンもでしょ!)


 なんと、ボクらはスルーされたものの、元々のパレードの芸が始まってしまった。

 どうすればいいのかなんて打ち合わせはされてない。

 このままかわいこぶってるだけでいいの!?


 ラビット四姉妹は、あらゆるものに対して銃をぶっ放す!!!


 ちなみに……

 下に撃てば観客に当たるからNG、前後に撃てばパレードに当たるからNG、となれば上空に撃つしかないわけで。


(うわーーー! 風船割ってるじゃん! オーメン右行って右、次は左で前で後ろぉ! ゲームのコントロールみたい!)


(知らねーけどまた教えてくれよなぁ! 死ぬなリュウ! 球避けて生きていこーぜ!)


(実力で実弾避けられたらすごくない!? 無理では!?)


(無理だろうとやるんだろうよ!)


(ひーっ。せめて球が少ない空間に寄って行こう。ラビット四姉妹は真上に撃っているようだからさ……)


「あ」


 ラビットの一人が銃を滑らせた。

 そしてボクの風船が割られる。


 ちょっとーーーーー!?


 こんなふうに偶然、当てられてしまうなんてーーー!



 風船と銃の相性は当然、最悪。

 いくつもの風船が割られてしまって、ボクはがくんと高度を下げる。


 サカイの檻がもう見えてきてるのに……!



 平泳ぎをするように空を進もうとする。

 オーメンはできもしないのにボクを引きあげようと、腰のリボンを自分に引っ掛けて一生懸命浮遊してる。


 ボクらはみじめでも泥臭くても必死にやるんだって決めたんだ。どうか終わりませんように。こんな時に神頼みだなんて!


<つまらないな。……ん? 面白くなってきたかも!>


 何か聞こえた。


 ふと、爆音が耳をつんざく。

 腰のあたりが締め付けられる。


「ぐええ……!」

「なんだこれ」


 黒い服を着て顔をヘルメットで覆っている異様な姿の人。

 空に浮かぶバイク。

 ボクはこの人に腰ラリアットを食うような形で、空中にとどまっている。オーメンはいかにもリボンの飾りですけど?って感じで無機物を装っている。


 たらーり、ボクの頬に汗が流れる。


 これはもしかして、空の警備員に見つかってしまったんだろうか……!?




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