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(7)初お邪魔、前田クリーニング店3

「へっ? なにがぁ?」

のほほんと顔を上に上げ、問い返した。

「おまえなぁ、俺んちの看板をぶっ壊す気かよ!」

座ったままの比奈子を見下ろすように怒鳴った。


「どうしたんだ、豊。比奈ちゃんが驚いているじゃないか」

「そうよ、やーね、女の子に向かって、恐い声出しちゃって。怯えてるじゃない!」

五郎太と恵子は、そう言うが、比奈子は驚いても怯えてもいない…。

根性だけは座っている。


「ちょっと来いよ!」

「なに、なに!」

豊は比奈子の腕を掴み、無理やり立たせ、柏餅を握ったままの比奈子を、引きずるように店の外に連れて行くと、看板の前で振り放すように比奈子の腕から手を放した。

「これ! なんだよ!」

「私の自転車…よ?」

と、かわいく首をかしげているが「どれがどうした」みたいな顔をした。


「おまえの自転車ってーのは、わかってんだよ! なんでこの看板に繋いでんだって聞ーてんだよ!」

豊は比奈子を睨みつけながら言い、その横でわけのわからない顔の慎太郎と、二人の後を追いかけてきた五郎太と恵子が、事の成り行きを見守っていた。

「え、だって、自転車繋ぐとこなかったから、ちょうどいいところにコレがあって…」

比奈子が指さした看板は、自転車の重みで少し傾き、ゆらゆらと揺れていた。


「ぉお、比奈ちゃん、良い自転車乗ってんだねぇ」

「おじちゃん、これBMWだぜ?」

「うん、先月買ってもらったんだぁ~」

五郎太と慎太郎が言い、比奈子がうれしそうに答えた。


「おやじ! 慎太郎! そんなことは問題じゃねーんだよ!

 うちの看板が、壊れそうなのになんとも思わねーのかよ!

 今、この家には買い換える余裕は、ねーんだぞ! 比奈子、早く外せよ!」

豊が、揺れる看板を手で押さえ、比奈子に顎をしゃくり言った。

「看板の一つや二つ、小さいこと気にするわね、天パーは! ゆってぃの爪の垢でも貰えば?」

「うっせ! 大事な看板なんだよ! それにあいにく、ゆってぃとは知り合いじゃないんでね!」

比奈子は、柏餅を全部口に押し込み、豊に言われるまま、しぶしぶごっついチェーンを外し、籠の中に入れ、唇を尖らせた。


「外したわよ……」

口をモグモグさせながら言った。

「よし! じゃ、おまえ帰れ! 仕事の邪魔だ」

「はぁあ? まだお茶飲んで、」

「帰れって言ってんだろーが!」

店の外で怒鳴り散らす豊を歩行者に見られ、五郎太と慎太郎は豊を制止した。

比奈子は五郎太と恵子にお辞儀をして自転車に跨り、漕ぎ始めた。


「けっ! 二度と来んじゃねーぞ! ダチョウのヒナ!!」

比奈子の後ろ姿に怒鳴ったが、当の比奈子は、後ろ向きのまま片手を挙げて、「バイバーイ、また来るね~天パー」と手を振り、自転車を飛ばした。


豊は、五郎太と恵子に怒られたが、聞く耳を持たずムッとした顔で、看板を直し、店に入って行った。

「豊、あの子誰だよ。かわいーじゃん」

慎太郎が興味深深で訊いてきた。

「ぁあ?! 慎太郎、おまえ目ーおかしいんじゃねーの? 脇田眼科にでも行って来い!

 んがぁぁぁぁ」

慎太郎に向い、吠えた。

「なんだよ、まぁ、いいけどよ。とりあえず、来週コンパだからな」

そう言うと、配達途中の頭をかきながら慎太郎は、軽トラに乗り、去って行った。


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