番外・小窪ちゃんの恋はデンジャラス(1)
オレは…小窪ちゃんと呼ばれている…
無口だ…
人と話すのが、苦手だけど…八百屋だ…
親父に「客商売なのに、おまえは愛想がない」そう嘆かれるけど、
お客さんは沢山来てくれる…
なぜか隣町からきてくれる人もいる…
時々、豊や慎太郎には「俺たちに流し目をしてどーすんだ?」と言われる。
流し目の意味が、オレにはわからない…
わからない…
わからないまま、今日も店先に立っていた。
「小窪ちゃ~ん、今日も無口で頑張ってる?」
酒屋の慎太郎だ。
いつもコイツは、夕方の忙しい時にやって来ては、女性客に愛想を振りまき、自分の配達の仕事をほったらかし、うちの店を手伝っていく。
目的は、うちに来る若い女性客とのコミュニケーション…らしい。
どうしてか、うちは普通の八百屋なのに、主婦ではない若い女性客も多い。
慎太郎は愛想がいいので、オレとしては、助かっている。
ただ、時々、美人なお客さん限定に、勝手にグレープフルーツのおまけをつけてしまう。
グレープフルーツは、結構な値段だ…、困る。
「小窪ちゃん~、こっちのお客さん、じゃがいもとネギだって~」
慎太郎に言われ、じゃがいもとネギを袋に入れていた……
あっ、今日も来た…
「小窪青果店」の向かいにある「和菓子のくらもと」に、一人の女性が入っていく。
最近よく見かける女性。
商店街は、飲み屋やコンビ二などの店を除いて、夜八時に閉まる。
彼女は、平日七時過ぎに来て、土日は、夕方に来ることが多い。
今日は土曜日だから、この時間なのか…
オレは、彼女が気になっている。
「和菓子の君」だ!
そんな彼女を目で追う。
「小窪ちゃん! じゃがいもとネギ!! 何やってんだよ!」
慎太郎が、ボーっとしていたオレの手から、袋を取り上げた。
「やだ、慎ちゃん。そんな怒鳴ったら小窪ちゃんが可哀相でしょ!!」
「そうよ、そうよ。小窪ちゃん、大人しい子なんだから。あんたと違うんだからね」
近所に住むおばちゃん客が、慎太郎を責める。
「んだっ! おばちゃんたちー、俺が悪いのかよ! 今日は二割増しにすっぞー」
「やだわ、慎ちゃん、あんた悪徳商法だわよ、そんなの!」
慎太郎とおばちゃんたちが、楽しく語りあっていると、
あっ、出てきた…彼女、笑顔だぁ。
「和菓子の君」が、いつものように「くらもと」の袋を提げて出てくると、そのまま来た道を戻る。
うちの八百屋に立ち寄ったことは、いまのところ一度もない。
そしてオレは、いつものように、彼女の後ろ姿を目で追った。




