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番外・晴れた日に(2)

夕食を共にする予定の豊たちは、約束の7時に、小鳩家に到着した。

豊がチャイムを押すと、比奈子が玄関を開けた。

「いよっ! おっちゃん、おばちゃん、天パァ~」

「パァ~じゃねーつてんだろーが! パーだ! 違うっ! 天然パーマだ!」

二人の代わり映えしない会話も耳に入らないほど五郎太と恵子は、緊張で足がガクガクし、もつれそうになりながら、比奈子の後に付いて、二階に上がりリビングの前に来た。

「ひ、比奈ちゃん…、おばちゃん、緊張しちゃって…」

「大丈夫だってば!」

ド緊張のため、頭に血が回らず、貧血を起こしかけている恵子の手を握った比奈子を、豊は愛しく見つめた。



「お母さん? 豊たち来たよ? あれ?」

恒和と志乃の姿がなかったが、「お母さん!?」と比奈子が声を張ると、畳部屋から志乃が出てきた。

「まぁまぁ、お忙しい中、ありがとうございます」

志乃と五郎太たちが丁寧に挨拶を交わしていると、ムスッとした顔で少し涙目の恒和が、畳部屋から、顔を出した。


「比奈子…、お父さん、おでこのところ腫れてない?」

豊が小声で訊いた。

「……う、うん。どうしたんだろう…ね?」

往生際の悪い恒和は、比奈子が玄関に行っているときに、自分の書斎に逃げ込もうとし、志乃に捕まり、デコピン5発を連続で受けていた。

恒和は五郎太たちを見て、一応、頭は軽く下げたが、ニコリともしない。

比奈子の父親は、交際を反対している、と聞かされていた五郎太と恵子だったが、自分達に会ってくれただけでも、ホッとした。


ひとまず、お互い、父・母・本人同士で向き合い、ソファに座った。

「残念ですが、このお話はなかったことに、」

いきなり恒和が言いだすと、隣の志乃が恒和の足を踏み潰し、背中の肉を抓った。

「っ……痛い…」


「小鳩さん…」

五郎太が、恒和を見て話出した。


「小鳩さんのお気持ちは、とてもよくわかります。私共には娘はおりませんが、

 娘にしろ息子にしろ、自分達にとっては大切な子供という気持ちは同じです。

 町の小さなクリーニング店の息子と、大切なお嬢さんとの付き合いを不安に思われるのは、

 無理ないと思います。

 豊は…、自分の息子を褒めるのは、親ばかと言われてしまうかもしれませんが、

 豊は、親思いで良いヤツなんです。たぶん、コイツも自分の夢とかあったと思うんですけど、

 次男坊なのに、店を継ぐって言ってくれて、店の仕事を一生懸命やってくれています。

 うちは、あまり裕福とは言えませんが、豊も比奈子さんに対して本気でお付き合いさせて

 いただいております。比奈子さんを大切にするという気持ちは誰よりももっているんです。

 どうか、二人の仲を許してもらえないでしょうか」

「おやじ……」

五郎太が立ち上がり、恒和に頭を下げる姿を見て、恵子も立ち上がり、頭を下げた。


そんな二人を見て、豊が立ち上がり口を開いた。

「お父さん! 俺は真剣に比奈子さんとお付き合いさせてもらってます。

 金は無いかもしれないけど、比奈子さんをしあわせにする自信はあります」

恒和に頭を下げる三人に、志乃は、頭を上げ座るように言い、ムスッとした顔の恒和がチラリと志乃を見たら、ジロリと睨み返された。

「あなた、なにか言ったらどうですか?」

志乃の冷ややかな声が、恒和を急かす。


「……、豊くん、私が反対している理由は、君にお金が無いからではない。

 お金なんてものは、普通に暮らしていかれる分、あればいい」

と、言う恒和の言葉に比奈子と志乃は思った。

おまえが言うな! 

おまえの普通の暮らしって、なんじゃい!?

金はどこからか湧いてくる…と思っている恒和に言われたくない。

そんな二人の心も知らず、恒和は続けた。


「比奈子は、志乃と私の大切な大切な娘だ。しあわせになることがなによりの願いだ。

 豊くん、君が比奈子の相手だから反対しているわけではない。

 比奈子が誰を連れて来ても……ボクは、反対だぁああ!」

「「はぁ?」」

比奈子と志乃は、思い切り顔を恒和に向け言った。

「お父さん、なにそれ!」

「あなたバカじゃないの!?」

呆れて、ものも言えなくなる。


「あなた! ほんとうにいいかげんにしてください! 子供みたいに駄々ばかりこねてっ!! 

 あー、もぉ腹が立つーー!!」

「痛い! や、やめろ、志乃!」

志乃が恒和を本気で叩き出し、周りは立ち上がり、止めに入った。

恒和は頭を擦りながら、志乃を見ると、ゼィゼィと息を切らしている。

志乃の本気の怒りを察した恒和は、きちんとソファに座り直した。

「わかってるよ…、ボク一人が反対しても、どうにもならないことぐらい。

 ちょっとくらい駄々こねてもいいだろう…」

と、俯き、ボソボソと言った恒和は、ひとつふたつ咳払いをしたあと、顔を上げ、豊の方を向いた。


「天…、いや、豊くん。比奈子や志乃から聞いているとは思うが、

 比奈子は私たちとは血は繋がってはいないが…、本当は誰にも渡したくないくらい大切な娘だ。

 しかし! 比奈子が豊くんが良いと言うなら、しかたがない…。とりあえず、認めよう」

と、言う恒和に志乃は

「ほんとうに認めてくれるんですね? あなた?」

と、念を押した。

「あー、そうだよ! 認める! 認めてやる!」

恒和が言うと、

「ありがとうございます」と、五郎太、恵子、豊は、深く頭を下げ、礼を言った。


「まだプロポーズもしていないようだし、先のことはまだ、わからんし、」

半ば、やけくそに言う恒和の目の前に、比奈子は手を伸ばした。

「あっ、お父さん、私プロポーズされてんだわ。ほれっ!」

と、比奈子は指に光る指輪を見せた。

「ァア!? お父さんは一言もそんなこと聞いてないぞ! 比奈子! 

 今日は交際を許してもらうためにここに来たんじゃ、」

驚く恒和を遮るように、

「あなた、ただの交際を認めてもらうだけで、お父様とお母様と三人で、

 わざわざ来ていただくわけないじゃない? 今日は、二人の結婚の話でしょう? 

 もぉ、にぶいわね~、まったく。

 とにかく、お父さんも認めてくれたし、さっ、お食事にしましょうか。

 みなさんもダイニングの方に、どうぞ」」

と、志乃はにこやかな顔で言い、豊たちをダイニングに誘導した。


「ぁぁああ!? …………」

口をパクパクさせる恒和をソファに残し、ダイニングに向かった。

「お父さん? 何してんの~? ご飯食べよう~」

と、比奈子は恒和の腕を持ち、ソファから立ち上がらせた。


「お父さん、ありがとう…」

比奈子が小さい声で、笑顔のまま言うと、恒和は、

「くっ……うっ……」と、腕で目をゴシゴシっと拭いた。




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