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そのいち




――1――




 ぽつぽつ。

 ざぁざぁ。

 重くて暗い雲の下。

 導かれるままにふらふらと。


(さむい、つめたい)


 髪も服も体も。

 濡れていないところなんてひとつもない。


(ええ、はい、わかってます、“―――――”)


 この日のために。

 この日のためにだ。

 はい、わかっています。

 わかっているな。


(はい)


 わかっている。

 どんなに頑張っても、運命は変わらない。

 どんなに足掻いても、宿命はねじ曲がらない。

 わかっていた。


(ごめんなさい)


 狙うのはひとり。

 “―――――”がより力を付けるために、“――”の中でも一番“―”い人。

 ずっと観察してきた。その力を取り込んで、大きな欲を満たすために。


 ずっと。

 ずっと。

 息を、潜めて。


(ごめんなさい)

(ごめんなさい)

(ごめんなさい)


(今まで、たのしかった、です)


 わたしの時間はここで終わり。

 “―――――”が目覚めてしまったから、わたしは明け渡さないとならない。

 わたしが“―――――”に与えられた時間は、もう使ってしまったのだから。


(だから)

(どうか)

(おねがい)

(だれも、わたしを)


 足音。

 気配。

 わかってしまう。


(見つけないで)

「鈴理!」


 青い髪。

 灰銀の瞳。

 幼さの残る整った顔立ち。

 表情には心配、焦り、安堵。


「こんなところに居たのか。みんな探していたよ」

「かがみ、せんせい」

「さ、帰ろう。事情を聞きたかったけれど、先に医務室だ。いいね?」

「あの、せんせい」


 こんなわたしを、こんなに心配してくれるのに。

 わたしは、“―――――”、ああ、はい、わかって、います。


「もうすぐ未知も四国から戻る。僕に話しづらいことなら、未知に話すと良い」

「は、い」


 師匠。

 大好きな、未知先生。

 わたしに希望を、くれたひと。


(はい、わかっています)


 もう二度と、会えないひと。


「先生」

「鈴理? っと、雨の下なんかに居たから、ほら、熱がある」


 よろけたわたしを、鏡先生は受け止めてくれる。

 そんな優しい鏡先生の首に、抱きつくように手を回して、口づけをするように近づいた。


「ごめんなさい――いただきます」

「え……なっ」


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 謝って許されることではないと、理解しています。

 だから、どうか、お願いです、鏡先生、師匠、夢ちゃん、リュシーちゃん。


 わたしを。




(ゆるさないで)




 ぽつぽつ。

 ざぁざぁ。

 雨が、降る。





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