そのいち
――1――
――ああ、これは夢だ。
雪の降る夜だった。
積もる雪が、肌を刺す、寂しい夜だった。
『――え? そんな、だって、もう、戦いは終わったのに?』
警察から入った一本の電話。
大魔王を討伐したその日に掛かってきたたった一本の電話で、私は両親の死を知った。
飛行機の墜落事故。後に“最後の犠牲者”と呼ばれた、乗客全員“失踪”の事件。助かるはずも無い状況。致死量の血痕多数。けれど、遺体だけはどこにもなかった。
『お父さん、お母さん――いやだ、やだよ! 平和になった世界で、みんなで、旅行に行こうって言ったのに! うぁ、ぁあ、あああああああああああああああっ!!』
やっとの思いで決意して、魔法少女であることを両親に打ち明けた。
当初、予定されていた海外赴任。本当なら、ただの無力な子供であったのなら、一緒についていくはずだった。でも、新宿に悪魔が現れると情報があって。
だから、魔法で追いつくからと説得して、先に出発して貰った。
もしも、一緒に行くために待って貰っていたら。
もしも、私がただの子供で、手が掛かるからと赴任を断っていたら。
もしも、一緒に乗っていたら。
尽きぬIFに心を焼いて、もう一つの“もしも”を願った。
もしも。
異能の力を持たない人間にも、力があれば。
『【修祓奏上・現想・秩序創造】』
もしも。
誰しもが、自分の力で自分を守れたら。
『【幻創・力なき者に新たな才を】』
もしも。
誰しもが、愛する誰かを守る力を、持っていたら。
『【献饌・命名契約・魔導術法】』
もう。
誰もが、理不尽に奪われない世界が。訪れるのではないのだろうか。
だから。
『【重奏・祈願成就】』
それは最大の魔法。
世界に新しい秩序を植え付ける、禁断の魔法。
なにかを失う感覚を覚えた。必然的に私は、魔法を失ったのだと思った。
魔法を扱うことが出来るとわかった今となっては、このとき、なにを失ったのかわからない。けれどもう、二度と、秩序を変えるような魔法は扱えないことだろう。
だけど、その時はただ。
私が全てを失っても、死者は戻らないことだけは、胸に刻まれるように理解させられた。
雪の降る夜だった。
お父さんは寒がりで、こたつから出てこなかった。
雪の降る夜だった。
お母さんは雪が好きで、よく、一緒に雪だるまを作った。
雪の降る夜だった。
家族で囲んだ料理の味を、今はもう、思い出せない。
――ああ、これは夢だ。
――もう取り戻せない、ユメのオワリ。
――夢と希望に満ちていた“はず”だった。
――孤独な魔法少女の、“エンディング”。
――/――
――PiPiPiPi
――PiPiPiPi
――PiPiPiPi
「ん、ぁ」
カチリ、と、アラームを消す。
なんだかとても懐かしい夢を見た気がする。けれど、夢なんてそんなものなのか、うまく思い出せない。
朝起きて、顔を洗って、仏壇の前に座って手を合わせる。いつもの光景。いつもの日課。
「おはよう、お父さん、お母さん」
日付を見る。
今日は二月十八日。今日から移動して、件の“招待状”に書かれていた場所に向かう。現地での“移動時間”を考慮して、二十一日の決戦を迎える必要がある。
「天気予報は、と、とと、と?」
ありゃ。
二十日の夜から二十一日の深夜まで、くっきりついた雪マーク。早めに移動しないと、現地で痛い目を見るかも知れない。
防寒準備はしっかりとしておかないとなぁ。
「よし」
本来なら国総出で戦力を集めたいところだが、残念ながら向こうは人数を決めてきた。国に報告は済ませたが、相手は七魔王。援軍のそぶりを見せたらどんな動きを見せるかわからないので、英雄だけで赴く必要がある。国からの英雄への信頼の表れでもある。
指定された人数は四人。拓斗さんが彼自身の異能の関係で連絡が取れず、一応、ファリーメアに悪魔撃退の結果だけ見せた私が同行する形で、獅堂と七と時子さんと、四人で赴くこととなった。
ポチが一枠計算で連れて行けないのは痛いが、その分、なにかと巻き込まれやすい鈴理さんにつけておいたので、ある意味では安心して行ける。
この因縁に、決着を付けよう。
この日を、七魔王の最後の日にするために。
この日を、悲劇の“オワリ”にするために。
「お父さん、お母さん――行ってきます」
知らず。
強く、拳を握りしめた。
――覚えてもいないユメに、突き動かされるように。




