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召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章 ハゲは曙。やうやう薄くなりゆく、生え際すこし明りて、斑が目立ちたる頭髪も細くぶち切れる。

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69/90

ハゲ、黄色はカレー好き

前回までのあらすじ!


ハゲの紳士的ノックで対人関係も木っ端微塵だ!

 あっという間に取り囲まれた。

 その数は一目では判断できない。魔人たちの陣形があまりに広がっているからだ。だがやつらは今なお移動し、大鉄扉のあった場所と頭髪を失いし斑ハゲ一行との間にさえ入り込む。


 退路――断たれる。

 リキドウザン先生を先に帰してしまったのは失敗だったと、アイリアは考える。


 全員が殺気立っていた。砦の門を破壊された魔人らはもちろんのこと、膝を軽く曲げて口内で精霊召喚呪文を唱え始めたシャーリーや、幼いルーでさえも。


 妖刀が「抜け」と鞘の中で震えている。

 けれども迷う。妖刀に手を伸ばすべきか、許しを請うべきか。

 つぅと頬に汗が伝った。


 一般的な魔人の個体性能は、当然のようにイエティを凌駕する。ヘドロは別格であるとしても、一体一体はボス・イエティ並みと見て間違いはない。

 冒険者時代に魔人を散々狩ってきたのも、仲間と協力してうまく一対一に持ち込んでの話だ。このように四方を取り囲まれた状態では到底敵うまい。


「どうするの?」


 アイリアが、背中合わせに立つ頭髪が不自由な男に尋ねた。


「うぬ? どう、とは?」


 想定外の返事が戻ってきた。

 唖然としていると、甚五郎がごく当然のように、ふたつ角の黒魔人に片手を挙げた。そうして野太く低い声でにこやかに挨拶をする。


「うむ、こんにちはっ!」

「オオ、コンチャーッスってバカかてめえ!? なんッてことをしやがんだッ!! シャナウェルが侵攻してきやがるかもしんねえってときに!」


 息巻く黒魔人に、甚五郎がやれやれといったふうに肩をすくめ、首を左右に振った。


「貴様が話を聞いてくれんからではないか」

「なんで敵対種族の話なんざ聞かなきゃなんねんだよッ! バカか!」


 もういいだろ、殺っちまおうぜ。

 そこかしこから剣呑な囁き声が聞こえている。


 魔人、およそ一〇〇体。シャナウェル脱出時に王国騎士団を突破したのとは比べものにならないほどに危険だ。

 数こそ少ないけれど、魔人は一体で王国騎士の十人分の力があると言われている。あの頃とは甚五郎も自分も比較にならない強さを得てはいるが、それを差し引いても足りていない。

 当然、魔人であるヘドロはもちろん金狼リキドウザン先生の助力もないのだから。


 アイリアは膝を曲げた状態で隣に立っていたシャーリーの外衣をつまんで引き寄せ、静かに囁く。


「……始まったらルーを連れて逃げなさい……」

「……わかってます……」


 シャーリーが視線だけを合わせて銀髪を縦に揺らした。微かにうなずいたのだ。


 ずいぶんと物わかりがよくなった。てっきり駄々をこねられるとばかり思っていたのだけれど。おそらくデレクの一件で己の未熟さを痛感したのだろう。少しばかり気の毒だが、今だけはありがたい。

 技術は未熟、力は並以下、けれども速さだけは金狼にも迫りつつある。戦闘力よりも、今はルーの安全確保を優先してもらえる人物がいることは心強い。


 ちり、ちり、空気が殺気で焦げ付いている。

 ガンッ、と鉄の音が響いた直後、先ほど甚五郎が吹っ飛ばした大鉄扉が、魔人砦中庭の吹き抜けの空へと大きく舞い上がった。

 砦中庭、空から再び大地へと落下してきた大鉄扉が、誰もいない地面に斜めに突き刺さる。

 轟音とともに地面が揺れた。


 そして大鉄扉の落ちていた場所には――。

 身体中から黒の血液を流しながら憤怒の形相で三体の魔人が立ち上がっていた。


「――ッ」


 アイリアは歯がみする。

 甚五郎による大鉄扉破壊の際、石壁に挟まれて圧死したものだとばかり思っていた。どうやら魔人を相手にするには、少々甘い期待だったようだ。


 一本角の赤魔人、二本角の青魔人、三本角の太った黄魔人、ずいぶんとまたカラフルなやつらだ。


 妖刀、震える。「抜け」と。魔人の血を求めて。

 アイリアは苦々しく呟いた。


「……増えたわよ。どうするの、ジンさん?」

「ぷっ、ぷーくすくす! ぷぶふぉぉ~~~っ! ぶははははっ、貴様ら、並ぶと信号みたいだなっ!!」


 空気を読まず、甚五郎は大笑いしている。

 アイリアは思う。

 この人なんで平気なの? バカなの?

 けれども、血管を通して熱い血液が全身に行き渡るのだ。身体が、羽毛田甚五郎というひとりの男に引きずられるかのように、熱く火照ってゆく。

 マグマのような血液は、冷え切り暗雲としていた心さえも呑み込んで――。

 肉体のスイッチを入れられてしまう。だからこんな軽口まで出てしまう。


「ふ、ふふ、もう! シンゴーって何よ?」

「赤は止まれ。青は進め。黄はカレーンゴが好き、だ」

「?」


 さっぱりわからなかった。

 けれども甚五郎が理解できないなど、今に始まったことじゃない。けれども言葉は力強く、勇気づけてくれる。なんでもできるのだと錯覚させてくれる。

 だからこそいい。だからこそ欲しくなる。

 この漢が。


 赤魔人が頭から湯気を大量に放出しながら、怒り抑え切れぬといった具合に全身に血管を浮き上がらせた。


「フーッ、フーッ、よ、よよ、よくわからんがッ、てめてめてめめえが俺様たちを小馬鹿にしししてやがんのだけはわかわかったぜ……ッ」


 血走った瞳が、血液の黒に染まっていて不気味だ。


「まあまあ、待たないか。私は何も戦いに来たわけではないぞ。あくまでも平和の使者としてここに至ったのだ」

「大鉄扉壊しといて今さらな~に抜かしてんのォ? 怖じ気づいたのかねェ?」


 青魔人が、トントンと足でステップを刻みながら、口もとにニヒルな笑みを浮かべる。

 ばちゃばちゃと黒の血液が散っているが、気にした様子はない。

 赤も青も、魔人の中でも歴戦の猛者なのだとわかる。

 太った黄魔人が甚五郎を指さした。


「……人間、貴様……。――どうして僕がカレーンゴ好きだと知っているッ!?」


 甚五郎が朗々とした声でこたえた。


「黄色はカレー好きだと昔から相場が決まっている。どうだ、貴様。我々はカレーンゴをいくつか所持している。通してくれたら分けてやらんこともないぞ」


 黄魔人が厭らしい笑みを浮かべた。


「やあ、それは嬉しいことを教えてもらった。ぶっ殺してからありがたくいただくよ」

「それ、すっごく魔人らしいこたえだわ」


 アイリアがフードを跳ね上げる。視界を遮るものは邪魔だ。死に直結する。事ここに至っては、もはや正体を隠している意味もないだろう。

 瞬間、魔人たちが一歩後退した。一瞬にしてどよめきが広がる。


「バカな……アイリア・メイゼス……!?」

「ま、魔人狩り……か……!」

「間違いねえ……。俺ぁ見たことがある……」


 戸惑い。不安。けれども恐怖を与えるほどではない。なぜならば、己らが絶対的に優位であることを自覚しているからだ。

 斑ハゲ一行には、万に一つの勝ち目もない。

 むしろ――。


「殺せ……」「……仲間の仇だ」「壊れるまで弄んでから殺そう……」


 魔人の殺気が、膨張する。


「あの~……」


 それまで黙っていたシャーリーが、おそるおそる片手を挙げた。

 アイリアが大あわてで振り返る。


「シャーリー!? ちょっとあんた、目立つようなことは――」


 シャーリーがゆっくりと首を左右に振った。その足もとでは緑の風が渦巻いている。

 その気になれば、いつでもルーを担いで逃げられる準備だけは済ませていた。


「ジンサマ、アイリアさん、そして魔人の方々もなのですが、ご意見少しよろしいでしょうか」


 甚五郎の頬が弛む。

 そうして待っていたとばかりにハレンチメイルの背中を軽く叩き、シャーリーを少し前へと押し出した。


「うむ。言ってやれ。キミにしかできんことだ、シャーリー。安心しろ。私はキミを必ず守るし、最後まで付き合うことも約束する」

「はいっ」


 唖然とするアイリアの前をシャーリーが通り過ぎる。

 そうして胸の高さで両手を合わせ、かわいらしく首を傾げた。


「えっと。わたくし、シャナウェル王国第三王女のシャルロット・リーンと申します」

「……あ?」


 魔人たちの殺気が戸惑いへと変化してゆく。当然だ。今まさに開戦されようとしている国家の王女を名乗る女が、敵である魔人の前にたった数名の従者だけを引き連れて姿を現したのだから。

 鴨葱以外の何者でもない。

 二本角の黒魔人が顔をしかめた。


「本物?」

「はい」


 シャーリーが腰の触媒レイピアを抜いて、刃の付け根に刻まれたシャナウェル王家の紋章を黒魔人へと見せる。


「それだけじゃあ信用できねえな。盗品かもしんねえ」

「可能性は否定できませんが、違う、と言っておきます。そこらへんのことは大した問題ではありませんので」


 あくまでも、にこやかに。


「わたくしたちがこの魔人砦を通過する目的なのですが、魔人王に謁見できませんでしょうか」


 黒魔人が息を呑む。


「……っ!? は、はあ!? 何言ってんだ、おまえ……」


 シャーリーが背筋を伸ばし、先ほどまでとは別の鋭い視線を持ち上げる。


「ゲオルパレスとシャナウェル、両国家の未来のため、話し合いの場を設けていただけないかと申し上げているのです。降伏勧告ではありません。あくまでも両国の友好のために」

「バカな! 我々は人間とは敵対している! そんなことができるわけ――ッ」


 黒魔人の叫びを遮って、シャーリーがぴしゃりと言ってのけた。


「ならば。ならばわたくしたちを人質として、魔人王のもとへ連行してください。その程度の価値はありますよ」


 一呼吸。小娘は厳しい視線で黒魔人を睨む。


「あなたは先ほど、できるわけがないと言いかけましたね。けれど、その決定権があなたにおありなのでしょうか。このことが魔人王の耳に入りでもしたら、あなたはどうなさるおつもりですか?」


 絶句する。人間の小娘に脅されて、黒の魔人が。

 その段にいたり、甚五郎がシャーリーの小さな身体に腕を回し、銀色の髪を静かにそっと撫でた。

 シャナウェル王の隠し子シャルロット・リーンは、まるで仔猫のように気持ちよさげに瞳を細める。

せ、成長しとる……。

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