表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
82/302

AMAZING POWERS#5

 新たなメンバーを迎えて『ドゥーム・パトロール』や『X−メン』のような活動を始めたビリー達。体力面に問題のある新人と共に鍛える一方、悪党同士で相容れない理由によって激突する怪物同士が雄大な野山を震撼させていた。

登場人物

ローワー・イーストサイドの住人達

―ミステリアス・ストレンジャー/ウィリアム・ベンジャミン(ビリー)・フィッシャー…多彩な能力を持つヴァリアント。

―ブラッド・ジョンソン…電撃を操るヴァリアントの少年。

―オリヴィア・アンナ・ウルフ…自身をテレポートできる能力を持つ少女。

―チャールズ・ケネス・クラーク…微弱なブラスト投射能力を持つ30代のヴァリアント。


怪物じみたヴァリアント達

―ウォーター・ロード/ピーター・ローソン…自衛できるだけの力を手に入れ裏社会に潜ったヴァリアント、水を操る。

―ジョン・スミス…ウォーター・ロードと行動する謎のヴァリアント、未知の強大な力を持つ。

―マインド・コンカラー/ケンゾウ・イイダ…ヴァリアント過激派組織ニュー・ドーン・アライアンスを率いる巨漢、地上最強クラスのテレパス。



暗殺者コンビとの戦闘から数週間後:ニューヨーク州、マンハッタン、ローワー・イーストサイド、倉庫内


「ちょっと待ってくれよ! 僕はそんなに運動得意じゃないんだってば!」

 冴えない30代の男は息を切らして走り、かなり汗をかいていた。暗い倉庫内に射し込む陽光が彼の流す汗を照らした。

「そんなんじゃ駄目だろ!」

 茶髪の少年は強い口調でそう言った。薄っすらと汗をかいていたが、疲れているわけでもないらしかった。彼らは悪しきヴァリアントと戦う事を志す善良なヴァリアント達で、メンバーはリーダーのミステリアス・ストレンジャー、オリヴィア・ウルフ、不機嫌そうな少年のブラッド・ジョンソン、そして新たに加わった30代のチャールズ・クラークであった。元々ブラッドはこの街で自警紛いな事をしていたから、それを更に拡張させた活動であった。一人よりも多くいた方がいいだろうとの事でこうして集まったのであった。発案者のオリヴィアを巻き込む事にブラッドは内心複雑であったが、彼女と一緒に活動できる事を思えば心境は更に複雑怪奇を極めた。

「あんた何怒ってんの」とオリヴィアはタオルで汗を拭いながら言った。ブラッドは言いにくそうに唸るのみであった。ミステリアス・ストレンジャーことビリー・フィッシャーはブラッドが不機嫌そうな理由を大体悟っていたが、今後よくなるだろうと思い黙っていた。彼は物事のよい面を見るのが好きであったからだ。いつか好転すると信じて…。

 彼らはこの広い倉庫内でランニングをし、まずコミックのヒーロー達のように戦えるよう体力をつけていた。と言っても既に超人的な肉体を持つエキゾチックで美しい顔立ちのストレンジャーはこの程度の走り込みで負荷を掛けるなど到底不可能であり、それ故彼は先程から他の3人とは違い休まず走り続けた――汗一つ見せず。

 あの金のためなら顔色も変えずに人を殺せる怪物じみた2人のヴァリアント、並びにニュー・ドーン・アライアンスを率いて所在不明の拠点に潜む別の怪物であるマインド・コンカラーと対峙した事でわかったのは、彼らが目的達成のためなら容赦せず己の能力や銃などの武器を使用してくるという事であった。なればそのような怪物じみたヴィラン達と戦う事を目指す以上は、生半可な鍛え方では駄目であった。肉体と精神を鍛え、エクステンデッドとは違い自分で試行錯誤して詳細を探らねばならない己の能力を見つめ、そしてそれを使い熟せるようにならねばならないのだ。

「ビリーはさ、まだ走るの?」

 オリヴィアは倉庫内の外側を未だ猛然と周回するビリーに呼び掛けた。彼女の声は室内で奇妙に反響したものであった。

「そうするよ」とビリーは走っているとは思えない安定した声で答え、それを受けてオリヴィアは少し考えた。やがて彼女は残りの3人で筋肉方面のトレーニングに移ろうと提案し、他の2人もそれを受け入れた。しかしブラッドはオリヴィアがビリーを呼んだ際にむっとした表情を見せ、それを見たチャールズは複雑そうな事情を悟ると肩で息をしながら黙っていた。



同時期:アイダホ州、山中


 洒落たスーツ姿のイスラム教徒の男は、雄大な野山の中で折れた木の切り株に腰を降ろして優雅にスプーンで魚の缶詰を食べていた。やがて食べ終わるとその目を見張る程に美しい貴公子は彼らの聖典の句を小声で唱え、彼自身はまるで自然と一体化しているかのようであった。全能の神が創り給うたこの世界への畏敬と神への服従を改めて行ない、自分自身の今後を考えようとしていた。

 突如彼の眼前20ヤードの地点で木が横に叩き折られたが、しかし実際には怪物じみたヴァリアントであるジョン・スミスはそれをちらりと見るのみで、すぐにその目を左手側に広がる湖の方へと向けた。そこに浮かぶ群青色のコートを纏った男が水龍を従えて不可視の力場による攻撃を防ぎ、その風圧が巨大な波紋を作っていた。前まですっぽり覆った黒いマントを纏う太った男が力強く踏み締めながら湖へと歩いて来て、彼らは更に精神の攻防をも平行して続けていた。太った男は湖の上に浮かぶ男の心を見えないナイフで突き刺さんとして更なる精神攻撃を仕掛け、それに気合いで耐えるコートの男はコートとお揃いの群青パナマ帽の下で鬼神のごとき形相を浮かべていた。彼程の精神力であってもマントを纏った巨漢のテレパシーに抗うだけでも精一杯であり徐々に水龍が崩れ始めた。比喩ならぬ心の痛みという普通ならば体験できない苦痛により、常人ならば既に泣いて許しを乞う程痛め付けられているにも関わらず、しかしこの怪物じみたヴァリアントは更なる攻勢を強めた。寒々しい積雪を残す巨人のごとき山々は、湖の畔で繰り広げられる尋常ならざる人の姿をした怪物同士の闘争をじっと見守っていた――同じく怪物であるジョン・スミスと共に。

「ねぇねぇ、そろそろ不味いんじゃないのー?」

 剃刀刃のごとく鋭いスーツ姿の男は、己の友人が苦戦している様子を眺めて嘲笑った。地面に置いていた缶を持って来ていた手提げのバッグから取り出したゴミ袋に入れ、それを丸めてバッグに戻した。彼の友人であるウォーター・ロードは既に操作可能な水の純度に関する許容度も更に上がり、自分自身の体内に関してであれば血液を操作したり肉体全体の水分に働きかけて疑似的な浮遊や飛行までできるようになった。そしてそれと平行して攻撃も可能ではあったが、それでも己に匹敵する強大な力を持つケンゾウ・イイダ、すなわちアライアンスのリーダーである太ったマインド・コンカラーはかなりの強敵であった。禿げ頭のこの男は発射された水滴に反応して右手を前方に向け、不可視のテレキネシスが水滴を打ち払った。払われたそれらは木や地面に穴を開け、しかしジョン・スミスは己の顔のすぐ横に飛来した殺人的な威力の水滴など全く意に介さず、鼻唄を歌いながら簡単な銃の点検を始めた。

「驚異的な精神力だ! それが仇となりむしろ苦しむとしてもな!」

 ドーンを率いるイイダは邪悪な形相を浮かべ、水上から少し上に浮かぶピーター・ローソンを睨め付けた。

「ふん、君のテレパシー能力はもうスタミナ切れかね?」

 精神が受ける激痛が故に同じぐらい恐るべき形相を浮かべるロシア訛りのヴァリアントは、テレキネシスが来る事を予期して水塊を持ち上げ、それを投げ飛ばすように陸地のイイダ目掛けて降らせた。巨漢の日本人はテレキネシスを空中へと撃ち出すかのようなイメージを作って行使して迎え討ち、それらは物理的に奇妙な振る舞いを見せて拮抗し、あろう事か水滴一つ落ちなかった。

 彼らはヴィラン同士の相容れない理由でぶつかり合い、それを見守るその片割れの友人はどこか上機嫌そうでもあった。遠くの野山まで激突音が響き、鳥がびっくりして一斉に飛び立った。混乱した熊が不安そうに唸り、異様なものを感じ取ったムースがそそくさとその場を後にした。

 カストロ・スタイルの短く切り揃えた髭が目を惹く美形のジョン・スミスは、ここで手を出せば周囲に潜むドーンの連中が遅って来るであろう事を知っていた。組み立て直した拳銃を胸元へと戻しつつも、銃で殺せる相手なら即座に射殺できるし、そしてそうでない相手も超人的な怪力で繰り出す打撃や関節技、強力なブラストによってこちらの手品の種が明かされる前に全員殺せると踏んでいた。しかしそれはそれとして、その正確な数や能力を知らずに不意を突かれるのは気に入らなかった。不意討ちとは己の側がすべきであって、相手にされるべきではない。恐らくはイイダの取り巻きヴァリアント達が既にいつでも攻撃できるよう彼を狙っているのは想像に容易いから、ひとまず油断しているふりを続けていた。

 ピーター・ローソンの強烈な反撃が禿げた巨漢を後退させ、テレキネシスで地面から浮かんで足裏への負担を減らそうとした彼の周囲ではアンカー代わりのテレキネシスが土と草をずたずたに引き裂いていた。彼らがどの程度本気で殺し合っているのかは曖昧であったが、既に並みの相手なら数百回殺せる壮絶な戦いであるらしかった。

 しかし彼らよりも多くの血を見てきた髭のスーツ男にとって、そうした闘争でさえ正直言って生易しいものでしかなかった。幼い頃死に物狂いで爪を相手の顔に突き立て、手が痛くなるぐらい強く握り締めた金属の灰皿で何度も何度も殴った、初めての殺人を思い出した。自分の漏らした匂いと血の生臭い悪臭が入り混じり、気持ち悪さから思い出す度に何度も嘔吐したあの頃。いずれアッラーが公正かつ厳格な裁きを己に下すと知っている彼はしかし、偉大なる神への服従を誓いながら既に多くの犯罪行為に手を染めていた。彼が外道たり得るのは、(ひとえ)にいずれは神が己を罰してくれるというある種の安心感に起因しているのかも知れなかった。彼は美しく、残酷で、よき友がおり、そして恐ろしい程に強かった。そして目下のところ彼の新たな楽しみはあの美しい黒人のヴァリアントであった。彼に何やら面白いものを感じており、あるいは彼との闘争や監察が今後も続く後戻りのできないハードな生活の清涼剤となる事を期待していた。

「どうした、精神面が専門ではない私を未だ陥落させられんか!?」

「君が精神の苦しみから解放されたいならば私は喜んで手を貸すとしよう!」



2時間後:ニューヨーク州、マンハッタン、ローワー・イーストサイド、倉庫内


 チャールズは倉庫内に置いたマネキンに向けて手を(かざ)した。額には汗が滲み、シャツには汗と倉庫内の埃が付着していた。彼の右手から赤い光が発せられ、それは倉庫の壁に当たってがんと音を立てた。健在なマネキンはともかくとして、その音はとても間抜けであった。

「チャールズ、もう一度やってみたらどうかな?」

 ビリー達は腕を組んでそれらを見ていた。

「も、もう勘弁してくれ…ふらふらだ」

 チャールズの体は筋肉痛で痛み、汗が髪をぐっしょりと濡らし、そしてどうしようもないぐらい休憩を欲していた。ビリーは休もうと言おうとしたが、口を開いた瞬間ブラッドが不機嫌そうに叫んだ。

「何やってるんだ! そんな調子じゃドーンを相手にするのは無理だぞ!」

 ビリーはブラッドの辛辣さに心を痛めたが、荒療治よりも時間に頼る事を選び、そして何も言わないビリーを見てオリヴィアは内心おいおいと思い、仕方なく自分でブラッドを注意した。このチームこれから大丈夫なのかな。

 ビリー及びブラッドが抱える問題点なんかを暫く垂れ流し、どっかでそれを表面化させる予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ