WONDERFUL PEOPLE#29
高校生の犠牲者がどのように死んだかを調べるため、ジョージは橋の上を調査する事にした。
登場人物
―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。
―〈衆生の測量者〉…強大な悪魔、リヴァイアサンの一柱。
一九七五年、九月:ニューヨーク州、マンハッタン
ジョージは四番目の犠牲者遺族の元を訪れた。そこで何か情報が得られないかと考えた。
亡くなった女子高校生の両親は数年前に浮気がどうのこうので離婚しており、夫の方がマンハッタンにいる事をジョージは知った。
しかし訪れてみると何故か夫妻が揃っており、どうやら一緒に暮らしているらしく、これには面食らった。
聞いてみると娘の死によって皮肉にもまた同棲するようになったとの事であった。
ああ、そのような皮肉があろうか。娘の死という代償によって離婚した夫妻がまた共に暮らす事になるなど、まさに残酷としか言えなかった。
残酷によって成立する世界…うんざりさせられる。
ジョージはまだ見ぬ邪悪への怒りを覚えながらも情報を集めた。この犠牲者は別段引きこもるでもなかったが、ある日の夕方いきなり、ジョージ・ワシントン橋の歩道上で死んでいるのを歩行者が発見した。
目撃者は犠牲者の形相のあまりの恐ろしさ故に心の均衡を喪失し、精神病院に入ったままだと聞いていた。
それを犠牲者に含めるなら今のところ犯人は六人を殺し、副次的に一人の精神を病ませた。つまり殺す他無いという事だ。
しかし今のところやはり手掛かりが無い。想像上の異変があって、それを堺にして各々の犠牲者達の生活に変化が起きて、最終的には殺されたとして己が結論付けているに過ぎない。確信していても確証が無い。
確証が無ければいつまで経っても相手に辿り着く事はできない。
一時間後:ニューヨーク州、マンハッタン、ジョージ・ワシントン橋
ジョージはその後、駄目元で橋に行ってみた。どうやってその犠牲者が死んだのか、そして何か残っていないか。
彼女を忘れ去られる要素として終わらせる事を拒んだ――そして他の全ての犠牲者もまた然りであった。彼女はその死によって一つの別れた夫妻を再会させた。
ならば次に正義を与えねばならなかった。
ジョージは花が手向けられた箇所へと行ってみた。川を跨ぐ巨大なこの橋の上を歩み、風に身を任せた。
するとそこに死が満ちているのが感じられ、それらの穏やかな雰囲気は霧散した。周囲の空間が悍ましい声無き悲鳴を上げるのを察知した。
〘どうだ? いかにもこれが、無惨な死というものだ。しかしその分濃密な残滓があろうよ。お前はここに何か無いか探せ、そしてここで何も見付からなければ、お前は一旦戦略を練り直さなければなるまい〙
「それはわかっている」とジョージは頭の中で響く〈衆生の測量者〉の声に対して無碍に答えた。
空はどんよりとしており、雨が降る前兆じみた風が不気味に吹いていた。
死刑囚を待つ刑場の異様な雰囲気のごとき、厭わしい空気が辺りを満たしていた。邪悪がここにいたのだと感じた。
未知の敵はここで彼女を殺したのだ。そこにどのような恐怖があったか、どのような無念があったか。想像するだけでも震えた――強い怒りが肉体に染み渡った。
ジョージは犠牲者が横たわっていたのがどの辺りかが大体わかった。それ程までに濃密な死の雰囲気があった。
それが具体的にどのようなものかは知らないが、しかし悍ましかった。悪趣味な怪奇小説のそれじみた、純粋な悪意による殺しが見えた気がした。
悪意によって犠牲者を生み出し続ける超自然の実体のいた気配と言えようか。ジョージは地面に手を当てた。
今日も往来の車は多かったが、しかしそれはどうでもよかった。手を当てると車が通る振動が直に伝わった。
ああ、ここで死んだのか。その日はどうような天気であったかも調べていたが、ちょうどこのような曇天であったらしい。
そこでの死は孤立しており、最低でも幾らかの因果関係はあったにせよ、傍から見れば理不尽な現象であったかも知れなかった。




