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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
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WONDERFUL PEOPLE#24

 シンディが通っていた大学へとやって来たジョージ。彼女の死を思い出させるかのような暗雲が空を覆うが…。

登場人物

―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。



一九七五年、九月:ニューヨーク州、マンハッタン、ハーレム、ニューヨーク市立大学シティ・カレッジ


 地獄めいたものを探すためにジョージは大学へと足を向けた。シンディが何かしらの孤立を迎えて、寂しい最後の日々を送った場所。

 シティ・カレッジの偉い手の職員には知り合いがおり、彼を通して中に入れてもらった。許可証を首から下げて彼は大学のキャンパスを歩いた。

 学び舎の中庭は今日も多くの学生の姿があり、世界都市の一角を占める荘厳な建築は目を見張るものがあった。

 世界中からの留学生も集うこの名門の地にて、一体何があったのか。見れば空は少し陰っており、陽射しが弱まっていた。

 不気味な雰囲気が立ち込め、それを気のせいとして学生達は座ったり歩いたりしていた。

 なるほど、クソったれのサングラスを掛けて全て順調なふりをするという事か。ジョージはしかし、その裏にある不安を感じ取った。

 例の宿舎の方へと向かうにつれてその確信は強まった。学生達は許可証付きのジョージを少し見ては擦れ違って行った。

 だが、何かを忘れようとしている気がした。利発そうな黒人青年と一瞬目が合った。その向こうに見える恐怖が、ジョージの心に伝播した。

 六九年の抗議運動以降、黒人やその他の『マイノリティ』の生徒も数を増やし始めた。やや調和が見えるようになったこの歴史ある大学に、何かしらの暗雲が立ち込めた気がした。

 ジョージはその生徒に声を掛けた。

「こんにちは、『ワンダフル・ピープル』の者です」

 相手はややびっくりしているように見えたが、やがて答えた。

「こんにちは、今日は何か?」

 上品そうなアクセントで生徒は言った。しかしどこか、よそよそしさというか、何かから目を逸しているような気がした。

「実は私は亡くなったシンディ・ナムグンの件で取材しに来たのですが」

 ジョージは相手に合わせて丁寧に言った。空は更に陰った。

「シンディ!? ああ、その…」

 黒人青年はその常の雰囲気に似合わない狼狽えを見せた。ジョージは咄嗟に思い出した――複数の学生が、変わり果てたシンディの亡骸を目撃した。

「シンディの件は話したくないんです…」

「どうして?」

「どうしてって…あの顔ですよ。死んだシンディの、至上の恐怖に染まったあの顔…まるで死神か、地獄の魔獣に追い詰められでもしたみたいに…」

 その生徒はやや堅苦しい、しかし文学的な表現で恐怖を吐露した。目は明白な恐怖を湛え、口がかたかたと震えているようにも思えた。

「その話を詳しく聞きたいんですよ。彼女は明らかにそのような最期を迎えるべきではなかったと思います。彼女のご両親を訪ねましたが、とても悲しんでいましたので」

 相手はそれを聞いてジョージの目を見た。ジョージの真摯な態度を見て取り、己がやはり何か言うべきであろうかと思ったらしかった。ジョージは青年が葛藤するままに任せた。

「シンディとは親しかったのですか?」

 ジョージはあくまで丁寧に聞いた。

「シンディとは…はい、結構親しかったですね。友達でした」

「よかった。私が知る限り、シンディは亡くなる前の期間は大学内でも孤立気味だったのではないかと。その辺りの話を聞ければ嬉しいんですが」

「僕も何週間か話す機会が無かったんですよ。彼女は何かが変わってしまった」

「いじめられたとか、それか友達から拒まれたとか、そういう事はありましたか?」

 すると相手はそれを否定した。

「いえ、そうじゃないんです。彼女は気が付けば、ある日周りと距離を明確に置いて、次第に誰とも話さなくなったんです。みんな根気強く彼女を気遣ったんですけど…次第に彼女は一人に。気が付けば声を掛ける生徒はいなくなって…いや、一人いました。彼女がほとんどの時間を寮で過ごすようになってからも、根負けせずにいた生徒が…ヘンリエッタ・ボネッティっていう、イタリアから来た子が…」

 ジョージはそれを聞いてはっとした。シンディはむしろ、自ら周囲を絶ったのか。何かがおかしく思えた。

 彼女には、何かそうせざるを得ない事情があったのではないか。己の意志で孤立を選ばなければならない理由が。

「今ヘンリエッタはどこに?」

 ジョージは己では隠したつもりであったが、しかし真相に向けての熱が隠しきれておらず、それはニューヨークの上空を支配せんとする暗雲を散らし始めた。

 不意に陽光が回復し、大学の生徒達は空を見上げた。

 これから直面し判明するであろう事実は、他の犠牲者達との比較に使える礎になるはずであった。

 それを知る事ができるかも知れないと考え、ジョージは気持ちが高まるのを抑えるのに必死であった。

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