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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
295/302

WONDERFUL PEOPLE#23

 ジョージはマットに連続殺人事件と見られる変死事件の話をした。両者は不思議な縁で結ばれ、今後は協力できるらしかった。

登場人物

―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。

―マシュー『マット』・フォーダー…合衆国政府機関に務めるインディアンの男、魔術と科学に熟達する天才。



一九七五年、九月:ニューヨーク州、マンハッタン、ソーホー


「実は私は今事件を追っているが…謎の連続変死事件を聞いた事はありますか?」

「ああ、多分私が考えているのとお前さんが考えているのは同じ事件だろうな。今回で何人目だったかは忘れたが、あの事件には心底ぞっとする」

 ジョージは己が知り得た範囲でマットに経緯を話した。マットは必ずやこの悍ましい事件の解決に手を貸してくれるという確信があったからだ。

 その間に両者共に料理は食べ終わり、マットはアルコールを頼んだ。なんとかというワインだったが、ジョージはそちらに気を配らなかったのでよく聞き取れなかった。

「なるほど、それは面妖なものだな。もちろん私としても解決して欲しいと思う。私は己がセネカであると同時にアメリカ人であるという自覚があるし、それらの犠牲者は私から見れば同胞だ。同胞が血を流すのを見るのはもちろん不愉快という事で、よって解決こそ望ましい。しかし私は普段は仕事で忙しくてな。今日は休暇を使ってこっちに来ているが、普段はラングレーで葡萄を摘んだり缶詰めの数を数えたりする仕事で忙しい」

 ラングレー云々で少しにやりとしながらジョージは先を促した。

「まあそうだな、だがこうして会えた事で我々には縁が生まれた。道ができたとでも言うべきか。我々には繋がりがある。今後お前さんが何かこの方面で助けがいるなら私に電話するといい」

 彼は名刺を差し出した。ジョージは頷いて受け取り、上着の内ポケットに仕舞った。

「ありがとう」

「あのウォード・フィリップスとかいう男に頼るぐらいなら私を頼ればいい」

「彼に何か?」

 マットは鼻で笑った。

「別に。ただどうにも気に入らんのでな。あのニューイングランドの紳士気取りと言った風情がな」

 ジョージはそれもまたアメリカの暗い歴史に根差す感情なのではないかと考えて、それ以上は何も尋ねなかった。

 もしマットが話したくなればそうするであろうと考えて話を戻した。

「あなたが助けてくれるなら、まあそうするよ。それで、今回の事件はどう思います? 私なりに調べたが、相手の正体がわからない。ただ私は漠然と、相手が何かしらの超自然的な邪悪だと思う」

「フン、まあ確かに、そう考えたくなるものだな。変死というが、死因は心停止か。しかも顔面はどれも凄まじい恐怖の形相によって…美し過ぎるものを見ると並みの者は即座に死に至るが、しかしその場合は困惑して死ぬはずだ。どの死体も恐怖して死んだのが明白だとすると、犯人は神や悪魔、あるいはその他の超越者の類いではなく、吐き気を催す怪物だというわけだな。それが異星や異界の生物であれ、現世に留まる怨霊であれ、人間社会にとっては害でしかないという事だ。

「すまんが私からもなんとも言えんな。私もお前さんの予測を支持するが、しかし情報がまだまだ少ないので判断が難しい。お前さんの調査能力は本物だと思うし、取材を兼ねてもっと探ってくれ。何かわかったら私に電話してくれ。まだあと三日はNYCにいるし、帰ったらその時はそこに書かれたオフィスまたは自宅の番号に掛ければいい」

 具体的な進展が得られなかったのは残念だが、しかしこの分野では彼よりも詳しいでろう専門家の意見が得られそうだ。

 マットは人生の先輩でもあるし、彼の知恵はこれからの戦いに役立つはずだ。

「わかりました。今日は会えてよかった。どうも」

 ジョージは立ち上がり、マットも流れを察して立ち上がり、両者はがっちりと固い握手を交わした。ジョージはマットの皺が刻まれた手からこの雄大な大陸の温かみを感じた気がした。

 これからニューヨークはどんどん寒くなる。そして冷血の殺人鬼が今も野放しだ。そのような時、この温かさは強みとなる。比喩的にも、また実質的にも。


 マットと別れてから彼の言葉が妙に染み渡った。確かに己は記者であり、自然に情報収集ができる。ならば再びそうしようか。

 ナムグン夫妻からの情報は有益であったが、しかしシンディ・ナムグンについて考える場合まだまだ情報が必要だ。

 まずシンディの件をこの連続していると思われる一連の事件の基点としよう。そして他の犠牲者も調べ上げ、その上で相似が見られないかを考察する。

 そのために何が必要かと考えつつ、そう言えば先程の会合でリヴァイアサンは静かだったなとふと思った。まあそれならそれでいい。始めよう。

 思うに大学に言ってみるべきではないか。この壮麗な世界都市の一角で存在感を放つ美しいゴシック様式が立ち並ぶニューヨーク市立大学のシティ・カレッジに行き、そこで取材をしてみよう。

 誰かが何かを知っているはずだ。シンディは確かにそこにいたのであり、そこで起きた事は誰かの目に焼き付いたはずだ。殺される前に何があったかを確かめねば。

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