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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
291/302

NYARLATHOTEP#30

 ナイアーラトテップは追い詰められ、そしてその果てに己が一人ではない事を改めて思い知った。ヒーローは孤独ではない、という事を。

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ナイアーラトテップ…美しい三本足の神、活動が確認されている最後の〈旧支配者〉グレート・オールド・ワン

―熱病じみた実体…〈混沌の帝〉エンペラー・オブ・ケイオスの首領ロキの時間線上の残滓と融合した謎の悪意ある性質。



南極におけるダーク・スターとの対決後:不明の銀河団


 なるほど敵は予想以上に強力かつ巧妙、隙は限り無しに小さく、攻撃手段も限られる。シミュレート結果ではもうそろそろ敵はハイアデス関数的性質に対する耐性を完成させ、イーサーやその他も遮断する。難攻不落な要塞と化したこの場のネクサスを破壊するのはかなり困難な事だ。幸い敵の発するエネルギーを認識する事はできるし、それを宇宙規模で探査する事で敵のネクサスの数が一二五個である事を確認した――大した事はあるまい、と考えた。しかし敵の性質を未だに特定できず、打つ手も限られた。この敵に関しては正体を特定しなければ有効な手は打てまい。かの神は焦り始めた。このままでは敵がブラックホールを汚染に組み込み、降着円盤及びブレーザーはその侵略拠点と化し、敵は恐らくここから無数の拡散及びエージェントの作成を行なうであろう。自然合金の腐敗による悪臭はかの神にも作用し始め、ぞっとするような深海のごとき深緑の甲冑が今のところ悪影響を遮断していたが、しかしそれもいつまで保つかわからなかった――少なくとも永遠ではないし、最も厳しい条件下で予想するとそれは敵が耐性を得ると同時にかの神を本格的に侵略し始める。そうなるとかなり不味い。かの神はミ=ゴから献上された結晶じみた戦鎚の力によって、かつてのような側面を多数作り出して各地に遍在する力をある程度取り戻した。となれば敵にかの神が掌握された場合、敵はこの現実(リアリティ)の外のあらゆる領域に侵略できるようになる。そうなっては、他に誰か侵略を阻止できる者はいるのか? とにかくそうなっては最悪であり、なんとしても勝たねばならなかった。

 かの神はなんとか各所における邪悪との戦いを遣り繰りしながら全ネクサスへの攻撃準備を始めていた。各々のネクサスを破壊するなり『詰まらせる』なりすれば、敵はじわじわと自壊しながら苦しんで死ぬはずだが、しかしそこまで到達できるかが微妙に思えてきた。シミュレートはとにかく悪い条件下のもの程信用できた。そしてそれに基づけば、今のところ勝率は五割を切っていた。

 よくない傾向である事は間違い無かった。このままでは勝てないかも知れない。その確率の方が高いのだ。美しい三本足の神は己が置かれた劣勢を鑑み、何か致命的なミスが無いかと考えた。かの神はあらゆる場所であらゆる邪悪と同時に戦っており、その全てを俯瞰的に観察して何が失敗かを熟考した。



同時期:天の川銀河、太陽系近隣の不明の星団


 宇宙的ヒーローチームであるプロテクターズを率いるケイレン帝国の元オーバーロードは、己の指揮下にある三本足の神が何やらただならぬ雰囲気であるのを察知した。今この場にはクロムマンとかの神、及びウォーロードがいた。ウォーロードは不自由な肉体を補うために全身を鉛色のアーマーで覆っており、その実それは彼専用に調整された改造型のガード・デバイスであった。

「神よ、何かあったのか?」とリーダーは遠慮無しに尋ねた。この地は黯黒の只中に浮かぶ岩礁であり、薄明かりを放つ未知の物質の噴出がぼうっと周囲を照らしていた。冷え冷えとした宇宙空間の中でやや温かみがあり、しかし遥か彼方で何か熱いものが感じられた。

「私もこの感覚によって何かよからぬ事が起きている事を探知している。我々はチームのはずだ、隠し事が必要とでも?」

 その問いに対し、突き出た岩に座する這い寄る混沌は腕を組んで悩ましく振る舞った。かの神は可能であれば己の手で問題を解決したかった。その使命感故に己から他者に頼む事ができなかった。罪滅ぼしのための終わらぬ闘争であり、己から助力を依頼する事は罪と本気で向き合っていない事を意味していた――かの神の考えでは。しかし現にナイアーラトテップは苦戦を強いられ、多数あるネクサスを同時攻撃するために必死に己の『戦力』を掻き集めていた。

「私は…常にそのような闘争に身を投じている。これまでと同じく、そしてこれからも同じだ」

 それを聞いてウォーロードは唸り、クロムマンは不満そうに受け止めた。

「我々は信じられないような脅威と戦うための同盟なのだ。それを活用せずしてどうするか? 神よ、お前が我々ヒーローの模範であるとすれば、そのお前が戦友のヒーローに助力を頼まない様を見せてどうなるか? 我々もそのようにして独力にて戦い、その果てに不毛な各個撃破を迎えるべきだと?」


 かの神は結局折れた。己だけで敵と戦う事の愚かさを改めて悟った。原型としてあるならば、その原型が孤独な戦いを続けるのは手本となるまい。必要であれば――そしてそれが可能であれば――積極的に誰かに助けを求めればよいと考え直した。

「それで、どういう状況ですって?」

 身長九フィートにも及ぶ巨大なアーマーに身を包む昆虫種族(インセクトイド)のウォーロードは片膝立ちで他の二人と円を作っていた。遥か彼方で星々が輝き、燃え盛るそれらの様は平穏であったが、しかし明らかによからぬ影響が感じられた。

「私はロキがこの宇宙の過去現在未来から退出する際にたまたま残された残骸と結び付いた何かしらの敵と遭遇した。それは自然合金の腐敗から発生する悪臭を、正体不明の力によって攻防のための武具としている。それを用いて汚染のネットワークを拡大しているのだ。敵は複数の地点で拡散を始めており、全部で一二五個のネクサスがある。それらをどうにかできれば敵を倒す事ができる」

「なるほど、そいつは簡単そうですね、問題は?」とウォーロードは即答のように言いつつ更に問うた。彼のアーマーの胸の部分がかちゃかちゃと音を立てて可動し、イルミネーションじみた光が発生した。頭部装甲には六つの目のような輝きがあった。

「正体不明、性質を特定できないのが問題だ。故に私は今も足止めで手一杯となっておる。奴の汚染による侵食は著しく強力であり、性質を解き明かして対策を立てねば根本的な部分でどうしようもない」

「なるほど、近寄ってレーザーでドカンってわけにはいかないわけですか」

「それで解決できるようにするべきだな。私は集中してあれの性質を探った。まだ不明だが、あれは恐らくこの宇宙と結び付くつもりだ」とクロムマンは言った。クロム色に輝く甲殻蛸型種族の元オーバーロードは状況が深刻である事を察知した。

「面白い説だ。全てを飲み込むつもりであると私は思っていたが、そういう考え方もあるか」

 かの神は純粋な感心を見せた。

「いや、その考えで合っているはずだ。だが奴は恐らく抽象概念的な実体なのだ。奴は血肉を得て、他の概念達よりも優位に立つ事を考えているのではないかと考えられる。己に先行して自我を得たそれらに対する最終的な勝利を目論んでいるのだろう」

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