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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
287/302

NYARLATHOTEP#28

 ナイアーラトテップは敵がクタニドじみたものである事はわかっていたが、しかしその正体を掴めずにいた。

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ナイアーラトテップ…美しい三本足の神、活動が確認されている最後の〈旧支配者〉グレート・オールド・ワン

―熱病じみた実体…〈混沌の帝〉エンペラー・オブ・ケイオスの首領ロキの時間線上の残滓と融合した謎の悪意ある性質。



南極におけるダーク・スターとの対決後:不明の銀河団


 邪悪なりしドラゴンの神格とやや類似した性質を持つロキの影――そして何かとの融合体――は厳しくも美しいロキのシルエットを模した悪夢じみた不可視の実体として存在し、そのネットワーク拡大が美しい三本足の神が守護する宇宙に忌むべき悪影響を及ぼす事はもはや疑うべくもなかった。具体的にネットワークが構築された場所に何が起きるのかを計算するのは困難であったが、一つの事実として目の前の実体の類似物であるクタニドは『完成』という慄然たる環境変化ないしは変換を第一に行動しており、主に大使及び使者を主軸とした惑星改造は非常にゆっくりと、しかし確実に実行されていた。ロキの影と何かの融合体が『完成』と似たような悍ましい計画を立てている可能性は高いし、特に否定する理由も要素も見られなかった。何より相手はかの神の警告を畏れ多くも無視し、明らかにネットワーク構築を急いでいた。意思疎通不能ではないようだが、話を聞く手合いでもないらしい。すなわちこれまでに滅した愚かな虫けらどもと同様の悪に汚染された怪物であり、怪物は英雄の手で屠られるものと相場が決まっており、実際宇宙の存続上の健全さのためにはそうあるべきであった。

 クタニドの類いとの直接対決は初めてだが、しかしかの神がする事は常と同じであった。

「臆病な虫けら風情であるな、こそこそと隠れて影響力を拡大するのがせいぜいか。所詮貴様などその程度よ」

 言いながらかの神は不可解な様相を見せる鎮魂しがたき邪霊のごとき眼前の敵を睨め付け、凄まじい力が作用している降着円盤上に立っているかの神からすれば『上方』にいるその実体は不可視の影としてブラックホールへの接続を続けながら、不気味な様子で脈動し続けていた。グロテスク極まる〈旧神〉(エルダー・ゴッズ)の冒瀆的な言葉のやり取りを思わせる厭わしい音色が真空の宇宙空間に広がり、熱病のごときその何者かが噴出するブレーザーを蝕み、時空が悲鳴を上げた。これは宇宙そのものに対する冒瀆の一種であり、呪われるべき瀆神行為であり、その他の語るも憚られる愚行でもあった。再生産され続ける邪悪の一種であり、容赦を知らず、己とその同胞の事しか考えない――まさに〈旧神〉(エルダー・ゴッズ)の申し子であった。

 影から溢れる腐敗した自然合金の悪臭がネットワーク形成の媒介であり、空間そのものに感染するそれらからかの神はブラックホールを自由にせねばならなかった。予想ではここを奪われるとこの銀河そのものを忌むべきものの巣窟として永久に汚染される。幾ら消そうとも消えぬ永遠の痕跡。それは避けたかった。この銀河には生命もあり、そして文明もあった。己の可愛い子らがいるのであれば迂闊に大規模な力を行使するのも危うい。ブラックホールごと相手を粉砕してそれで終わりというわけにもいかないのだ。

 ブレーザーの煌めきが超光速で変色し、空間の切れ端が嘶いて消え去った。そういえば宇宙にはかような邪悪どもがいたなとかの神は考えつつ、今現在のところ派遣可能な側面は何体いるかを確認した。三体、たったの三体か! 全ての時間線を監視し、そのそれぞれのあらゆる箇所に存在する己が、たった三体しか自由に使えないのだ。やはり弱体化した力を呪う他無く、それはそれとして目の前の脅威に対処せねばならなかった。

 かの神は警告を無視した怪物目掛けて高出力の宇宙的エネルギーを放った。と同時にブレーザー及びブラックホールに伸びる汚染をイーサーで攻撃した。熱病が広がる様を一時的に喰い止める事には成功したが、しかし既にこの実体はロキの残響を使って他の場所にも存在していた。他の場所も同時に叩かねばならないだろう。恐らくネットワーク全体の主要な箇所を破壊すれば後は自壊するはずだが、しかしかなりの強敵であると思われた。敵の代謝を停止させて、巨大になり過ぎた総体をじわじわと死に追いやる。言うのは簡単だが、実行に移すのは難しい。現に敵は戦鎚から放たれた強力なブラストを受けてもそれに拮抗し、そしてまたもネットワーク構築が早まった。不味い、敵の構築が予想以上に早く強固だ。

 やはり相手の正体を突き止め、根本を知らねばならない。敵を知れば対処はより簡単である。

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