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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
282/302

SPIKE AND GRINN#45

 事件解決後、スパイクは何気無くグリンと話し、己の外出中にとんでもない事が起きていた事を知った…。

登場人物

―スパイク・ジェイコブ・ボーデン…地球最強の魔術師。

―グリン=ホロス…美しい〈秩序の帝〉エンペラー・オブ・オーダー



八月上旬、夕方:カリフォルニア州、ロサンゼルス、ダウンタウン、ドープ超自然事件対応事務所



『ああ、そりゃ悪かったって。お子様には辛い任務だったもんな』と電話の向こうでシンヤは笑っていた。

「そうかよ、まあお前がどんな気分だったかは俺もちょっとは理解できたが。まあとにかく酷いもんだったな。楽な調査と思いきや帝国の残党に異星のヤバい生物だぜ?」

『そいつはさっき聞いた』

 シンヤのそのような調子に対してスパイクは『こいつ他人事だからって適当だな』と呆れた。

「というかよ、お前に言うのもアレだが。やっぱお前に言うわ」とスパイクは一旦区切った。「ゲレッテン・シュヴェッツとの戦いの最中に俺のスーツケースとその中身が吹き飛びやがった。まあ後で気付いたんだが、最高の気分だ」

『おいおい、それも俺のせいか?』

 シンヤの声色にやや申し訳無さそうなものが混じるのを聞いてスパイクは満足した。

 別に本気で追加報酬を請求したいわけでもなく、単に『こっちはクソ大変だったぞ』と文句を言いたいだけであった。


 スパイクは電話を切って斜陽となった空を室内から見た。透かしたブラインドから射し込むオレンジ掛かった空の輝きが、今日も『少なくとも己の見える範囲は』平穏に終わった事を告げていた。

 全身の打撲的な痛みを我慢しつつ今回の事後処理を済ませ、収支的にはマイナス手前であった事に苦笑した。

 あのセネカの血を引く政府の男にでも電話しておけばいいのか。それともフィンランド系のFBI男に電話すべきなのか。

「そういえばまだ然るべき機関に連絡していないのですか?」

 グリンが窓の近くに立って、背を向けたままそう言った。

「してねぇな」

「なるほど、あなたはなんだかんだ言って報酬よりも重視するものがあると――」

「――あー、はいはい。その辺で。今やっと一息ってところなんだ」

「そうですか、今日は一日冷房の効いた部屋で外を眺めて過ごした私に何かを言われるのは不満という事ですね」

「おう、わかってるじゃねぇか」

 言いながらここ数日の事を思い返していた。どこかの都市が壊滅した云々、イサカの側面絡みの連続殺人事件、アイザイア・ゴドウィンの不明な動向、事件現場にあった謎のカメオ、そして忌むべきガティム・ワンブグの出現…。

 とにかく色々あった。そしてこれからも色々あるのであろう。

「どうかしましたか?」

「色々あったって思ってな。俺が留守の間に何かあったか?」

「そうですね。あなたがいなくなって一時間程経った辺りで、上空数千フィートから燃える木がこの物件目掛けて落下している事に気が付いたので、それを迎撃しました――」

「――ちょっと待て」とスパイクは制止した。「ここが狙われたのか!?」

「そうだと思います」

「なんでそれを早く言わねぇんだよ!」と言いながら彼はソファから起き上がり、そして立ち上がった。

「あなたが疲れているように思えたので、その上であなたの母親の事まで心配事に加えるのは躊躇われたのです」

 グリンはやはり『スパイクにだけわかる彼女なりの様子の変化』を見せつつそのように言った。

 スパイクは何かを言おうとかと思ったが、しかし彼女を一方的に怒鳴るのはフェアではないように思え、言葉をぐっと飲み込んだ。

 治癒の心得はあるため痛みも引きつつあったが、しかし立ち上がった事でまた痛んだ。それによって頭が少しすっきりした。

「わかったわかった。まあ守ってくれてありがとよ。それで? 誰がやったかわかるか?」

「わかりませんでした。しかしあれほど大掛かりとなると私やあなたが気付かないのは変ですね。私が思うにあれは恐らく、ある一定期間後に作動するようになっていて、作動後にあなたが家を一時間以上空けた時に斜め上方から落下するようになっていたようです」

 スパイクはホログラムのシステムにアクセスしてここ最近についての振り返りを行なった。己らが気付かない何かがあったのか?

「俺達がいりゃ気付くはずのヤバい魔術か。だがそいつは現に仕掛けられちまったってか」

 スパイクは部屋の中で蒼いホログラムを横列にずらりと展開した。巨大なカレンダーのようなその時系列表示は、車載AIであるウィニフレッドの補助を受けつつあれこれ考えた。

「スパイク、今日は大変ですね」とウィニフレッドの名状しがたい肉塊じみたホログラムが天上の方へと表示され、それを嫌って天上の忌々しい染みが退散した。

 スパイクはそれを見て『このクソったれなオロバスの野郎はもしグリンがいなかったとしたら代わりに迎撃してくれたのか?』と疑問に思った。それはともかく、何かの見落としている気がしていた。

「私もあなたも気付けない状況があって、その間に何者かが仕掛けたと考える事もできます」とグリンは振り返って言った。彼女の髪が斜陽の輝きに照らされて美しかった。

「俺もお前もだと? そんな事ってあるか? 待てよ…」

 スパイクは何かが引っ掛かった。気付けない状況とは何か。例えば二人ともこの街を離れた、惑星外に出た…そのような他愛の無い想定が浮かんでは消え、ある事に気が付いた。

「おっと、よく考えりゃ俺達一時的に二人とも別の位相にいたよな?」

「いい指摘ですね。連続殺人事件の最終局面で、我々は短時間だけ別の位相に引き込まれていました」

「だがそれも妙だよな?」と言いながらスパイクはグリンに近付いて行った。

「確かに妙ですね、『偶然』我々が不在な時を狙って仕掛けた、しかも白昼堂々と」

 それは不自然に思えた。誰か、四六時中己らを監視する者がいて、付け狙われているのか。

「もしかしてアイザイアの野郎が…」

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