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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
234/302

NEW WORLD NEIGHBORHOODS#22

 アッティラは恐るべき兵器の英雄の情報をネイバーフッズに送って警告した。果たして彼と英雄達は、神殺しが持つどのような恐るべき力に直面させられたのか?

登場人物

ネイバーフッズ

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…弾道を視覚化する事ができるエクステンデッドの元強化兵士、様々な苦難苦境を踏み越えて来た歴戦の現リーダー。

―レイザー/デイヴィッド・ファン…高い近接戦闘能力と超再生能力とを持つアメリカで最も受け入れられたヴァリアントの一人、ネイバーフッズ・チェアマン。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ(ドク)・バート…滅んだ異宇宙からやって来た天才科学者、ネイバーフッズ・チェアマン。

―ハンス・タールホファー…現代を生きる歴史上の人物の一人、ネイバーフッズの格闘訓練教官をも務める中世ドイツの剣豪。

―Dr.シュライク/パトリック・チェスター・ジョンソン…現代の魔術師。

―スティール・ナイト/ジョセフ・ドゥク・ソン…天才的な頭脳を持つ鋼鉄の騎士。

―レッド・フレア…とある事件で世に現れた女性人格の赤い多機能ロボット。


英雄達

―アッティラ…現代を生きる(いにしえ)の元破壊的征服者、ヒーローを引退した元ネイバーフッズ・チェアマン。

―オグン…ヨルバ神話の軍神。

―インドラジット…かつての邪将、清く今を生きるラークシャサの英雄。

―ガウェイン…屈強な円卓の騎士。

―ジョナヤイイン…北アメリカの神話の大英雄、狩人であり太陽神の息子。

―アージュナ…再び人の世を歩むマハーバーラタの大英雄。


闇ども

―ジョー・ブルッキアス…貧しい暮らしを送るアパッチ系の少年。

―ダーケスト・ブラザーフッド…ジョーを導く正体不明の仮面の男、群体型コズミック・エンティティの一部。

〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズ…アパッチ・ナヴァホ系の民族に広く伝わる北米神話の大英雄、人類に敵対する『敵』を滅殺する究極の神造兵器。


隠居者達

―ラーヴァナ…神々を征服したかつてのラークシャサの暴君、静かに今を生きる賢者。

―クンバーカーナ…かつての巨人、ラーヴァナの弟。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース


 ネイバーフッズを率いる歴戦のヒーローであるメタソルジャーは、己の長年の友――そしてつい先日電撃的に自責引退した――アッティラからの連絡を受け取った。

チーム用の専用回線SMSでまず軽い文章が来て、それから彼のクラウド上にPDFをアップロードしてきた。

 彼が思っていた以上に状況が深刻で、恐るべき邪悪が解き放たれたという事がわかった。兵器の英雄、神殺し、敵を滅殺するもの、異星の神々を殺すもの。

 神話や伝承としてのその話は知っていたが、他のあらゆる英雄譚と同じく実在の出来事であったという事であろう。

 重要なのは、その誉れ高い英雄が(よこしま)な者どもの意図するところによってコントロールを受け、そして一旦姿を消したという事であった。

 狩人であり〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズと同郷でもあるジョナヤイインが向こうのチームにいるから、恐らく追跡は可能であろうが、嫌な予感がしてきた。

 直接対峙したアッティラがその時に見聞きして立てた推論では、恐らく真の黒幕はやはりザ・ダークことダーケスト・ブラザーフッドであり、それが別個の何者か――推測では〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズに命令を出す権限を持つ者――を言葉巧みに操っていると思われた。

 という事はあの群体には〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズを扱う権利が無くて、それを可能とするために暗躍してきたものであろうとアッティラは書いていた。

 事実、軍神オグンに聞いた話やアッティラが調査した話を纏めると、ザ・ダークは〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズを操作する方法を探るために図書館のスパイアへの攻撃を煽動し、その結果ケインも何度か会った事があるスパイアの守護者ライブラリアンが命を落とす結果となった。

 〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズについての実戦データも纏められており、アッティラの深い洞察力や策略性はやはり優れていると感じられた。


 かつてアッティラが歴史に登場してローマ地域を踏み荒らした頃、後のフン帝国単独君主はその実歴史の忌むべき黒幕Mが二人で一本の剣として鍛えた実験モデルであり、彼は兄弟のブレダと共に帝国を治めながら裏で暗闘を繰り広げていた。

 ただこの頃はブレダの方が策に長け、アッティラは力押しの傾向にあった。

しかしブレダを殺して即位したアッティラという歴史書の裏にて彼ら兄弟は仲がよく、二人一組であり、常に争い、それをよしとしていた。

 それら愛憎がほぼ同一であるか、あるいは真に同一であった兄弟の関係はブレダの突然の事故死によって終わりを告げた。

 アッティラはいつか己らのいずれかがもう片方を殺すとして互いに深い兄弟愛を持っていた兄の死によって深い悲しみを覚えた。

 彼は他の〈混沌剣〉(ケイオシアン)と同じく『一人による一本の剣』に変貌し、以降は単独で策や知を蓄えねばならなかった。

 アッティラはその後、様々な裏の掻き合いによって心の空白を埋めようとした。

 対等の宿敵フレイヴィアス・エイティアスが送ってきたローマ人で、アッティラの高位の家臣の一人であったコンスタンティアスを汚職の罪で処刑しなければならなくなった時に、再び離別の苦しみを覚えた。

 アッティラは抜け目の無いエイティアスが送ったその男がスパイ的な性質を持っている事を承知しており、それもまた権力のゲームの一貫と見ていたし、友人とすら思っていた。

 かようにして破壊的征服者はその物理的な破壊力のみならず、言葉の刃もまた極限まで磨いたものと思われた。

 無数の離別の果てにエイティアスと戦って敗れ、そしてそのエイティアスもまたあまり命運が長くないと悟り、破壊的征服者はその在り方から転げ落ちて行った。

 しかし時空を超えて全ての黒幕Mを撃退し、そしてヒーローとしてつい先日までネイバーフッズに在籍したアッティラは、己自身がより深い暗闘へと赴かなければならなくなった兄の不慮の死を、今では悲しみであると同時に己の成長の糧となった重要な記念日と見做していた。


 ケインはチェアメンを、今別件で出動中のジャッカロープを除いて招集した。

 つまりネイバーフッズの古株メンバーであるが、例外的にまだ若い世代のジョセフも呼んでいた――彼の頭脳は頼りになるし、その彼とドクが組めば大抵なんとかなりそうに思えた。

「諸君、アッティラはやはりただ退いたわけではなかった」

 ネイバーフッズを率いるケイン・ウォルコットはアッティラから送られてきたデータを掲示し、ホログラムの三次元表示が恐るべき死闘の一部を示し、その他の文字の羅列が簡潔かつ正確に状況を物語っていた。

 むしろケインは補足すべき点が少なくてただ読み上げるぐらいしかしなかった。

 メンバーの中では様々な反応があった。レイザーことデイヴィッドは『あいつならそうしそうだ』と彼らしくクールに受け止めたが、やはりドクはややショック気味であった。

「ドク、気持ちはわかるよ」とケインは言った。

「でも、結局騙されたみたいじゃないか…」今でもアッティラにやや苦手意識のあるチームの頭脳は、掲示された情報を頭の中で組み立てて整理しつつそう言った。

「まあ、そこで一つ。ファイルの最後の方に『恐らく我らがドクターは快く受け止める事もあるまいから、謝意を伝えておいてくれ』と書いてあったよ」

 ケインはできればこの話は軽く流して先に進めたかった。確かにアッティラのやり方は最後まで彼らしかったというか、彼らしい強引さがあった。あれでもかなり丸くなったのではあるが。

 しかし今は未知の脅威が事件の裏側にいた事が明らかとなっており、これからどうなるか予想できず、この前のようにマンハッタン島が大惨事になる可能性はあった。

「ズルいな、彼は」とドクは呟いた。それにジョセフが続いた。

「ま、本当に嵐みたいな人だよな。でも重要なのはさ、彼が警告を送ってくれた事、それと彼が裏側にいる黒幕を追い掛け続けたって事じゃないか?」

 立って腕を組み、全身を覆うアーマーの顔部分を露出させた精悍な顔の天才は、不和が嫌いであった。

「お前さんらしいな」とチームの魔術担当のDr.シュライクことパトリックがやれやれという調子で言った。

「だが一理ある。今はとりあえずこの問題に取り組まにゃならんしな」

「賛成」とやや気怠(けだる)げにレッド・フレアが言った。

 赤い装甲を持つ女性人格のロボットは己の単眼をちかちかさせつつ、その実特殊な信号を発してマンハッタンに異常が無いかチェックしていた。それを見てドクとジョセフも各々観測機器をチェックした。

「ハンス、君からは何か無いか?」とケインはチームの武術担当に訪ねた。チームの格闘訓練を受け持つ中世ドイツの剣豪はとりあえずわかっている事を話した。

「特に言える事は無いな、とりあえず例の六人の剣豪はまだ関係してないってところだ。今のところ俺達はこのとんでもない神殺しに専念できると思う」

 言いながら彼は己の技かこの恐るべき兵器の英雄に通じるのかを考えた。

「ハヌマーン、何か知っている事は?」

 ハンス・タールホファーはアッティラの報告書の最後の方にある情報が気になって仕方なかった。

「うーん、そうだな…シヴァ卿から『サソグア卿のご子息に不幸があった』とは聞いていたけど、まさか裏でこんな事がね…」

 というのも、ハンスは〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズが持つ『シミュレート能力』があまりに恐ろしく思えたのだ。

 もしも、己らのあらゆる攻撃手段がシミュレートされ、その対策が構築されて全て通じなくなったとしたら?

 フランスの天才音楽家にして剣豪騎士であったとある男の到達した剣を想起した。

 あれもある種のシミュレートに基づく防御であり、信じられないような鉄壁を誇る剣の結界であった。




一時間前:蒼穹の位相、オグンの工房塔


 爆炎の向こうから、単純な破壊範囲で言えばメガトン級の核爆発のごとき一撃を踏み越えた者の姿が見えた。それは健在であり、不屈であり、思うに英雄の中のインドラであった。

「シヴァ卿の髭にかけて、これは何かの間違いではないのか…!?」

 ラーヴァナの愛息子は己らの見ている光景が信じられなかった。

 というのも眼前の敵はかくも凄まじき英雄達の猛攻を一人で受けて、そしてインドラジットとアージュナが放った神の兵器とてこれの膝を屈させる事叶わなかった。

「ああ、確かに…こいつは不味いな」とアージュナは言った。ガンシップのごとく旋回しながら力強いガルーダのように上空の戦馬車(チャリオット)から状況を伺う二人は、さすがにこの最後の一撃を受けて相手が平気とは考えていなかった。

 三界にあのような難攻不落の兵器の英雄がいたとは、まさに青天の霹靂であった。

 常人であればいるだけで失明する真っ青な空を備えたこの位相は爆風の蹂躙から立ち直っていたが、しかし下級の精霊やその他の類いどもがぎゃあぎゃあと騒いでいた――兵器の英雄が怖いのだ。

〔シミュレート完了しました。今後同様の攻撃は無効化できます〕

 アッティラは数十年前にアメリカのとある田舎の廃墟で発見された写本の内容を思い出していた。

 それは『白人』の化身ポール・バニヤンと『インディアン先住民』の化身ナナボーゾの一カ月以上に渡る死闘を記録しており、ユーラシアかアフリカかあるいはそれ以外のどこかで建造された巨人を侵略用サブルーティン『ポール・バニヤン』として組み直したものが有した能力と似ていた。

 自分で言ってくれて感謝するぞと内心罵倒しながらも、しかし相手の次の手に備えねばならなかった。

「なんだ。こいつら、弱いじゃん」とややほっとしたような青年の声がした。アッティラは『お前もいいように操られているのであろうな』と哀れに思った。

「そうとも、ジョー。君が死刑宣告すれば死ぬ程度の雑魚どもさ」

 それに最良の円卓の騎士が答えた。

「雑魚だと? 儂らがか? 力を合わせれば地獄の怪物どもも震え上がるこの英雄の集いがか?」

 明らかに彼は激怒していた。

「彼の言う通りだ」とジョナヤイインが同意した。「お前達は稀有な英雄の制御権を悪用するただの子供に過ぎん」

 嫌な空気が流れ、そのまま何も起きず数秒過ぎた。

〔命令を確認しました〕

 兵器の英雄〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズの声が響き、アパッチとナヴァホにて奉じられる人類の敵の敵は一瞬で上空へと飛び上がった。そして英雄達がいる塔最上階目掛けて同じ速度で落下して来た。

 その途端、巨大隕石の衝突に匹敵する信じられないような衝撃が発生し、爆風が海を荒らし、野山は流血し、通常位相のインドに相当する位置で静かに暮らすラーヴァナとクンバーカーナは咄嗟に己らの住居とその周辺を守るシールドを張らねばならなかった。

「我が兄よ、さすがにこれは度が過ぎましょうな。我らの悔悟の日々は、このような三界の新たな脅威に備えてのものであったのかも知れません。遠大なるシヴァ卿やブラーマ卿は恐らくそのようにお考えで、我ら三人が新たにこの世を生きる事を許可されたものと。しかし我らにはかつてのような城塞も無く、兵もまた無く、頼りになる家臣団もまた存在せぬものですから、それを思うとやや不安ではあります」

 かつて天を衝く程の巨体を誇った巨人は往時と変わらぬ聡明さで言った。

「愛する弟よ、私の可愛いクンバーカーナよ、確かにあなたの言う通りだ。事によっては敵は、マへーンドラ卿の従者たるマルト神族、ナーガやウラガ、未だ健在なアスラやラークシャサ、大力の猿類、その他神仙達、そしてマヘーンドラにしてその他でもあるインドラ卿ですらも叶わない可能性がある。そして我らの愛しいメーガナーダ、かつて征服に走り今はやり直しのために生きるあの子とマヘーンドラ卿のご子息、及び外国(とつくに)の英雄達が力を合一させた上でも、征服されてしまう可能性があります」

 インドラジットの『父』と『叔父』は己らがこの新たなやり直しの生でこれまで一度しか使った事がない鎧と兵器を用意するため、力強い足取りで武器庫へと向かった。

 空はこの日も信じられないぐらい蒼かったが、爆風の影響でやや空間が歪んでいた。しかしそれらは、戦いの準備を始めた彼女達の意志を受けて正常に戻り始めた。

 マイナーなアパッチ神話・ナヴァホ神話の邪神殺しの大英雄を超強キャラとして登場させるのは謎の疾走感がある。

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