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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
226/302

NEW WORLD NEIGHBORHOODS#21

 アメリカン・インディアンの諸神話における最強クラスの英霊を前に、世界各地から集ったチームが喰らい付く。神殺しと言えど、この力の集合を前にしては手を焼かざるを得ないらしかった。

登場人物

―アッティラ…現代を生きる(いにしえ)の元破壊的征服者、ヒーローを引退した元ネイバーフッズ・チェアマン。

―オグン…ヨルバ神話の軍神。

―インドラジット…かつての邪将、清く今を生きるラークシャサの英雄。

―ガウェイン…屈強な円卓の騎士。

―ジョナヤイイン…北アフリカの神話の大英雄、狩人であり太陽神の息子。

―アージュナ…再び人の世を歩むマハーバーラタの大英雄。


闇ども

―ジョー・ブルッキアス…貧しい暮らしを送るアパッチ系の少年。

―ダーケスト・ブラザーフッド…ジョーを導く正体不明の仮面の男、群体型コズミック・エンティティの一部。

〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズ…アパッチ・ナヴァホ系の民族に広く伝わる北米神話の大英雄、人類に敵対する『敵』を滅殺する究極の神造兵器。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十カ月前:蒼穹の位相、オグンの工房塔


 邪神を討ち滅ぼす北米最強の英雄であり、神によって鍛え上げられた窮極兵器であるそれは、己を包囲する大英雄達を分析した。

〔強大な反応、総和ではオサダゴワー以上の脅威です〕

 機械的な英雄の警告は、その内側に『座乗』している二人を苛立たせた。アパッチとナヴァホの血を引く青年の意識は焦燥を覚えた。何せ、彼が神同然に幼い頃からぼんやりと憧れた英雄その人がはっきり『脅威』と呼んだのであるから。

 あまり神話や伝承には詳しくないが、内何人かは聞いた事がある。それにあの狩人…ジョナヤイインと言えばアパッチの大英雄だ。昔何かのアニメにも登場していた――多分『マイティ・マックス』のような。

「はて、言葉を失う程か? 世間がダーケスト・ブラザーフッドと呼んでその輪郭を獏々ながらに夢想する貴様が、それ程までに動揺したか? 我が友アッ=サッファーに誓って、貴様は脆弱であると言う他無いであろうな」

 アッティラは他の全員と動揺に油断無く構えていた。相手が何か動きを見せればいつでも斬り掛かれる。確かに相手は強大であり、神殺しであり、天晴(あっぱれ)な程に大力の者であった。しかしそれがどうしたものか。

 こちらにもインドラジットがいる。アージュナがいる――まだ到着していないが。ジョナヤイインがいる。ガウェインがいる。そしてオグンがおり、己がいる。

 では何を恐れるものか。むしろ恐れるのは己の敵対者の側であろう。恐れ慄け、彼我の力量差故に。

「余もそなたの話は聞いているぞ」と美しいラークシャサの王子は言った。「以前シヴァ卿と父上の話に出たものだ。そなたは大地を蝕む異邦の邪悪どもを打ち払い、人の世を作る礎となったはず。そのような高潔な武人であるそなたが、一体何故滅せられるべき邪悪に力を貸す?」

 弓を構えた黄金の鎧のインドラジットは威厳ある様子でそう尋ねたが、しかし相手に返答はつれなかった。

〔エラー、未登録のユーザーからの質問。アクセス権の無いユーザーからの質問にはお答えできません。先に登録を済ませて下さい〕

「ぬぬ…」

 インドラジットは相変わらずであるらしかった。彼は微笑ましい男であった――親子揃って新たな生を正しく生きているのであるから。そういえばラーヴァナとクンバーカーナは元気にしているであろうかと考えながらも、アッティラはこの『平和』がいつまで続くか考えた。

 思うにそろそろ和平は反故になるであろうが。

「ああ、もう。黙れよ!」

 苛立った声でジョー・ブロッキアスという名の青年は窮極兵器に攻撃命令を出した。

 途端に視界が悪くなった――恐るべき破壊の攻防が始まり、あらゆるものが飛び交った。大気が怯え始め、下級の霊魂達が泣き出した。

〔非リニア時間線的兵器、並びにエントロピー操作兵器を起動〕

 アッティラはあの大雨の日の事を思い出した。オサダゴワーが物体の劣化を強制的に進めようとした事で危うく死に掛けた。それと同じものを使うつもりであれば、この剣で切り裂かねばなるまい。しかし非リニア時間線的兵器とは――。

 その瞬間神であるオグン以外の全員が薙ぎ倒された。


 敵は予想以上に巧妙であるらしかった。アッティラは時間に跨って存在していたあの蛇によって鍛え上げられた剣であるが故に敵の攻撃の性質がわかった。すなわちあれは、神々が当たり前のように使う攻撃手段なのであろう。

 彼は以前過程の存在しない奇妙な攻撃を斬り捨てた事があった。しかし今回のそれはもっと厄介であった。強いて言えばこれは『速さ』が違うのではないか。それ故に誰も反応できぬまま倒れた。インドラジットもかつて程の力量は無いから、この結果は避けられなかった。

 しかし最低限、全員がエントロピー操作による劣化の加速をぶち壊す事には成功した。結果として見ればこれは過程が存在しない物質劣化攻撃であったが、劣化効果そのものは防ぎ、副次的な衝撃波を防ぐ事には失敗した。

 アッティラはここまでの衝撃を久々に感じた。頭の中がぼうっとして、耳がミュート状態で、視界もちかちかとして定まらなかった。

 そして次の瞬間、彼は己の目の前に〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズを見た。不味いと思ったが、その瞬間横合いから剛力のガウェインがショルダータックルを喰らわせて弾き飛ばした。

 受け身を取りながらガウェインに向き直った北米最強の大英雄に対し、アーサー王のかつての忠臣は下段で〈追放されし刃〉(ガラース)を構え、背後に回り込んだインドラジットが矢の雨をお見舞いしつつ梵天の拘束具を投げた。

 狩人たるジョナヤイインが魔獣を屠る強烈な一発を放ち、アッティラもまた己の剣を伸ばしてこれを攻撃した。そし軍神オグンが己の周囲に従える無数の兵器に攻撃させ、爆炎が晴れぬところへとガウェインが突進した。

 ガウェインは手甲に覆われた左手で刃の真ん中辺りを握って操作性を上げ、強烈な突きを見舞ったり鍔を引っ掛けて相手の態勢を強引に崩しに掛かった。

 さすがに日中のガウェインは剛力無双の身であり、神の息子であるオラニャンと斬り結ぶ事すら可能であったから、さしもの〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズとて軽視はできなかった。

 稲妻の刃で迎撃する〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズの背後から梵天の拘束具が襲い掛かり、相手はそれを無効化するまでに三秒を無駄にした。その間にガウェインが一旦後退し、アッティラは山をも裁断する〈神の鞭〉(ゴッズ・ウィップ)の斬撃を放った。

 数キロメートルにも渡って伸ばされた脈動する癌細胞じみた聖剣の一撃はさすがに無効化に失敗したらしく、奇妙な警告音が聞こえた。

 これらのやや優勢な様を思うと、恐らく単身でこの恐るべき大英雄と対峙せねばならない敵を相手にせねばならかったオサダゴワーが哀れに思えた。

 もしオサダゴワーの隣にライブラリアンかオグンがいれば、結果は違ったのかも知れなかった。しかし今回の一連の騒動の黒幕であるダーケスト・ブラザーフッドの言葉を信じるのであれば、敵はオサダゴワーを殺し、そして見たところそれが持つ能力を取り込んだものと思われた。

 神殺しはかくして新たに神殺しの伝説を作り上げたらしかったが、しかし北から南まで見てもアメリカ全土において最強の一角である事は間違い無いであろうここまでの英雄が、かかる邪悪の道具として使役されている様はとても憐憫の念を誘うものであった。

 その事実は、普段は恐らく人付き合いが苦手で内気なオグンを勇ましき復讐鬼へと変えるに足るものであった。それ故に、今こうして蒼い工房は地獄めいた争いの地となっているのであろう。

「派手にやっているみたいだな」

 アッティラは久しく聞いていなかった声を聞いた。確かあの時、Mの勢いを一気に削いだ男…。

「おお、アージュナよ! 先に始めておるぞ!」

 言いながらインドラジットは激烈な矢を降らせ続けた。インドラジットと並ぶ美青年は叙事詩の通りの英雄で、恐れを知らず、そして今回も英雄敵行為を成すために現れたのであった。

「恐ろしい相手だな、人にも猿にも、ナーガにもラークシャサにも、マルト神群にもデーヴァ神族にも、またその他の神々の諸侯にも、このような類は見た事がない」

 マハーバーラタの大英雄は弓を構えながら恐るべき神殺しを分析した。するとこれにインドラジットが得意気に答える前に、アッティラが答えた。

「大いなる異邦の英雄よ、目の前の敵はすなわち私と同じなのだ。私はかつてあの吐き気を催すMが作り上げた剣、目の前の〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズもまた、我々が北アメリカ大陸と呼んで理解している地のとある神族が作り上げた兵器である」

 己を差し置いてアッティラが答えた事に対してわかり易くむすっとして見せるインドラジットを尻目にアージュナはアッティラの言葉を飲み込んだ。なるほど、確かにこれは『兵器』の英雄であるようだ。

「アージュナよ、余に考えがある!」

「どうぞ、そっちに合わせるよ」

 インドラジットは普段よりもやや大きめの声を張り上げてもう一人のインドの弓取りを手招きした。彼らがだっと駆けると、この塔の頂上にある工房から彼らは飛び降りた。数秒後、恐らくインドラジットのものと思われるインド的な戦馬車(チャリオット)が現れた。

 アージュナと一緒にそれへと乗り込んだインドラジットは何やらジョナヤイインと目を合わせた。天空へと消えていくそれを見送ると、ジョナヤイインが地上組に一言告げた。

「雹の雨のような凄まじい爆撃が来る、一旦離れた方がいい」

 言いながら狩人は何やら奇妙な弾頭の矢を(つが)えた。彼がそれをすうっと放つと、避け損なった〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズの背中の装甲に付着した――攻撃用ではないのか?

 そしてそこから緑色の煙が立ち昇った。なるほど、そういう事か。依然遠巻きの攻撃で爆炎が巻き起こっているが、自己主張する緑色の煙は信じられないぐらい蒼い空の下でよく映えた。上空の爆撃者達にとって絶好の目印だ。

 ナーガやヤマの激烈な兵器が放たれ、屋根が幾らか壊れた工房にいる〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズを容赦無く打ち据えた。さしもの神殺しもこれらの兵器が与える呪いやその他の有害な影響を抑える事に追われた。

 それを見た軍神もまた負けじと火力を集中させ、衝撃波が何度も駆け抜けた。やがて上空の二人は恐るべき兵器を解禁したらしかった。

「梵天の死の兵器を使わせてもらおう」とアージュナが言い、それから〈梵天の兵器〉(ブラーマストラ)が二人の強靭な弓からそれぞれ発射された。副次的な悪影響をかなり抑えているが、それでも命中した対象にとってはまさに悪夢と言えた。

 塔の屋上で大爆発が発生し、数千ヤードに渡って巻き起こった爆風はやがて水平線の向こうまで到達した。

 頑強なガウェイン卿が『やれやれ』と呟き、咄嗟にオグンが展開してくれた巨大な盾に隠れた他の地上組は、信じられないような爆風の中で佇むオグンに後で気が付いた。

「これでも駄目ならシヴァ卿の兵器を持ち出すしかないが…」とシヴァの使者であるインドラジットは上空から目を凝らした。

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