NEW WORLD NEIGHBORHOODS#20
アッティラがいなくなり、彼と共に戦ってきたケインは色々と思い出していた。その一方、アッティラはオグンから『誰が剣を買いに来たか』の情報を引き出すが、魔の手が迫る…。
登場人物
―アッティラ…現代を生きる古の元破壊的征服者、ヒーローを引退した元ネイバーフッズ・チェアマン。
―オグン…ヨルバ神話の軍神。
ネイバーフッズ
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…弾道を視覚化する事ができるエクステンデッドの元強化兵士、様々な苦難苦境を踏み越えて来た歴戦の現リーダー。
―ハヌマーン…ラーマ王子に仕えた伝説的な猿の戦士、グレードダウンして顕現する神。
闇ども
―ジョー・ブルッキアス…貧しい暮らしを送るアパッチ系の少年。
―ダーケスト・ブラザーフッド…ジョーを導く正体不明の仮面の男、群体型コズミック・エンティティの一部。
―〈諸敵の殺害者〉…アパッチ・ナヴァホ系の民族に広く伝わる北米神話の大英雄、人類に敵対する『敵』を滅殺する究極の神造兵器。
『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十カ月前:蒼穹の位相、オグンの工房塔
この恐ろしいぐらいに澄んだ蒼穹の位相に工房を構える軍神オグンは、常人であれば見ただけで即死し、それに耐えられたものでさえも発狂または廃人になる美しさであった。
幸い『常人』ではなく強壮な精神を持つ彼はオグンの放つ美に耐えられたが、しかしそれでもやはり神の持つ美しさは目を見張るものがあった。
肌には荒れも傷も一切存在せず、計算されたがごとき美しさであった。
歴史的経緯から本人が思っていた以上の広範で信仰を受けるこの軍神は、永らく孤独であったため内気になったらしいが、しかしそれでもその美は損なわれていないと思われた――あるいは損なわれたとしてもそもそもが美し過ぎるのかも知れなかった。
アッティラは油断せぬようにしていた。というのも、眼前の神格から悪意や敵意は感じないにしても、神の美しさは油断しているとそちらに気を取られそうに思えたからであった。
混沌によって鍛え上げられた剣の一振りであるアッティラにとっても、やはり神は度しがたい実体であった。
「では、その情報を提供してもらいたいのだが。貴公の持つ情報が我々人間を闇から救うための手助けになるかも知れないから」
アッティラは真摯な態度で言った。神を前にして誠意を持ったまま堂々とするのは難しかったが、しかし彼は可能な限りでそう振る舞った――幸い相手はコミュニケーションが苦手で内気な神であったが。
今の彼は再びあの〈影達のゲーム〉の闇にいるような感覚であった。誰も頼る者がいない――否よ、アッ=サッファーがいたではないか。
では今はどうか。神の棲まう領域へと単身で足を踏み入れた。幸い相手は人類に友好的であると思われるが、それでも孤独の道は辛いのではないか。
アッティラは神が返事を返すまでの数秒間、高速でそれらの思考に耽った。思えば生前、第一の生には常に兄が、そして家族もいた。
それらを喪った後も、ローマ領生まれのオレステースは己の信頼できる部下であり、腹を割って話せる親友であった。
それらを思えば己は意外と、人生の多くを誰かと共に歩んでいたのかも知れなかった。ネイバーフッズのメンバー達については言うまでもあるまい。
「え、ええと。あ…いいけど」
神は彼なりに簡潔に答えた。それでよかった。上手くいったようであった。
「オグンよ、今も多くの側面が生まれ続ける現代の神よ、大いなる者よ。人類の大半は貴公の此度の贈り物を知らぬであろが、少なくとも私は貴公に感謝を捧げる。貴公はもしかすると、人類を救う事になるかも知れない」
アッティラは可能な限り堂々とした態度で、かつ敬意を払ってそう言った。応対慣れしていないオグンはいきなり感謝を告げられて戸惑い、思考が固まっているように見えた。
実際に神をそのような単純分析するのは不可能であるが、少なくともオグンという総体の一部は停止しているのかも知れなかった。
『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース
アッティラはネイバーフッズ入団当初のような強引さでその姿を消した。責任を取ってヒーローを引退すると言った。
自らが招いた厄災の芽と共に栄光あるチームから身を退いた。
いざその時が来ると、ケインは胸にこみ上げる感情を堪えるのがとても難しかった。
己はチームを統率する身であるから、泣いたり喚いたりするとそれは全体の士気に関わるであろう。しかしそれでも、感情を制御するのは難しかった。
しかしそれも当然であろう、両者は様々な苦難を共にしたのであるから。
意見を違えた事など一度や二度ではなかったが、しかしそれらを踏まえた上で友人であると、親友であると考えていた。苦楽を共にした戦友は、もうこの場にいなかった。
次の出動まで不意に二〇分程の間があった。チームの科学担当達が作り上げた最新鋭の投影ホログラム機器に囲まれて情報を整理しているフン人の姿が今でも目に浮かんだ。
今、ガラスの壁で覆われたその部屋には誰もいなかった。
ケインはその部屋に入った。いなくなった友の痕跡を求めようとした。今となっては、そこには何も無かった。
ケインの接近を探知してホログラムが展開された。
彼の立ち位置に合わせて平面上に複数のモニターが投影され、世界中の様々な報道や大手ポータルサイトが表示された。
チームのリーダーはアッティラがまさか辞めるとまでは考えていなかった。
恐らく、彼自身にとってもこの手は最後の手段だったのではないか。
不明瞭で何も見えて来ない、本当にあるのかわからないザ・ダークことダーケスト・ブラザーフッドの脅威。
アッティラの最新の見解では、ネイバーフッズを監禁して逮捕・その後暗殺されたギャボットの件、マンハッタンに襲来した有翼の蟇の神オサダゴワーの件、及びオサダゴワーとの交戦中助太刀に来てそのままチームに加入したもののありもしない事実をチーム内に振り撒いて不和を作ろうとしたジャレッドの件は、全てあの陰謀組織の仕業であった。
だがそれらもやはり推測でしかなかったのかも知れなかった。アッティラ自身の焦りのようなものがケインには感じられた。
それを強く意識したのはアールとエリカの衝突の一件であり、アッティラは目に見えない敵との戦い――揶揄的な意味ではない――によって摩耗していたのか?
キャプテン・フェイドはその名を表すがごとく、チームの前からいなくなってしまった。彼はいつになったら帰って来るのであろうか。
不思議な魅力のある男で、超が付く程裕福な家庭に育った洗練された立ち振舞いと、ヒーローとしての巌のごとき在り方。
チームを、否、ヒーロー自体を引退して久しいキャメロン・リードは今も元気にしているのであろうか。忙しい日々の中、去った彼の事を思い出すのは久し振りであった。
ネイバーフッズというチーム名の由来となる発言をした彼は、今回のチームの事件をどう見ているのであろうか。
今になって思えばリードと、加入してきたアッティラの最初の諍いがとても遠い昔に思えた。彼らは互いに啀み合う事もあったが、本当は心の底から互いを尊敬していた。
ああ、とケインは声が漏れた。いなくなった友は、今どこで何をやっているのか。
別のチームに移った初期メンバー、ホッピング・ゴリラとウォード・フィリップスとMr.グレイの事を思い出した。
彼らならいつでもモニター越しに会うか、あるいは何かあった時に共闘する事もあろう。それら『消息のわかる友』については、離れていてもまだ身近に感じられた。
初代キャプテン・レイヴンやほんの一時期チームにいた二代目ライト・ブリンガーも健在であった。
であるが、と朝鮮戦争時に負傷し次に起きた時はヴェトナム戦争の時代であったアメリカの超人兵士は思った――本当の意味で離れて行った。友はどうすればよい?
日々の忙しさで誤魔化すのが最善の手であろうか? もしかすると本当にそうなのかも知れなかった。
ふとその時、誰かが近付くのを感じた。この歩行音のパターンは…。
「やあ、浮かない顔だね」
「そうかな?」とケインは顔を上げた。ハヌマーンが近付いて来ているのが見えた。
「アッティラの事かな?」と普段は爽やかな猿中のインドラは言った。しかしなんとなく、普段の彼よりも影があるような気がした。
「ああ。私は彼と長い事一緒だった。彼は私と、私達と一緒にチームの最初の頃から頑張ってきた内の一人だ。毎回思うよ、そういう友人と離れ離れになるのは慣れないなと」
ケインは顎に右手を当てて匂いを嗅ぐようにして息を吸った。それから同じぐらいの長さの息を吐いた。
「気持ちは僕も同じだね。ラーマ卿が僕の前からいなくなった時と同じ感じがするよ」
白いTシャツ姿という室内風な服装をしていたハヌマーンはシャツを捲って、己の右手を胸に突き刺した。
原型質が蠢く体内から、寄り添うラーマとシータの像が取り出された。
ケインは今となっては見慣れたハヌマーンのこうした『苛烈さ』を目を逸らす事無く眺め、相手が話を続けるのを待った。
「ほら、これと同じなんだ」と己の胸を抉ったインドの大英雄は言った。「胸にぽっかりと空白ができた感じがするのさ」
なるほど確かに、こうして実演されると説得力があった。
今までもそうであったように、アッティラがいなくなった時に心の空白が生まれたのを感じたのか。
「生きている上では仕方無い事だと思うよ。親しい者もそうでない者も、自分の前からいずれは離れるから」
神であるが故にほとんど殺害不能のハヌマーンは像を胸に戻しながら言った。
猛将インドラジットにすら『殺す事ができない』と思わせた猿中のインドラは、ケインを真っ直ぐ見据えて言葉を紡いだ。
ケインは己よりも遥かに永い月日を生きる実体にそうした言葉を掛けられた事で、少し負担が減ったような気がした。
なるほど、誰だって傷付いているか。
そうか、それなら大丈夫であろう。人も神も、その意味では同質であるというのであれば。
ケインはリーダーとして立ち上がる必要があった。アッティラは最後までチームのためを思っていたのだ――彼なりに。
「ところでハヌマーン、我らが友アッティラの行き先に心当たりはあるかな? 彼がただ単にチームを辞めたとは考えにくい。何か考えがあって、その手のためにチームを辞める必要があったはずだ」
ケインはアッティラが頑なにチームを引退すると言っていたのを見て色々と察した。
アッティラ自身も、せめて付き合いの長いメンバーには真意かその片鱗を悟って欲しかったように見えた。
「うーん。そう言えばあの蟇の神格と戦った時の事だけど。僕が彼に教えた事があるんだ」
「それは?」
ハヌマーンはアッティラに対して、オサダゴワーが所持している軍神オグンが作った剣の事や、滅多に来客の無いオグンが来客に素晴らしい鍛冶の作品を格安で与えている話をしたとケインに説明した。
「アッティラはこう考えたのかも知れない」とケインは顎から手を離してハヌマーンに向けて掌を軽く差し出した――続きを継いでもらうのを促すかのように。
「そうだね、アッティラはオグンが来客を覚えていると考えたのかも。だからそこに欲しい情報があると思った」
ハヌマーンもまた、ケインに向けて掌を軽く差し出した。
「一体誰が軍神の元に剣を買いに行ったのか? オサダゴワー本人か、それとも…」
ダーケスト・ブラザーフッド、無数の独立した肉体の総体である悪意あるコズミック・エンティティ。
アッティラはザ・ダークの実態を既に突き止め、それをチームのチェアメンに話していた。
同時期:蒼穹の位相、オグンの工房塔
アッティラは既に勝利について考え始めていた。オグンは全て記録しており、ナンセンスな白い仮面のスーツ男が買いに来た事を記録していた。
それは記述記録だけでなく、映像記録や音声記録としても残されていた。
男の背格好を己の記憶と照らし合わせた――ジョン・スミスが探り当てたのと同じ相手で間違い無い。
アッティラは念のため、乱雑に破ったメモ用紙に記録していた身体的特徴を確認した。懐から取り出したそれは、彼の正しさを証明した。
「オグンよ、貴公のお陰でやはり我々は今暫く存続できそうである。人類に友好的であるその在り方に敬意と感謝を示す。神よ、今後も永遠の栄えのあらん事を」
アッティラは胸に手を当てて、相手を畏怖し敬う態度を見せた。それに慣れていないオグンは戸惑いながらも喜ぶ様子を見せた。
さて、これで〈王の旗竿〉を買いに来たのがオサダゴワー本人ではなくダーケスト・ブラザーフッドの一部であると確定した。奴め、同じ一部を使い回したのが仇となったな。
「そ、そういえば、あの…図書館のスパイアが襲われたって」
「さすがは階梯の違う実体、ご存知か。私もその件は調査していた。図書館のスパイア防衛に携わった知り合い達と連絡を取って、何があったのかを把握した」
「酷い事件、だった…よね。ライブラリアンが死んじゃったって」
ふむ、とアッティラは思った。ライブラリアンがこの地に来ていたのか?
「オグン卿はライブラリアンと面識がおありか?」
「い、いや、そうじゃないけど…あの、その…」短く切り揃えた髪と黒い肌に覆われた完璧な配列の美しい顔に何やら憐憫の念を浮かべるオグンはゆっくりと先を続けた。
「ズヴィルポグアが、ライブラリアンと友達だったから。ズヴィルポグアは僕の数少ない友達で…」
それを聞いた瞬間、アッティラは稲妻に打たれたような気がした――高速で思考して、何故そう思ったのかを推測した。そして理解した。
ズヴィルポグア、すなわちオサダゴワーの本名であるが、あの美しい有翼の蟇の神格は、オグンと友人である、それはまあいい。だがオサダゴワーとライブラリアンが友人だと?
まあそれとて、ただそれだけの事かも知れない。
しかしアッティラには、何故か図書館のスパイアが帝国と呼ばれる勢力に侵略され、反帝国同盟との間で全面戦争に陥った事件すらも、ダーケスト・ブラザーフッドの関与があるように思えてならなかった。
この今までと同じ『ザ・ダークに対する根拠の無い推測』が本当であれば、どのようなシナリオが考えられるかと予測した。
事実だけ見れば、図書館のスパイアはその守護者であるライブラリアンを喪失した。
つまりもし、今は既に元とは別の次元へと一旦退避・潜行して隠れたスパイアに何らかの方法で侵入できる者がいるとすれば…。
もしそれが可能であれば、侵入者は地球のあらゆる事柄を記録している図書館のスパイアに保管されているあらゆる記録にアクセスできる。
その中にある欲しい情報を好きなだけ入手できる。スパイアの防衛システムはライブラリアンの存在そのものにエネルギー源を依存していた。
無人かつ無防備なスパイアに、これまでの一連の陰謀を働いたダーケスト・ブラザーフッドが侵入したとすれば――帝国の侵略戦争そのものが、ダーケスト・ブラザーフッドが仕組んだスパイア陥落のための陰謀であるとすれば?
アッティラは今まで以上に陰謀論にのめり込む己を笑った。
だがこれでいい、己の推測はこれまで正しかった。ならば後は勢いで突っ走るしかあるまい。
「いや、失礼。恐るべき陰謀を察知したので――」
アッティラは最後までそれを言えなかった。
突如とんでもないような衝撃が工房を襲った。
吹き抜けになっているこの塔最上階の工房に何かが侵入し、鍛冶道具と床の一部が吹き飛んだ。何かが噴煙の中に見えた。
「オグンよ、それ以外のあらゆる者である大力の者よ、どうやら私が思った以上に状況は深刻であるらしい」
アッティラはこのタイミングでの来客など確実にザ・ダークと関連があると信じて疑わなかった。噴煙の中から、漆黒の機械が姿を現したのだ。アッティラは抜剣し、次に起こる何かに備えた。
〔カテゴリー6とカテゴリー13を確認〕
人型の機械兵器の声はわざと言って聞かせているように思えた。
「カテゴリー13はなんだね?」と男の声がその内部から聞こえた。これは面妖であるな。
〔カテゴリー13、高次元存在を模倣して作り出されたもの、自我を持つ剣、〈混沌剣〉です〕
「そうか。ではジョー、見ての通りこいつらもまた我々の邪魔をする連中だ。消し去ろう」
「ああ、言われなくたって!」
別の声がした。燃え盛る頭部を持つこの兵器の中に、どうやら二人の何者かがいる。そして思うに、その片方がダーケスト・ブラザーフッドだ。
「ほう? 漸く会えたな? 貴様と直接対峙できる時を楽しみにしておったのだ」
鎧で身を包んだアッティラは肉腫じみた美しい聖剣〈神の鞭〉を構え、その延ばされた刃が床に垂れて今か今かと触腕のように蠢いた。
「そうだな。だがアッティラ、君はここで死ぬからそれで終わりだ」
「愚か者と虫けら程よく吠えるものである。私が未だ健在であるなら、何故そのような大口が叩けような?」
アッティラは煽りながらも状況を観察してた。オグンはさすがに軍神だけあって、既に戦闘態勢に入り、神造の甲冑を纏い、〈王の旗竿〉のほぼ完全な模造品を右手で地面に突き立てて支え、その周囲には無数の刀剣や砲が浮かんでいた。
だが相手はこちらが何者であるかを簡単に言い当てた。神はともかく、一目見ただけでアッティラが〈混沌剣〉なのを確定させた。高度なスキャン能力があり、膨大なデータベースがあるはずだ。
更にはこの異位相の、切り離されたオグンの工房へと侵入した。あれは明らかに正面玄関を通ったわけではない。
「後ろに隠れる臆病者よ。貴様が反ヒーロー主義の男にネイバーフッズを拉致・監禁できる手段を与えた。貴様が逮捕されたそれを、一流の殺し屋を雇って殺させた。貴様がオサダゴワーに剣を買い与え、ニューヨークを襲撃させた。貴様が未知の〈混沌剣〉をオサダゴワー戦の援軍として送り、チームに入団するよう仕向けた。貴様が図書館のスパイアに帝国を煽動・侵攻させた。その貴様が今ここにいるな。さて、今すぐ降伏した方がよいぞ? 我ら二人は協力無比、対してそちらは単体か? 勝ち目の無い戦いはやめておけ」
すると笑い声が聞こえた、心底楽しそうな。
「いやいや、一つ足りないね」ダーケスト・ブラザーフッドの一部である仮面の男は機械兵器の内部から言った。「ジョーと私は、既にオサダゴワーを殺した」
その瞬間、オグンは激昂して全兵器を攻撃させた。凄まじい火力が襲い掛かり、空間が捻れた。
しかしその爆炎の向こうから飛んで来た稲妻がオグンに襲い掛かった――そうはさせるか。
アッティラは強力な〈否定〉の力を持つ己の剣を鞭のように振るってそれを斬り裂いた。
しかし今までに感じた事の無いような剣圧を感じた。これは不味いな。
無傷の敵は本格的な戦闘モードに入ったらしかった。先程一度斬り結んだだけであるのに、相手が次元違いである事を悟った。
これは神そのものか、それに匹敵する強敵である。いや、下手すると、オサダゴワーを殺したのであればオグンと共闘した上でも厳しいのではないか。
「無力な奴らだ。見たか、ジョー? あれが神様気取りとその親戚だ。今の我々からすれば雑魚だ」
「ああ…最高の気分だ。気に入らない奴らを薙ぎ倒せる」
「それはよかった」
アッティラは離間工作が可能か考えた。言葉で奴らを対立させられないか。だがそれには少し情報が足りなかった。もう少し相手の言葉が欲しい。
「さあ、ここで殺してあげよう」
神であるオグンは震えていた。神である己ですら勝てないかも知れない敵が現れ、その正体も知っていた。
友の復讐を果たせないとしたら? オグンにはわかっていた――オサダゴワーもまた、ライブラリアンの復讐をしようとして果たせなかった。
「アッティラ、あれは〈諸敵の殺害者〉だ」
軍神は堂々たる声で言った。
「それはどれ程の脅威か?」
「北アメリカ大陸最強クラスの大英雄、邪神を討ち滅ぼす神造兵器」
正直聞かなければよかったな、とフン人の元破壊的征服者は思った。そこまでの強敵であるか。
〈諸敵の殺害者〉は再び攻撃態勢に入ったように思われた。次の攻撃は果たして殺せるであろうか――。
「――余がそれを許さぬ!」
無数の矢が飛来し、爆撃じみたそれは〈諸敵の殺害者〉を怯ませた。聞き覚えのある声。
「インドラジット?」
アッティラは久々にランカ島の王子と再会した。かつて〈影達のゲーム〉で争い、そしてその次の事件では共闘した仲だ。しかし着地したのはインドラジットだけではない。
「身内としては、見過ごしちゃおけんなぁ」
まず〈諸敵の殺害者〉と同じ地域の英雄であるジョナヤイインがいた。貫くような目をした伝説の狩人は、弓を構えた。
「おっと、儂もおるぞ」
この野太い声もまた懐かしい。剛剣を手にした大柄な鎧武者はガウェイン卿である。
今度こそ息を引き取ったアーサー王の遺志を継いで、人知れず邪悪と戦っていたはずであった。
「であるらしいな? これで五対一であるが。貴様はそれでもなお、勝てると? それでもなお、雑魚であるとほざけるか?」
「あっそうだ!」
インドラジットが唐突に言った。輝かしい鎧に身を包むラークシャサの王子は確かにこういう部分があった。
「到着が遅れてはおるが、いずれアージュナも来るぞ!」
それは心強い、かつて忌々しいMに『はぁ!?』とまで言わせた、インド最強の弓取り達が揃い踏みか。更に、ここにはジョナヤイインもいる。
「というわけだ。そうなると七対一だな」
さしものザ・ダークも│暫し考え込んでいるらしかった。
アッティラは敵の窮状を見るのが好きであったがふと思った――インドラジットはこのメンバーを連れて来た、だがそれはつまり『ここまでの精鋭達を連れて来ないと勝てない相手』という意味ではないか?
具体的に言うとこれぐらいキラー・オブ・エネミーズに盛る。




