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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
22/302

AMAZING POWERS#2

 ヴァリアントの街に怪しげな二人がやって来た。彼らを不審に思ったこの街に住むとある少年は、尋問を行うが…。

登場人物

怪物じみた来訪者

―ウォーター・ロード/ピーター・ローソン…自衛できるだけの力を手に入れ裏社会に潜ったヴァリアント、水を操る。

―ジョン・スミス…ウォーター・ロードと行動する謎のヴァリアント、未知の強大な力を持つ。


ローワー・イーストサイドの住人

―ブラッド・ジョンソン…電撃を操るヴァリアントの少年。



一九七三年:ニューヨーク州、マンハッタン、ローワー・イーストサイド


 二人の男はふっと塵芥(ごみ)箱の並んだ路地裏へと入った。今は誰もおらず、汚れた煉瓦の壁を蜚蠊(ごきぶり)がかさかさと触覚を動かして這っていた。空が曇っているせいで、路地裏は一段とひんやりして、一段とじめじめして不潔である気さえした。

「それにしても君って結構不器用だよねぇ」

 戯けた言い方で喋る長身の髭男は、両手を広げて道化師めいた茶化し方をした。少し短めなカストロ・スタイルの髭と、刀剣のごとき鋭く整った美貌を持ちながら、音を伸ばす喋り方やからかうような振る舞いはそれに似合わぬものであった。Yシャツまで黒で揃えた全身黒のスーツと、洒落た赤いネクタイを着こなし、まるで俳優のような出で立ちが特徴的だった。

「アウトローな存在になって結構経つのに、まだ仲間は僕だけなの?」

「言っただろう。条件に合うヴァリアントを探していたんだ。自分の身を守り、自分の手で利益を得たいと考えているような。それに、これは言ってなかったが、能力を制御するために修行もしていたから時間があまり取れなかった」

 ロシア語訛りの杖をついた男は目を逸らしながら答えた。身長こそ六フィートに満たないが袖やズボン越しに見える体のラインはとてもがっしりとしていて、膝丈よりも長い群青のロングコートは夕闇の海面を思わせた。

 太い左手の指はがっしりと杖を握り締め、足が不自由そうな割には立派なその体躯が異様さを醸し出している。群青のパナマ帽を深々と被り、穏やかな口調に似合わぬ冷たい眼光を覗かせていた。

「ふーん。じゃあさぁ、やっぱ過激派の連中とは違うんだ?」

「私は別にヴァリアント至上主義というわけじゃないし、人間やエクステンデッドの根絶なんかを望んではいないよ」

「まあいいや。それじゃ、早いトコ見つけないと」

「そう簡単に見付かればいいがね」


 彼らが通りに再び出るとそこにはこの島で最も異様な光景が広がっていた。赤や緑の肌を持つ者、そして角や羽を持つ者が、そうした外見的な特徴を持たぬ者達に混ざって行き交ったりたむろしたりしており、まるでSF映画のようであった。しかし外見的な特徴を持たぬ者達はそれら異様な容姿の者達を不思議がる事なく、日常の一部であるかのように振舞っていた。

 そう、こここそは己のコミュニティから追放された者や馴染めなかった者達の終点、すなわちヴァリアント達の暮らす区画なのだ。しかしロシア訛りの杖男と戯けたスーツの男はそのような光景に何ら驚く事はなく、むしろある種の暖かさを感じている風にさえ見えた。余所者である彼らをじろじろ見る者も少なくはないが、しかし普段通りにこの街の住民は活動していた。

「でもさぁ、探すって言ったってどうやって探すわけ? もしかして参加したい人はいませんかって大声で叫ぶ? 第一君についてきてくれるの?」

 はぁ、とロシア訛りの男は深々と溜め息をついた。

「またまたそうやってぇ。大体君に銃の撃ち方だとか護身術だとかを教えてあげたのは僕でしょ? もうちょっと敬意を払ってくれてもいいと思わなーい?」

「ジョン、わかったからもう少し静かに――」

「待て、お前ら何者だ?」

 背後からの声にロシア訛りの杖男は冷ややかな眼光をパナマ帽から覗かせて振り向き、鋭く尖った刃のような目でスーツの男も振り向いた。彼らの視線を辿ると、六ヤードの距離を開けてシャツとジーンズ姿の少年が立っていた。

「ん? 僕達は別にぃ、ただ観光で通り掛かっただけ――」

「惚けるな、お前らさっき銃がどうとか言ってただろ。ここに何しに来た?」

「ジョン、どうやら君の声が大きくて聴かれてしまったようだが」と杖男は嘆いた。

「あっれれー。ま、確かに僕のせいだよね、ごめんごめん」

「ふざけた事を言いやがって!」

 少年はジョンと呼ばれたスーツ姿の男に苛つき、声を荒げた。

「え、また僕のせいなの? 困っちゃうねぇ。ま、ここじゃアレだしそこの路地裏なんかどうかな?」

「少年よ、まあ悪いようにはしないさ、そこで少し話そうじゃないか」

 杖男はさっと気持ちを入れ替えて便乗し、面倒事を片付ける算段を始めた。右手でコートの中を探り、相棒を確かめた。

 乾いた血がへばり付いたその戦利品は、彼が怪物と化した夜からの付き合いだが、より洗練された使い方はジョンから教わったものである。なんだかんだで聞き分けよくついて来る少年に見えぬよう、二人の冷徹な怪物は氷点下の笑みを浮かべて歩いた。


「さて、さっき何か言っていたね。我々に何か用かな?」

 薄汚れ腐った匂いのする路地裏で、杖男は改めて少年を値踏みした。背は自分より高いものの、体格は細見であるようだ。茶髪の白人で、そこらにいそうなアングロサクソンのお子様に見えたが、この街にいる以上は恐らくヴァリアントであろう。しかも、見ず知らずの異様な二人に声をかけられるだけの度胸だか自信だかを持っている。

「うわっここ豚臭っ! 鼻がひん曲がっちゃう」とスーツの男は茶化した。

「からかうのもいい加減にしろよ。ここはヴァリアントの街だ、面倒事を持ち込むな」

 少年の言葉を聞き、優雅に立っているジョンなる男はははーん、と内心納得した。つまり君って何か強い能力持ってて、それで自警とかやっちゃう?

「何を隠そう、我々もヴァリアントさ。ここで沢山のヴァリアントが暮らしていると聞いて訪ねただけだ」

「ヴァリアント? 証拠は?」

 杖男は心の奥底で冷たい笑みを浮かべて、表面上は穏やかな微笑みを絶やさなかった。少年よ、そう来たか。

「今証明書を出すよ。ちょっと待ってくれ」

 杖男がそう言うとスーツの男は笑い始め、少年は再びいらいらした視線をそちらに向けた。一瞬視線を逸らしたその隙に、少年は何故スーツ男がわざとらしく笑ったのかがわかった。

「汚れてはいるがこれでいいだろう?」

 がちゃりと鈍い輝きの.四五口径が杖男の右手に握られていた。彼は恐らく鍛えた体躯によって片手だけで射撃できるよう訓練したのだろう。片手に杖を持ち片手で銃を構える様は手馴れているように見えた。

「消音できるモデルがいいと思うけどねぇ」スーツ姿の男は片手を後ろに回し、こちらも銃をいつでも構えられそうであった。リボルバーは通常、銃の構造的な問題でガス音を遮断できず、どうしても消音が難しい。

 しかしそれと対峙している少年は堅い表情ではあるものの、妙な落ち着きが見られた。まるで撃たれても対処できる自信があるかのように。

「見ろ、彼は何か手品ができるらしいぞ。その証拠に全く銃に動じない、普通なら慌てて命乞いや逃走を図る。今まではそうだったな?」

「なるほど…うーん、じゃあ試しに撃って能力を確かめちゃおっか。ね?」

「賛成だ!」

 射撃音が大きく響き、どこかで鳩が一斉に飛び立った。銃を前に微動だにしない少年向けて放たれた銃弾は、命中するはずの軌道であったにも関わらず少年を出血させる事はなかった。

「私の射撃能力は君が保障しているはずだな」

 ロシア訛りの杖男は銃を構えたまま、パナマ帽の下で幾分かの驚愕を表情 に滲ませた。

「そうだね、ピーター。君がこの距離で外すわけないよ。たったの四ヤードでそもそもねぇ」

 またからかわれた気がしてピーターと呼ばれた杖男は自嘲気味に笑い、コートがそれに合わせて揺れた。

「っていうか今一瞬電流みたいな奴見えなかった? 見えたよね」

「ああ」

「ゴチャゴチャうるさい奴らだ。これでお前らが厄介事を持ち込もうとしてたのは確定だな!」

「おっ、やっと喋ったね。ピーターのプレゼントが気に入らないのかと――」と言いかけて、刃物のように鋭い整った顔立ちのジョン・スミスは、少年が右手をピーター目掛けて向けたのを確認した。見間違いでなければ先程のは本物の電流で、それを何らかの作用によって盾に使った。ならば次はそれを矛として、己の友と言うべきピーターに発射するつもりだろう。

「ちょっとばかし痛いが我慢しな!」と少年が叫び、その右手に電流が迸るのが見えた。チャージ時間はほぼなく、即座に発射できるらしかった。ジョンは己とピーターとの距離を測った――ほんの二ヤードしかない。少年の右手が更に光を発した瞬間、ジョン・スミスは尋常ならざる速度でその前に立ちはだかった。

 少年には何が起きたのかよくわからなかった。気が付くとあの鬱陶しいスーツ男が杖男の前に立ち、己の発射した太い電流をその身に受けていたが、苦しむ様子もなく左手を顎にやりながらモデルのような見栄を張ったポーズで突っ立っているのだ。

「うーん、いいねぇ。力が漲っちゃうじゃん。あ、ピーター。そろそろ礼拝の時間なんだけど」

「わかったわかった、手早く問題を片付けよう」

「嘘だろ…」

 少年は今までこういう経験がなかった。手加減していたとは言え、大人を悶絶させるには充分な威力であり、実際今までの外からやって来た反ヴァリアントがどうのと叫ぶ面倒な手合い、及びこの街に嘆かわしくも存在するヴァリアントの犯罪者も等しく苦しんだものだった。

「嘘ではないさ」

 杖をつきながらコートを纏ったピーター・ローソンはゆっくりとジョンの右側から歩み出た。後退りする少年を見やると、彼は銃をコートの中に戻した――次に右腕が出て来た時にはその手に水の入った酒瓶が握られているのが見え、少年は噂を思い出してはっとした。

「お前! まさか最近汚い依頼を受けて殺しをやってるって噂の!」

 両手に電流を纏わせて警戒する少年に、群青パナマ帽と群青コート姿のピーターはその酒瓶をゆっくりと放り投げながら答えた。

「ご名答、怪物呼ばわりのウォーター・ロードさ。殺人は報酬もいいのでね」

 ガチムチ水使いと謎の能力を持つ洒落たイケメンというヘンテコな組み合わせ。まあ怪物呼ばわりされてるように、おっかないヴィランです。昔のマグニートー的な思想を更に極大化させた、過激派を率いる初老デブの大物チートヴァリアントも出す予定ですが、世界観構築話は早く書かないと。

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