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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
218/302

NEW WORLD NEIGHBORHOODS#17

 チームに混沌の源を撒き散らすジャレッドに対してアール達は問うた。何故それぞれに違う嘘を?

登場人物

―プラントマン/リチャード・アール・バーンズ…スーパーマン的能力を持つ新人ヒーロー。

―三代目ライト・ブリンガー/エリカ・フィンチ…プライマル・ブリリアントの適合者、光り輝く未知のエネルギーを攻防に使用するヒーロー。

―ダニエル・オーバック…生活費のため正式登録のヒーローとして働く事を決意した新人ヒーロー。


―ジョー・ブルッキアス…貧しい暮らしを送るアパッチ系の少年。

―ダーケスト・ブラザーフッド…ジョーを導く正体不明の仮面の男、群体型コズミック・エンティティの一部。

〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズ…アパッチ・ナヴァホ系の民族に広く伝わる北米神話の大英雄、人類に敵対する『敵』を滅殺する究極の神造兵器。

―オサダゴワー…サソグア一族に属する有翼の蟇の神、慄然たるズヴィルポグアその人。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十一カ月前:詳細不明、荒野


 ザ・ダークは図書館のスパイアならば〈諸敵の殺害者〉キラー・オブ・エネミーズの所在や、その起動手順に関する情報が得られると考えていた。そして実際それは正しかった。

 図書館のスパイアは地球に関するありとあらゆる記録を行なっている場所である。そのため地球の関しては、あの慄然たる『ロキの時間線観察記録』以上の情報源となる。

 しかしスパイアの記録者であり唯一の住人であるライブラリアンは決して情報公開せず、またそれに応じようとはしない。そのため悍ましい群体型コズミック・エンティティは、いかにも『らしい』手を取った。すなわち己の手足である群れを直接使わず、煽動を行なった。

 陰謀論の組織として知られるダーケスト・ブラザーフッドなる個は、帝国と呼ばれる勢力を利用する事を選んだ。帝国は利用されている事は承知であったが、しかし己らの利害が一致する限りにおいて悪い話ではなく、むしろ有益であった。

 図書館のスパイア侵攻に出た帝国は、最終的に帝国及びダーケスト・ブラザーフッドの予想とは裏腹に敗北し、屈辱的な全面撤退を強いられた。予定ではスパイアを占拠する事になっていたが、しかし実際にはライブラリアンが己を犠牲にしてスパイアを防衛した。

 サブネクサス74の戦いとして知られる最後の決戦の結果は大体そのようなものであるが、ともあれライブラリアンの不在はザ・ダークにとっては好都合であり、結局彼は容易に己の欲する情報を全て手に入れる事ができた。

 だがもう一つ、呪われるべきダーケスト・ブラザーフッドにとって予想外の要素があったらしかった。それこそは目の前の蟇がライブラリアンの友人であったという事――少なくとも蟇側からすると――であり、その予想外のつけが今回って来たのであった。

「神の攻撃を防げるだと?」

 オサダゴワーは不愉快そうに、そしてどこまでも冷え切った目で妨害者を睨んだ。己の復讐の邪魔をされるのは神であろうとそうでなかろうと不愉快ではあろうが、しかし予想以上に目の前の玩具が強力である事に内心驚いていた。

 更に言えば、遥か遠い昔、己の手で埋めた記憶の中にこの兵器に関する情報があったような気がし始めた。何かが引っ掛かり、警戒を強めて一旦距離を置いた。

 吐き気を催す群体はライブラリアンの死――ライブラリアンが命を捨てねばならなくなった原因――が己に起因している事に少々うんざりし、目の前の田舎の神格に対して(さげす)みを覚えた。運が悪いと言えばそれまでであるが、それにも限度がある。

 しかし考え方を変えれば…。

「ジョー、見ての通りこれは邪悪な神でね。君が得た力のテストとしてはちょうどいい、存分に蹴散らすといい」

 仮面の男はその隠された顔に壮絶な笑みを浮かべていた――何を恐れる、神殺しの英雄がコントロール下にあるのだ。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十一カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース


 アールは館内放送で呼び出す事を思い付いた。管理システムに音声アクセスし、屋上に混沌の源を呼び出した。相手が来るまで、アールとエリカとダニーは何も話す事も無いまま芝生に座って黙り込んでいた。

 超人的な肉体を持つアールとエリカにとっては快適であったが、ダニーにとってその日の屋上は少し肌寒かった。幸い私服かつ厚着していたので『本当は寒いけどそれを言い出せないという悪夢』に陥る事は無かった。

 アールは内心様々な事を考えた。放送機能を使ったのは初めてで、己の言葉はわかり易く意図が伝わるものであったのか? 何かを怪しんだ他のメンバーか職員が上に来ないか? そもそも屋上に呼び出すというのはどうなのか?

 既に(さじ)は投げられ、結果を待つ他無かった。神奈川で育ったダニーにとって冬は東北並みとも言われるニューヨークの春先は晴天の昼間でもやや冷たく感じられたが、しかし己がこの大都市の片隅にいるという実感があった。

 近くに見えるビル街はテレビの中でしか見た事の無い世界であり、そのテレビの中の世界であるはずのニューヨークにこうして佇むのは不思議であった。

 色々考えた末ヒーローになる事を選び、そして初っ端から面倒な騒動に巻き込まれたが、しかし己の何に使えばよいのかわからないヴァリアントとしての能力の使い道があると思われた。とは言えあのオサダゴワー相手のデビュー戦以来ダニーは戦闘は経験しておらず、負担の少ない活動に回されていた。

 不意にドアが開いたが、アールは足音で接近を検知していたので驚かなかった。三人とも顔を上げ、相手が誰であるかを正確に確認した。

「何か用が?」

 相手はやや大きい声で呼び掛けてきた。この四人以外に屋上は誰もおらず、妙な緊張感がアールを満たした――これは告発か何かであるのかも知れなかった。

「ああ、話し合いたい事があるんだ、こっちに来てくれないか」

 アールが一人でない事に気が付き、しかもエリカとダニーが一緒という事に、呼び出された相手であるジャレッド・ジェンキンスはやや戸惑った。しかしアールに促されるまま歩いて近付いて行った。

 アールは彼がこちらに来るまでの間に何か追加の質問をして来ないかと警戒した。近くで話した方が有利に立ち回れるような気がした。幸い、ジャレッドは何も言わなかった。彼のトレードマークとも言える黒衣が風によって翻った。

「それで、話って?」

「まあ座ってくれ」

「ええと…」

 言いながらジャレッドは座った。アールは更なる緊張に襲われた。ああ、最早後戻りできないのだ。ここまで来たら言うしかあるまい。何故嘘を撒き散らしたのか、これから聞かなければならない。

「あー、そうだな。その」

 アールは切り出すのに苦労した。ちらりとエリカの方を見たが、『自分でやれ』と目が言っていた。上等だ、ならそうしてやる。

「こういう事は言いにくいんだが、その。俺にこう言ったよな? エリカがダニーに突っ掛かってる、それも複数回って」

「言ったけど…」

 ジャレッドはあっさり認めた。よし。

「じゃあさ。エリカに俺は直接聞いたんだ、それが本当かどうかってな。だけどそんな事実は無かった」

「え?」

「わからないか? エリカは今日初めてダニーに詰め寄って、まあちょっと危ないところまで行ってたわけだ。今日、初めてな」

 アールは『初めてな』の部分を強調した。

「そうだよな?」とエリカに話を振った。

「そうだけど」

 エリカも上手く話を繋げられそうであった。よろしい、順調だ。

「って事はあれだ。話が合わないよな。ジャレッド、一体なんでこんな事をしたんだ?」

「え、それは…」

 ジャレッドは本気で困った顔をした――なんだ、この野郎め。アールは一瞬思った事を言葉に出しそうになった。

「何とぼけてんの? じゃあ聞くけどさ、お前なんで私にも嘘言ったわけ? ダニーが私に陰口言ってるって言ったよな? 他のメンバーの悪口も。だけどダニーは全部否定した。全部を」

 エリカは『全部を』の部分を強調し、次第に怒りを滲ませていった。ジャレッドは黙ったまま俯いていた。ダニーは微妙な空気感の中で、しかし正義が成される様を見ていた。

 そこでふとアールは閃いた――この調子でジャレッドは己ら以外の他のメンバーにも混沌を振り撒いたのでは?

「ジャレッド、一つ聞くがレッド・フレアと会話した事は?」

「あるよ」

 困った様子のままジャレッドは認めた――好都合であった。


 アールはレッド・フレアを呼び出した。彼女は高度な記録能力を持つロボットであり、彼女及びチームの重鎮全員が許可しなければ彼女自身もアクセスできない――自らそういう設計にした――データの保管庫を持っていた。

 容量を圧迫した時には即座には必要としないデータをそちらに移す事にしており、彼女はそうやって膨大な蓄積を作り上げていた。レッド・フレアと以前会話した際にそれらを聞いていたアールは、もしかしたらまだ最近のデータであるから彼女自身の内部ストレージに残っているかも知れないと考えた。

「そのデータ? まだあるわね」

 片膝を立てて座る赤い装甲のロボットは単眼をちかちかさせながら答えた。日本のサブカルチャーに慣れ親しんで育ったダニーには異質に見え、アメリカのサブカルチャーに慣れ親しんで育ったアールには自然なデザインに見えるレッド・フレアはホログラムを投影した。

 ホログラムの平面モニターは彼女の一人称視点で見たジャレッドの語りが全て映像として記録されていた。これは動かぬ証拠と言え、その証拠の中でジャレッドはべらべらと悍ましい混沌を撒き散らしていた。

 ジャレッドの語る内容はやはり予想通りであった――その場にいない誰かの悪評を一方的にべらべらと話し続ける。そしてもしも更に予想通りであれば、それらの悪評は全て嘘か、曲解であった。

 映像の再生が終わってから何秒か沈黙があった。それをレッド・フレアが打ち破り、彼女らしい『人間らしさ』で尋ねた。

「ジャレッド、見ての通りだけどなんでこんな事したの?」

 ジャレッドは黙ったままで何も言えなくなった。

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