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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
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NEW WORLD NEIGHBORHOODS#11

 一夜開けた今となっても不明な要素が多過ぎる。神のニューヨーク襲撃とアッティラが追う陰謀の関連性、突如現れた謎の助っ人ジャレッド・ジェンキンス。そしてそのジャレッドはネイバーフッズ加入を望んでいた…。



「アッティラ、少し話があるんだが」とケインはコーヒーを飲みながら言った。あの七五年の春、異星人及び異星の神格襲来があった『アタック・フロム・ジ・アンノウン・リージョン事件』。

 その少し後にこの会議室――幾つもある内の一つ――で話し合っていたところに西ローマを終わらせたオドエイサーが襲来し、その場にいた全員が、今はもうチームにいないMr.グレイを除いて一撃で気絶させられた。

 無力感と『グレイはどこに消えた?』という疑問、そして苛立ちが醒めぬまま脱獄事件の対応で出動したあの日が不意に思い出された。後で聞いたが、グレイことモードレッドとオドエイサーらが関わった権力者同士による陰謀のゲームにはアッティラも参加していた。

 そのアッティラと対面して、メタソルジャーは講義室のように並んだ長机の一つに腰を下ろし、カップを机に置いて腕を組んだ。リーダーであるケイン・ウォルコットはアッティラと面と向かって対等に話せる数少ない一人であった。

「どのような話か?」

 フン人とその傘下の諸民族を束ねた巨大帝国の元王はケインが昨日は一睡もしていない事を知っていた。軍の実験で超人兵士となり、メタソルジャーとしてヒーロー活動を始めたケインに徹夜は珍しい事ではなかった。

 昨日はホームベースでの古参メンバー中心の会議が終わってからケインは現場に戻り、そのまま夜明けを迎えたのであった。

 アッティラが右手で顎髭に手を当てているとケインが先を続けた。

「ジョン・スミスの件は一旦保留だ、今はそれどころじゃないし私は君が常に正しいと信じている。君も知っての通り、ライトブリンガーとプラントマンの仲がよろしくない。まあ昨日は即席の連携のようなものも見せたが」

「つまり、いつもの事であるな」

 アッティラは含みのある言い方をした。心の中では、このチームの『王』であるケインが己を信頼してくれている事に今更ながら温かみを感じた。

「というと?」

「我々は目先の敵と戦い、そして長期の陰謀を追い、ヒーローに対する世間の風評に耐え、そして身内同士の諍いを解決する。これまでそうして来たように、彼らの対立もまた解決せねばならぬ」

「まあそうだな」ふと、『身内同士の対立』という箇所が、結局のところ『チームからの離脱』という結末を迎えて今ではシカゴのチームにいるモードレッドの事を思い出させ、ケインはどこか寂しく感じた。

 外からは中が見えない会議室のガラスの撤去を巡って論争があった事を両者が思い出しつつ、会話が更に続いた。朝日がイースト・リバーやその向こうの市街を照らしているのが見えた。街は起きようとしてた。

「だがこうして個人対立を見ていると、我々は人々の上に立つような存在ではなく、あくまでただの隣人(ネイバーフッズ)なんだと感じる事ができるよ」

「そういう意味ではかつて私が、まるで王のように振る舞っていた初期の頃はなかなか酷いものであったな」とアッティラは自嘲した。彼は彼で、己がヒーローとして活動するにあたって、現代人達とどのようなスタンスで接するかを色々と考えたのであろう。

「長いチームだからもっと酷い時期もあったさ。ところでどうする? 訓練の時にハンスから二人に話してもらおうかとも考えたが…」

「ふむ。あれだな、子供の頃、人前で叱られた時に『大いなる屈辱』を感じたであろう?」

「言いたい事はわかるな。消えない傷としてああいうのは残る。だからこそ『やってはいけない事をやった』と刻み込む事ができる、それが正当な理由による叱りである場合は」

「それは大人にも適用できる話であると私は思う。しかし彼らはただの大人ではない。強大な力を持った個人同士だ。人前で呼び出して厳重注意する事で効果があればよいが必ずしもそうとは言えまい、人間は大人になるにつれて素直でなくなるというような理論に従う限りはな。叱ったものの逆効果となって後で衝突でもされると不味いな」

「今までのチームの歴史を見てもいざこざの原因や状況は…ばらばらだな。君が慎重になるのはわかる」

 とは言え、元は己が始めた話であるがとケインは内心苦笑した。

「だがそれでも、ああいう雰囲気でヒーローとして活動されると困る。極端な例だと誰かの生死が掛かるタイミングで対立が表面化するかも知れない。それはヒーローの誰かか、あるいは市民の誰かの生死かも知れない」

 ケインは言いながらこれまでの事を考えた。己も含めて、本当の意味で言葉通り完璧なヒーローは一人もいなかった。だからネイバーフッズはこれまで多くの問題を抱え、世間に迷惑を掛けた事も一度ではなかった。

「タイミングを見計らっておこう。今日は二人が初めて顔を合わせるのは現場じゃなくホームベースのはずだ。その時に何かあれば、そこで私が介入してみるよ」

「あり得そうでもないが、仮にもし何も無かったらどうするか?」

「その時は彼らが出動する前に言うよ」



「昨日手を貸してもらったジャレッド・ジェンキンスだ。早速ネイバーフッズに加わりたいとの事で、本人は実名公開で活動すると言っている。政府への登録もするとの事だ。申請に少し時間は掛かるが今日からでも簡単な活動は一応可能だ。これから彼もチームの一員、皆よろしく頼むよ」

 一睡もせぬまま涼しい顔のケインはヴェトナムでアメリカ軍の兵士として戦っていた時のような鋭さを備えて新人を紹介していた。エントランス・ホールには今出勤している全員が揃っていた――アールとエリカも。

「アッティラ、何か付け足す事は?」

「うむ。この者の振るう剣については本人もよく知らぬらしい。とは言えその性質は私と同じく〈混沌剣〉(ケイオシアン)であるように思われる。益々凶悪化する犯罪や大事件を前にして人手及び強力な戦力が増えるのは実に都合がよい。よって私としても歓迎する、栄えあるチームにようこそ」

 アッティラは手を差し伸べた。ケインに紹介を受けていた黒衣の青年ジャレッドはその手を取り、ここに両者が手を交わした。アールやその他のメンバーはぎょっとした。

 当然ながらアッティラと対等に話せる者達は別段何も思わなかったが。それから各々挨拶をして、アールもまたジャレッドと言葉を交わした。

 特に何も無いままでその場は終わり、アールは二日で後輩が二人も増えた。後輩と言ってもアールの考える後輩と、日本で生まれ育ったダニーの考える後輩は違う。

 実際のところアールにとっては後輩と言っても事実上ダニーは弟分か歳下の友達であり、そこに明確な上下関係は存在しなかった。だがダニーからすれば、アールはある程度の遠慮が必要な相手であった。

 無論の事日本にも歳の離れた対等もしくはほぼ対等な友人関係も少なからずあるが、しかしそれは主流とは言えなかった。一方でジャレッドの方には上下関係のような認識は大してあるまい。自分より先にチームに入っているアールにある程度の敬意は払っても、必要以上に敬語で話し掛ける事は無かろう。

「にしても昨日のジャレッドかっこよかったな」とアールは気の合う者の一人であるジョセフに言った。

「ありゃ俺も痺れたぜ。どっかとんでもねぇ遠方からやって来たメチャ強い高次元の生物のやりたい放題に一発で待ったを掛けた。俺もあんな風にかっこよく決めねぇとな」

 チームの頭脳であるジョセフは精悍な顔で微笑んだ。

「まあ彼がジェンキンス伍長みたいにならなきゃいいが。な、ダニー?」

 アールは己の後ろに追随するように歩いていたダニーに振り返ってそう言った。ダニーの足音のパターンは大体判別ができるようになっていた。

「おいおいおい。お前さっき入ったばっかのジャレッドに最低な事言うなぁ…本人には言うなよ?」とジョセフは半笑いで肩を竦めた。アールに話を振られたダニーは『ジェンキンス伍長』の意味がわからなかった。

「言わないって。でもあれだな、チームの戦力が増強されたし、相手がアーサー王と円卓の騎士でも勝てそうだぜ」

「お前さ、アーサー王も円卓の騎士も実在してて、しかも別の州のチームリーダーがモードレッド卿って事をすっかり忘れてねぇか? どうせ最近は二〇二五年のアメリカを狙う隻眼のテロリストと戦ってたんだろうがな。それか天使と悪魔のハーフにでもなりきってたのか?」

「…ああ、悪い。モードレッド卿の件をすっかり忘れちまってたよ。なんだか自分がフィクションの『説明役』にでもなったみたいだ。ダニーっていう新人が来てさ、いいトコ見せたくて舞い上がってたのかもな」

 ダニーはそれには何も言わなかったが、しかし内心では己が『いいトコ見せたくなる』ような、価値のある存在であるという事を先輩にあたるアールに言われた事で嬉しかった。とは言え、言葉に出さないと伝わらないのであるが。

 そしてダニーはそこまでヒーロー史には詳しくなく、モードレッドとアーサーの間に一体何が起きたかを知らなかった。こうした出来事は本やインターネットで読めるが、しかしまだ大学のヒーロー史関連の授業等の専門科目でしか教えていない、比較的新しい歴史の一部であった。

 『フィクションのアーサー王』と『実在のアーサー王』が結び付かないという風潮は少なからず存在し、それは世の中に大勢いる他の『実は実在する人物達』についても言えた。

 アールの方はこの前読み終わった本に書かれていた印象的なフレーズを今になって思い出していた――アーちゃんったら、マジばっかだね。主とイエスには悪いけどさ、アーちゃんのいない世界で生きるなんて無理っしょ?

 あたかもロキのごとく暗躍して、ロキの名にその身を隠していた忌むべきグロテスク極まる軍神がアーサー王夫妻とその息子に何をしたか。それらは去年アールの会社から出版されたモードレッド本人が携わった書籍で全てを読む事ができた。

 吐き気を催す混沌に苛まれた王の名誉回復を図った本であり、千年以上に渡って対立した親子の真の和解のための本でもあった。

 時々アールはヒーローという活動があまりにも重たく感じられる事があった。敵の中には悍ましい邪悪もおり、それらによって永遠に消えぬ傷を付けられるヒーローも少なくないからである。

「ハッ、新人の前で調子こいて、偉大な先人を冒瀆とか偉くなってんじゃん?」

 今一番聞きたくない女の声がアールの耳に届き、一瞬で怒りの色が吹き上がった。

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