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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
205/302

NEW WORLD NEIGHBORHOODS#10

 オサダゴワーが去り、ネイバーフッズはその事後対応に追われていた。今日も遅くまで働くであろうアッティラはしかし、ふととんでもない敵の陰謀の可能性について思い付いてしまう…。

登場人物

ネイバーフッズ

―アッティラ…現代を生きる(いにしえ)の元破壊的征服者、ヒーロー活動という新たな偉業に挑むネイバーフッズ・チェアマン。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十一カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン


 アッティラはふと考えたままで夜空を見上げた。雨が上がり月が登り、ホームベースの屋上でまだまだ寒い夜のマンハッタンの喧騒を耳にして佇んだ。

 簡易な屋根のあるベンチから少し進むと芝生が広がり、彼はそこに腰を下ろしていた。

 芝生に投げ出していたタブレット端末を取り上げて明日の予定や天気を確認しつつ、今日起きた事について考えた。ネイバーフッズはマンハッタンを強襲した異郷の神オサダゴワーを相手によく戦ったと思われた。

 文字通りの次元違いの実体であるあの有翼の蟇の神格を相手にして、あそこまで『善戦』できたのは誇らしくすら思えた。とは言え、それでもあそこまで『苦戦』させられたと考える事もできた。

 かつての破壊的征服者は基本的に現実主義者であり、己らを必要以上に高評価する事はなかった。

 彼はタブレットを芝生に軽く投げてから立ち上がり、ガラスで区切られた喫煙スペース――主にホームベース詰めの職員が使う――の横を通り過ぎて東に聳える摩天楼を見ようと歩いて行った。縦棒式の金属の柵に腕を置き、向こう側を見た。

 信じられないぐらい巨大なニューヨークの象徴達は幾つかダメージを受けていた。

 エンパイア・ステートは今回は被害を受けなかったが、しかし名前は失念したが何とかという去年末に完成したビルは、神が神の使用のために鍛え上げた尋常ならざる剣の一撃によって儚くも倒壊してしまった。

 なんたる悲運か。あのビルの建造で発生した雇用、宣伝、経済的影響を考えた。その落成の様子を想った。

 耳にした話では来月には幾つかの外国企業の入居予定が立っていたという。どれも業績のよろしい企業であった。

 そしてそうした諸々の話が収束する先である(くだん)のビルは、夢破れる大通り(ブールヴァード)に横たわる酔っ払いの若者のごとく、粉々に砕けて散らばっていた。

 いかにかつて過ごした五世紀の生が破壊的征服者のそれであろうと、彼は王として一度君臨した身であった。

 万民の最高指導者という味をしめた身なれば、それぞれの人々について想像しないわけにはいかなかった。

 彼自身つい数十分前まで復興作業や後片付けに携わっており、典型的仕事人間であるフン人の元帝王は、この後も午後十時か十一時ぐらいまで働き、そしてホームベースでそのまま寝泊まりするのである。

 千の貌を持つ軍神が〈神の剣〉(サイフッラー)を元にして設計した〈混沌剣〉(ケイオシアン)の一振りである彼は、本来であれば長期間睡眠無しでも問題無い。

 しかし少なくとも彼はその主観において己を人間と見ており、己に備わる超常的な力を否定するでもなかったが、それでも人間らしく生きる事そのものは好いていた。

 人間らしく就寝するまでの間には色々とすべき事もあり、階下ではネイバーフッズのチェアメンが今も会議しており、アッティラ自身もこの『休憩』が終われば下に戻って色々と話し合うのであろう。

 中にはまだ現場に残っているメンバーもおり、月下にて一人佇むアッティラは休憩を終えるため、白い息を吐いてから踵を返した。

 その時ふと、非常に懐かしい感覚を覚えて足を止めた。何世紀も前、一度目の生において、今と同じく忙しい毎日の合間、王族用のテントで簡易なテラスから草原を見渡したあの日。

 〈混沌の帝〉エンペラー・オブ・ケイオスによって仕組まれた己の生ではあったが、しかしあの頃はあの頃で思い出としても感慨深かった。

 彼は今度こそ戻ろうとして歩き始めた。三人の職員が向こうから現れ、軽く挨拶を交わしてからアッティラはドアを潜った。

 彼らは煙草を吸うのであろう――煙草の匂いが服に染み付いていた、恐らく今日の大事件について会話しながら吸うのだ。

 今日飛び入り参加したあの黒衣の青年、ジャレッド・ジェンキンスと名乗ったが、彼はとりあえずホームベースに滞在させている。

 忙しい一日であったが時間が空いた時に少し話し、それによると己の力をヒーロー活動に役立てるつもりもあるとの事であった。まだ確定ではないが、今日が終わる前にもう一度聞いておこうと考えていた。

 いずれにしても今日は新人のチームへの紹介どころではあるまい、栄えあるビッグ・アップルはまたしても、恐るべき異郷の実体による容赦無き攻撃に曝されたのであるから。

 二度の世界大戦を経て(つい)ぞ戦火に曝される事の無かった世界都市は、皮肉にも戦後になってから尋常ならざる者どもの攻撃を受けるようになったのであった。


 階下ではドクとジョセフが意見を交わしていた。彼ら及び現場で活動しながら通信しているレッド・フレアは戦闘中に採取した各種のデータを分析し、次に役立てられるものがあるかを探った。

 例えば神が顕現するとどのようなエネルギー反応が見られるかだとか、あるいはそれらの顕現によって発生する異常事象(アノマリー)であるとか。

 尋常ならざる実体に対する備えはニューヨークがアメリカで最も進んでいると言え、今回得られたデータから改善すべき点も多数見付かるはずであった。

 例えば今回、オサダゴワーは時間加速とほぼ同じ効果を発生させた。エントロピー加速による不可逆変化の実践、これは非常に厄介な力であろう。

 今回は何とかなったが、しかし下手するとニューヨーク中が劣化して生物も無生物も問わず『死んでいた』であろう。

 ハヌマーンの意見によればあの神はあくまで神としては平均的な力量であるらしかった。であるというのにあそこまで強かった。

 恐らくかつて地球を襲来し、そしてドクを含めたネイバーフッズの初期メンバーが交戦したあの慄然たる風のイサカと同じく手加減しているのであろうが、それでいて地球最強のヒーローチームを相手取ってなお遊び感覚。

 ハヌマーンは神としての力のほとんどを封印した状態――完全な状態の神が(もたら)す影響は、ただ立っているだけでもとんでもないものである――であり、その他のメンバーも本物の神々程の力は持っていない。

 強いて言えばアッティラであるが、しかし彼も真に恐るべき危機が来ない限りはそのあまりにも強大過ぎる力を開放するつもりもあるまい、それこそ地球滅亡か、それよりも恐るべき事態でなければ。

 ともあれ、他にも明日以降の復興に向けても様々なデータを提供するつもりであった。

 復興のための効率のよい計画も考えており、チームの頭脳達は夜遅くまで話し合うものと思われた。

『基本的なライフラインは全部復旧したわね。Wi−Fiは…ちょっと業者が遅れてるみたいだけど』

「今日は大規模な違法アップロード・データの出先でのダウンロードは諦めてもらうしかないな」とジョセフは精悍な顔で皮肉って微笑んだ。

「こんな状況だ、皆理解してくれるさ」と言いながらネイバーフッズのリーダーが入室して来た。ドクは何か言おうとしていたが、しかし入室したケインによって遮られたらしかった。

「何か言いたかったのかい?」

「いや、どうせジョセフのジョークに冴えない返しをしようと思っただけだしね」

 口周りを髭で覆った初代メンバーはケインに微笑んだ。そして厳密には最初期のメンバーではないもののドクと長い付き合いであるケインは、チームの優しいベテランである彼とも特に仲がよかった。

「そうか。今のところ怪我人は結構出ているが死者が出たという報告は入っていないな。それだけ我々の防衛網が強固であり、この街が脅威に対して慣れ、そして人々の強さがあったからだと思いたいが」

『そうね、色々な情報にアクセスしてるけど、デマを除けば死者の確認は取れないわ――デマを流した書き込みやアカウントは既に通報したわよ』

「さすがだな」とジョセフが言った。「でもこの手の大事件で死者ゼロってなんだか不思議だな。喜ぶべきとは言え、これまでの事件じゃそうもいかなかったし。普通大規模な都市が攻撃を受けると様々な要因で事故が起きたりするもんだが」

 逃げる際の混乱によって人が死ぬ事は考えられる。あるいは攻撃者による直接的な市民への攻撃による死者の発生、これらはこうした都市が襲撃された際に起こる死者発生プロセスの典型である。

 他にも色々あり、それらは防ごうとしても全部を全部制御するのは至難の(わざ)である。ケインは少し考えた。

「これまでの例からすると確か…ニューヨークが一定以上の大規模な攻撃を受けた時は必ず死者が出ているはずだ」

『検索中…そうね、あなたが考えそうな『一定』というフィルターを私も適用して探したけど、『リターン・トゥ・センダー事件』から始まって、この手の事件は毎回誰かが殺されてる』

「ふむ」

 再び誰かが入室した。振り返ると、このガラス張りの部屋にアッティラが入って来ていた。

「私もその点は奇妙であると考えている。あるいは私が追い掛けている陰謀と関連があるのやも知れぬ」

「ダーケスト・ブラザーフッド」とケインが言った。

『あ、今から通信が監視されてないかリアルタイムで見張るから、続けて』

 レッド・フレアは『ダーケスト・ブラザーフッド』という言葉に即座に反応した。彼女も含め、今この場にいるメンバーはアッティラが追っている件を知っている。残りは現場に出ているレイザーとジャッカロープとハヌマーンである。

「ダーケスト・ブラザーフッドがギャボットを雇った可能性はほぼ確定に近い。その始末を依頼したのであろう事も確認済みである」

「そりゃまた、どうやって確認したんだい?」

 ジョセフが不思議がった。

「ジョン・スミスを呼び出して確認した。奴から情報は得たが、不幸にも取り逃がした。次回はまた別の手段で拘束を試みる」

 それを聞いてジョセフは『ワオ』と短く言った。あの有名なヴィランのジョン・スミスを呼び出せるというアッティラの底知れなさを再確認した。

 とは言え、アッティラの強引なところや不透明な部分こそがかつてネイバーフッズ内で問題となり、彼自身もかなり反省したのではあるが。

「その件には色々言いたい事もあるがまた後だ。それで? 今回のオサダゴワーの襲撃とザ・ダークにどのような関係が?」

 リーダーとしての威厳を放つケインに聞かれ、彼の隣で腕を組んでいるアッティラはかつての王としてそれに答えた。

「私の事をなんでも陰謀論の組織のせいにする阿呆と思うかも知れぬが、しかし私の予想では今回の襲撃もあれが手引きしたに違いない。幾ら神は気紛れなれど、あの自由気ままな神格が面倒事になりそうな『人間の都市の襲撃』など無計画にするとも思えぬ。何故なら奴はかつて北米地域にて、一時的に封印された事があるからだ。この辺りの話はハヌマーンが詳しく、今日の空いた時間にその辺りの経緯を聞いておいた。

「しかも今回の事件は恐らくかなり計画的だ、その襲撃理由は未だ不明なれど。その証拠に、オサダゴワーは普段の目撃情報からすると所持していないはずの神の武器を持っていた。この武器はヨルバ人の神話に登場する軍神オグンが製造したもので、かつて私が目撃した事のあるオリジナル・モデルの廉価版だ。そのような物騒極まるものを、自由気ままで面倒事を嫌ってはあちこちを旅する蟇が、わざわざ手にしてニューヨークを襲ったのだ」

「なるほど。だがアッティラ、敵の次の手はわからないか? 奴はまずヒーロー嫌いの男を雇って必要な装備も渡し、ネイバーフッズの評判を落とそうとした。その男が用済みかつ余計な事を言いそうになったのでジョン・スミスを雇って殺させ、次にマンハッタンを異郷の神に襲撃させる。次はなんだ? 奴は次にどういう手を打つ? 敵の打った手はどれもばらばらで、何が目的であるのかよくわからない」

 ケインの疑問は当然である。ヒーローの評判を傷付けたいのか、それが失敗したから行き当たりばったり――あるいはそもそも計画済み――でマンハッタンを攻撃させたのか、あるいはそれ以外の何か目的があるのか。

 アッティラはふと、恐ろしい考えが浮かんだ。彼はホームベースの一室で待機――あるいは実質的な軟禁――させているあの青年の事を考えた。今回のオサダゴワー襲撃がもし…。

 彼はその考えを胸に仕舞った。他のあらゆる事も現在のところ推測ばかりだが、しかしその『恐ろしい考え』はあまりにも証拠不十分で、なおかつ恣意的であった。

 アパッチ及びナバホの民に伝わるとある神話時代の大英雄を登場させるために色々足りない要素があるので既存の話にも手を加える予定。

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