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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
110/302

MR.GRAY:THE KNIGHT OF MODERN ERA#7

 乱入者が相次ぎ戦況はわざとらしい膠着状態を迎えた。そして遂にかの伝説的な王が姿を現してモードレッドと対峙したが、何やら彼らの知らない思惑が蠢いていた。

登場人物

モードレッド陣営

―Mr.グレイ/モードレッド…アーサー王に叛逆した息子、〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングス

―インドラジット…かつて偉大な英雄達と戦って討たれたランカ島の王子。

―名も無きグレート・ジンバブエの王…かつて栄えた謎の王国に君臨した美しき謎の王。


アーサー陣営

―アーサー…素晴らしい王国を打ち立てたブリテンの伝説的な英雄にしてモードレッドの父親、〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングス

―チャンガマイア・ドンボ…ジンバブエの覇王として名を馳せたショナ人。

―オラニアン…若く美しいヨルバの偉大なる王。

―アッティラ…かつてヨーロッパを席捲した勇猛果敢にして優秀な破壊的征服者。

―アブー・アル=アッバース・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アッ=サッファー…強大な帝国を打ち立てた古きカリフ。



ホームベース襲撃から四五分後:茶色い位相


「石の家だと? 覇王よ、お前の同郷の者か?」と爆炎の中で外套を翻しながら神の災いは質問した。紫色の焔として顕現するこのフン王は、咄嗟に有機物じみた美しい剣を振るい、馬上から鞭のごとく振るわれたそれは放たれた光条の内、己らに害を成すものを選別して斬り伏せた。

 ジンバブエの高原にて覇を唱えた王者(マンボ)はアッティラが振るった鞭剣の冴えに暗い喜びを見出しながらも質問に答えた。

「それはまた随分漠然とした質問であって…いや、慣れぬユーモアなど挟むべきではないな。いかにもあれの事は知っておる。とは言え、俺からしても謎の時代の謎の王国に君臨した謎の王としか知らぬがな。廻れ!」

 軍用の緑色をした制服に身を包み、その上からジンバブエ風の装飾で飾ったショナ人の破壊的征服者は、例の光条を必死に避けながら次の手を打っていた。直接的な戦闘能力ではオラニアンやアッティラには及ばぬ彼にとっては少し荷が重かったが、それでも超人的な身体能力で爆ぜる地面を蹴って範囲外へと逃れ続けつつ質問には答えた。

 アフリカでは口伝が主であるもののグレート・ジンバブエと後に呼ばれるようになった王国については伝承が途絶えているらしく、あの自称グレート・ジンバブエの王が詳細を覚えていないのであればそれを解明する事は困難であるように思われた――そしてそれはそれとして破壊者達(ロズワイ)の王の合図に答えるかのように金属の鳥が五羽現れた。

「無駄な事を!」と美しいショナ人の青年は叫び、裸足でこの荒涼たる大地に立つ無名の王は懐から輝く金属のゴングを取り出し、それをぞんざいに投げた。するうちそれは莫迦げたプロセスを経て狂ったかのごとく巨大化し、成人の背丈程の大きさとなったそれは神秘的な様子で宙に浮かんだ。

 唐突にそれが鳴らされると、そこから放たれた指向性の魔術的な音波が前方へと殺到し、それは空間ごと爆撃するかのようにして一帯を吹き飛ばした。ありえない程の凄まじい轟音と大地が弾ける悲鳴とが鳴り響き、噴煙と爆風がそこら中を満たした。

 だが敵の前衛を務めるナイジェリアの美少年の巨躯は微塵も揺るがず、その衣服のみが突風で激しく揺らされたのみであった。その背後に控えていたアッティラが化け物じみた己の美しい愛剣によって己ら――及び空中に現れたドンボのヘリ――へと迫った爆風を切り裂いて無力化した。

 鮮やかな紅色の焔として顕現するドンボは鼻を鳴らし、攻撃ヘリの部隊に攻撃を命じた。乗員がおらず紅色の焔で機体全体を覆われたそれらのヘリは機種のターレットに搭載されたミニガンから猛烈な勢いで掃射を放ち、インドラジットは名も無きグレート・ジンバブエの王へと向けられたそれら無数の弾丸を神々から賜った尋常ならざる矢で須らく射落とした。

 状況を気合いで飲み込んだMr.グレイはインドラジットにジンバブエ王の援護及び後衛を頼み、ジンバブエ王には引き続き敵後衛達への制圧射撃を指示し、そして彼らを己の左斜め後方へと移動させた――幸いな事に美しい名も無き青年は己の役割を理解しているらしく、〈強制力〉(ギアス)に文句を言わなかった。

 ナイジェリアの少年王は状況を打破するため強行突入を敢行し、八〇ヤード程度はあった両陣営の距離を一跨ぎにして突撃して来た。その圧倒的な突進力は踏み荒らされた大地を更に粉砕するがごとき勢いをもってして迫り、一迅の風として迫った長身の美少年は剣戟の嵐を放たんとして先頭のモードレッドに迫った。

 陣頭指揮を取るブリテンの王子はあの美少年の攻撃を受け止められるのは己のみであると知っており、それ故彼は陣営のリーダーでありながらも真っ向からオラニアンを迎え討った。

 名も無きジンバブエ王は既に磁器片らしき物体を己の周囲へと展開し、その力によってか宙へと浮いていた――正真正銘の全力ではないが恐るべきオラニアンの斬撃を捌きながら徐々に後退しつつあるモードレッドは、回避及び反撃技のために一回転した際に背後の様子をちらりと見ており、名も無きグレート・ジンバブエの王が飛行できる事に着目した。

 インドラジットも飛行できないわけではないだろうから、今後もしかするとそれで有利に立てる可能性もあった。彼らは一旦〈授権〉(オーソライゼイション)の実行を取りやめ、己らの技を繰り出し合ったが、オラニアンは戦いを一気に終わらせられる〈授権〉(オーソライゼイション)が発動させてもらえぬ事を疎みながら更なる殺気を放ち、一方でアッティラとアッ=サッファーは焔そのものである顔で何やらほくそ笑んでいた。


 破壊的征服者と馬を並べるアッ=サッファーは絶大な権力と己の信仰心とをもってして異郷の王が放つ攻撃に対抗した。生前において彼の称号(ラカブ)は彼の在り方を表していたが、後にその名は血を注ぐ者(アッ=サッファー)として畏怖された。

 彼程の信仰者ともなれば有害な魔術を跳ね除ける事も可能でありるものの、古くはソロモン王の時代にも遡る魔術的実践はイスラーム圏に受け継がれ、彼らはやがてジンの力を借りる魔術や信仰による強さを体現させる魔術を中心として発展させていった。

 アッ=サッファーもまた己の得た権力を基盤に、信仰そのものを武器とする事で偉業を達成させたが、それらの歴史は影に隠されていたらしかった。特に近年のイスラーム圏では魔術が以前以上に隠され、そして一般的な知識人達や神学者達はそれらを疎んでいる。支配者達が用いたのは魔術ではないが。

 そのためかの地の魔術師達はあまり『魔術師にとっての表社会』にさえ出て来ないある種の鎖国状態にあったが、それでもそれらの命脈は今なお受け継がれ、優れた技術が編纂されて記録され続けていた。

 だが特に戒律が厳しい地域では魔術の存在は公には認められず、別の名称で取り扱われていた。そして歴代のカリフやスルターンがそうした力を使えたという記録は『どこにも存在せず』、それらは純粋な信仰心に対するアッラーからの恩寵であると解釈されていた。それに異を唱える事はすなわち異端そのものであり、その意味は明白であった。

 ともあれアッ=サッファーが己の内に秘める想いを強く念じれば大地を焼き払う光の洪水でさえ捻じ曲げられ、行き場を喪って上空で勢いを殺されていた。実際にはこれは魔力という『異次元の法則を己の今いる次元に適用する際に使用するエネルギー』ではなく、権力という別種のエネルギーであった。

 そしてそれらの対処し易くなった攻撃を神の災いと謳われたアッティラの伸ばした鞭剣が斬り裂いて殺し、その圧倒的な対空防衛網によって彼らは安全であったが、しかし両陣営共にそれ程本気ではないため、そこから反撃するわけでもなかった。

 勇むドンボは対空防衛網の外へコブラを一機出して先行させ、それが放つ機銃とロケットがゴングへと迫ったが、ゴングの放つ音波によってそれらは吹き飛ばされ、そしてヘリ自体もガラスが割れて風圧がコントロールを奪い、不安定な様子で回転しながらドンボの方へと落下して来た。

 回転するローターが地面を削って土や岩の破片を弾丸のごとく撒き散らし、ドンボがそれをジャンプして躱すと、彼の下を通り過ぎたヘリは少ししてから爆発した。爆風で衣服を激しく揺さぶられた高原の覇王は着地態勢のままそれでも笑っていたが、〈授権〉(オーソライゼイション)も無ければ裏の掻き合いすら無いこの茶番じみたお遊戯会に少々飽きていた。

 ドンボはこの戦いのルールを知っており、それ故アッティラとアッ=サッファーの様子を訝しんだ。アッティラは彼に戦い以外の場所における駆け引きもまた破壊の面白い側面の一つだと教えてくれたが、しかし彼の持つ本性故か権謀術数渦巻く戦いの空気にならない限りはそれらを発揮できなかった。

 だがそこで、青天の霹靂とも言うべき何かが天から落下し、モードレッドとオラニアンの頭上から落下したそれはその衝撃によって両者を引き離すがごとく吹き飛ばした。


 突然の衝撃は大爆発を起こした隕石の落下のごとき凄まじさであり、卿は己らのような頑強な肉体を持つ者達でもなければ肉片すら残さず霧散していただろうと考えた。

 頭ががんがんと痛み、耳鳴りが不愉快にも脳内を蹂躙し、そして全身が鈍く痛んだ。仰向けに倒れたまま頭だけ起こすと、そこには漆黒の鎧に身を包む貴人がいた。

 ドラゴンの模様があしらわれた兜を被り、幾つかのパーツへと砕け散った破片を肉腫じみた物体によって繋ぎ止めた事で、往時の美しさを取り戻した素晴らしい剣が目を引いた。そしてその剣を地面に突き刺してその上に左手を起きながら、右手では立派な槍を掴みそれを肩に担いでいた。

 モードレッドのものと同じような意匠の鎧は脈動する肉腫じみた物体に一部が侵食されていたが、むしろそれは高度に調和が取れていた。兜の下には皺が刻まれた老人の顔が見え、老いてなお冴えたるその顔立ちは若い頃の貴公子ぶりの名残りを備えて暗く輝いていた。だがその表情は――白々しくも久方ぶりの再開に対する感慨を湛えていた。

 その顔、その表情を見た瞬間にモードレッド卿は胴に激痛が走ったかのようにぞくぞくと寒気を感じ、そしてその男と目が合った事で己の痛む肉体に喝を入れながら跳び起きた。膨れ上がる敵愾心が肉体に喝を入れたらしかった。

「お前が我が敵として立ちはだかる〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングスか、アーサーよ?」

 Mr.グレイの名でヒーロー活動をしていた矢先にこの影のゲームへと巻き込まれたモードレッドは、己の父であり不倶戴天の敵である眼前の老人に対してそのように呼び掛けた。すると相手もまた兜の内側で頭が痛んだのか、兜の上から左手を添えて心を落ち着けた。彼は己の宮廷魔術師から受けた助言通りに敵対者と対峙する際の表情を創り、それから卿の問いに冷たく答えた。

「いかにもその通りだ、叛逆者よ」

 そのようにして呼ばれた事で卿は何故か心がずきりと痛み、その正体はわからなかったが己の父も同じような表情を浮かべているように見えた。彼らは親子でありながら敵となり、そして共に果てた。武人の親子は厳粛な表情を浮かべて向かい合い、その距離はほんの一〇ヤードも無かった。

「お前は何故この地に今更姿を見せた? 卑怯者の称号を得る事を嫌ったか?」と卿は尋ねた。

「簡単な事、貴様と果たし合う前に正式な布告を実施せんがため。我、アーサーは〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングスとして将を率い、別なる〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングスであるモードレッドと剣を交える事を宣言する」

 老兵は険しい表情のまま、低いが力強い声で威厳たっぷりに言い放ち、その様子はネイバーフッズという己の卿団を率いる王子の自尊心を踏み躙り、彼は内心壮絶な劣等感に身を焦がしながらも、何でも無い風を装って巌のごとく宣戦布告を受け止めた。

「では我々は再び相まみえるわけだ。お前がそうしないのと同様、私もお前には容赦などしない。夜眠る時は後ろに気を付ける事だな」

 息子から辛辣極まる言葉のナイフを突き刺され、そして心の臓腑を抉られた事でブリテンの偉大なる王は酷くショックを受けていたが、その様子はほとんど表面には出さずに息子との仮面家族に徹した。彼らはまるで敵愾心という目に見えない生き物によって支配されているかのようでさえあった。

「まあ、貴様の非礼はどうでも構わん。これより始まるは卿道だけで説明できるものに非ず。夥しい血が理不尽に流れ、相手の騙し討ちやその対策で神経を擦り減らすのだ。だが差し当たって、今回は我が軍を引き上げさせるとする」

 老いた王がそのように言い放つと、それを後ろで我慢しながら聞いていたナイジェリアの美少年が憤慨の爆発を起こした。

「貴様の軍だと!? 私を、もう戦いにも召喚にも応じないと誓ったオラニアンを、貴様は縛り付けて戦わせているのだぞ! 貴様の〈強制力〉(ギアス)さえ無ければすぐさま――」

 美しい黒人の王は大気を粉砕するかのような大声で怒りをぶち撒け、己に理不尽な矛盾を押し付けた張本人たるアーサーに猛烈な殺意を放った。今すぐにでも距離を詰めて大嵐のごとき剣戟を放つであろう。

「黙れ、オラニアン」

 だがどうしたものであろうか――ただの一声、アーサーが厳粛に呟いただけで嵐のごとき斬撃を放つヨルバ人の伝説的な王は黙らされてしまい、後に残るはその長身の美少年が見せる激怒の表情のみであった。

 茶色い空の下でそれらの様を見物していたドンボはこれからもっと楽しくなるであろう事を思って暗い情熱に浸り、アッティラはつまらなさそうな様子で馬上からそれらの様子を眺め、隣で騎乗しているアッ=サッファーはアーサーへの不愉快さを隠しもしなかった。

 伝説的なブリテン王の息子は己の父が異郷の王に厳然たる様で命令を下す様を見て言いようのない怖さを覚え、己のよく知るアーサー王像そのものを垣間見たような気がした。

 だが紫色の焔として燃え盛るフンの破壊的征服者はどうでもよさそうに質問をした。

「そう言えば先程〈授権〉(オーソライゼイション)の許可を出さなかったが、何故数の有利で奴らを踏み潰さない?」

 それに対してアーサー王は振り向きもせずに答えた。

〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングスがそう望んだからだ」

「ふん、どうせ非合理的な理由だろうが…お前よりも使えない奴に仕えた事もあったから、ひとまず保留としておこう」

 骨の黒馬の上で腕を組み、少し伸ばした神聖なる鞭剣を地面に突き刺して待機しているアッティラは酷く挑発的な態度を取り、そして己の陣営のリーダーを鼻で笑った。その不遜さは老いてより頑固になったアーサーを苛立たせ、肩越しに振り向いたブリテン王は漆黒の兜から鋭い眼光を覗かせた。

 その視線に射抜かれたアッティラではあったが、これまでのゲームで数多の覇王や暴君と対峙し、そして全力で互いの裏を掻きながら破壊し合ってきたこの破壊的征服者はその程度の威圧など風を受け流すがごとく無視しつつ、内心を隠しながらとどめの一言を放った。

「ではさっさと戻るべき場所へ全員で帰らせてはどうだ? 見ろ、アッ=サッファーは退屈しているようだが――」

「己の剣で己を傷付けろ、この野蛮な無礼者めが」

 肉腫じみた材質が点在する漆黒の鎧に身を包む霧の島国の国民的英雄は射殺すかのような声で〈強制力〉(ギアス)を行使し、そしてそれを受けたアッティラは抵抗を見せながらも神々しい剣で己の喉に当たる箇所の焔を傷付けた。

 猛獣じみた低い唸り声と共に破壊的征服者は痛みに耐えようとしていたが、内心では己の作戦が上手く行った事を楽しんでいた――お前が莫迦で助かったぞ、全ては計画通り。

「上手く行ったぞ、アル=アッバース!」と紫色に燃え盛るアッティラが擦り潰されていながらも歓喜しているかのような声で陳ずると、隣にいた偉大なるカリフもまた、それに対して荘厳な様子で同調した。

「友よ、そなたの献身に神のご厚意がありますよう」

――我は夢見る、神の御意(みこころ)がお示し下さるがまま、出自の異なる面々が一つの家族であった頃を。

 何故己の許可無く〈授権〉(オーソライゼイション)できるのか? アーサーは異常事態を悟り、〈強制力〉(ギアス)でアッバース朝初代カリフを制止しようとした。だが骨の黒馬がかの王の傍らへとひとっ飛びに降り立つと、着地時の噴煙も収まらぬ内から悍ましくも苦悶しながら愉悦を滲ませた声ですらすらと警告を発した。

「我が陣営の王よ、王や指導者達を束ねる者よ。あと一度でも我々に〈強制力〉(ギアス)を使おうなどと思うな。次の手を誤ればどうなるか、冷静に考える事だな」

「何…?」とアーサーは眉を潜めたが、この男がまだ己に話していないルールがあるらしき事を悟る事はできた。それが単なる虚言か、それとも真であるかは判断できかねたが、自信のある様子を見ると不用意には動けなかった。

 それら仲間割れじみた様子をモードレッドらは固唾を飲んで見守っていた――彼らの陣営が不意打ちをする面子であればアッティラらの計画も少々拗れるが、しかし破壊的征服者とその友人はそうでない事を今までの観察から確信しており、それ故予定通りに叛逆の一端を見せるに至った。

――全ては瓦解し、遠き日の夢に浸りながら私は朦朧とするのみ。もし寛大にして能わぬ事無きあなた様がお望みなれば、今一度かつての我らとして在りましょう。

 アッティラは元に戻り始めている声で今度は嘲りを隠し、堂々たる様子でアーサーを諫言した。

「私とアッ=サッファーはティア1、ティア1に対しお前は〈強制力〉(ギアス)を続けて二度使った。使える回数に限りがある事を、お前には教えていなかっただけの話」

 迂闊な手が取れないアーサーは相手の言葉を試すわけにもいかず、ただ睨め付ける他無かった。老兵がアッティラの言葉の真偽を判断しかねている間に、無情にも偉大なる建国者は〈授権〉(オーソライゼイション)を完了させた。

「ティア1は同じ陣営のティア1に対し、独自に〈授権〉(オーソライゼイション)を発動させてやる事が可能なのだ。ではカリフがかつての姿になる瞬間を驚嘆と共に見物するがよい」

 モードレッド陣営は話の流れが掴めず混乱しており、アッティラが何故ああも事情を知っているのかと疑う他無かった――卿が知らない情報が多くあり、彼はまたも酷い疎外感に襲われて置いてきぼりにされたかのような気分を味わった。しかしティア1とやらが何やら特権を持っている事だけは理解できた。

 黄金の焔として顕現していたアッバース朝の創始者は馬上にて詠唱を済ませ、全てを覆い尽くさんとして黄金の輝きが茶色い位相の半径一〇マイルに渡って拡散した。

〈刮目するがよい、(ビホールド・ライズ・)アッバース革命(オブ・ザ・)の擡頭せしを〉アッバーシド・レボリューション

 まだ晴れぬ黄金のカーテンの向こう側では騎乗した雲の上の人の顔がちらりと見え、その周囲にはかつての臣下達が集っているのが朧気に見えたが、あまりの眩さ故に卿は暫し直視する事ができなかった。

 元々の予定ではグレート・ジンバブエ王vsイレ=イフェ王による辛辣な争い、及び某やたら有名なクルド騎士王vs偉大なるカリフによる『同じアラブ騎士道文化の影響下にある名君達でありながらどうしても相容れない2人』という2つの対立軸を単にやりたかっただけだが、FGOで円卓のメンバー達を見ていると予定が狂ってしまった。

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