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第21話 激闘! 橋の上のクイズ大会

 王都へ向かう街道の難所、大渓谷にかかる石橋。

 その橋は今、真ん中からV字に折れ曲がり、物理的に通行止めとなっていた。


 その前で、私たち一行(国王陛下含む)は呆然と立ち尽くしている。


『さあ、第1問! デデン!』


 橋の石畳がモゴモゴと動き、巨大な顔を作って陽気な声を上げた。


『「朝は4本足、昼は2本足、夕方は3本足」。これなーんだ?』


 古典的ななぞなぞだ。これには、隣にいた国王陛下が自信満々に進み出た。


「ふっ、愚問だな。答えは『人間』だ。赤子の時は這い、成長して二足歩行となり、老いては杖をつくからだ」


 陛下がドヤ顔で答える。  しかし、橋は鼻で笑った。


『ブブーッ! 不正解!』


「な、なに!? では答えは何だ!」


『正解は……「筋肉痛のゴリラ」でしたー! 朝は元気だから四足歩行、昼は調子乗って二足、夕方は疲れて杖つくのよ!』


「理不尽な!!」


 陛下が膝から崩れ落ちた。どうやらこの橋、性格が相当ひねくれている。


『次! 不正解ならこのまま一生通さないからね! 第2問!』


 橋がジークハルト様を睨んだ。


『「パンはパンでも、食べられないパン」はなーんだ?』


 これまた古典的だ。普通なら「フライパン」だが、さっきのゴリラの件がある。


 ジークハルト様は腕を組み、眉間に深い皺を寄せて沈思黙考した。  


 その殺気立ったオーラに、周囲の空気が張り詰める。


「……答えは」


 彼が魔剣の柄に手をかけ、低い声で告げた。


「……『貴様』だ」


『ヒェッ!?』


「……貴様を斬れば、ただのパンくず(瓦礫)になる。……食べられん」


『正解ですぅぅぅぅ!! 通りたければ通ってくださいぃぃぃ!』


 橋がガタガタと震えながら水平に戻った。  


 暴力(の気配)による完全勝利である。


「じ、ジークハルトよ……。なぞなぞとは、そういうものではない気がするが……」


 陛下が青ざめているが、ジークハルト様は「通れればいい」と涼しい顔をしている。


『補足するぜ! ご主人様、「フライパン」って答えようとしたけど、恥ずかしくて言えなかったからキレただけだぜ! コミュ障の極み!』


 グラムの解説を聞き流し、私たちは橋を渡ろうとした。  


 しかし、私が橋の真ん中――さっきまで顔があった部分に差し掛かった時、またしても声が聞こえてきた。


『……ちぇっ。つまんねーの。もっと構ってほしかったなー』


 拗ねた子供のような声。  私は足を止めた。  


  この橋は、何百年もここで人を通し続けてきた。けれど、誰一人として橋に感謝したり、遊んでくれたりする人はいなかったのだろう。


「橋さん」


 私がしゃがみ込み、石畳を撫でると、橋がビクッと反応した。


『な、なんだよ。通してやっただろ』


「なぞなぞ、楽しかったですよ。ゴリラの発想は私にはありませんでした」


『へ、へへん! だろ? 俺のオリジナルだしな!』


 橋がまんざらでもなさそうに照れている。


「毎日、重い荷物を支えてくれてありがとうございます。おかげで、王都への旅が続けられます」


 私が魔力を流しながらお礼を言うと、橋全体がボウッと淡い光を放ち始めた。長年の疲れや風化による痛みが、私の魔力で癒やされていく。


『……あぁ〜、効くぅ〜。あんた、いい手してんなぁ』 『おい橋! そこ代われ!』


 馬車が嫉妬の声を上げる中、橋はすっかり上機嫌になった。


『気に入った! あんたたちには、俺のとっておきの近道を教えてやるよ!』


「近道、ですか?」


『おうよ! この先を右に曲がると、古い獣道がある。そこを行けば、関所を一つパスできるぜ!』


 なんと、ボーナス特典がついた。  レイモンド様の手がかかった関所を避けられるのは大きい。


「ありがとうございます! 助かります!」


 私が笑顔でお礼を言うと、橋は『へへっ、また来いよな! 次はもっと難しい問題用意しとくからよ!』と、手を振るように欄干を揺らして見送ってくれた。


 ◇


 再び馬車に乗り込み、爆走の旅が再開された。  


 橋が教えてくれた近道は、人目に付かない古い獣道だった。舗装こそされていないが、森の中を突っ切る最短ルートだ。


 『ヒャッハー! オフロードだぜ! 大自然を感じるぜ!』


 馬車が木の根や小石をスプリング代わりにして、狂喜乱舞で突っ込む。


「ぐわあああ! 揺れる! 舌を噛む! 余は王だぞ、もう少し優雅に……!」


 道自体は悪くない。ただ、速度がおかしいだけだ。  


 陛下が天井と床にボールのように弾かれる中、ジークハルト様は私の腰を片腕でガッチリと抱き寄せ、不動の姿勢を保っていた。  


 衝撃吸収のクッションも真っ青の安定感だ。


「……揺れるな。掴まっていろ」


「はい、あなた」


 私の周りだけ、まるで無重力空間のように平穏だ。陛下の悲鳴と、馬車の雄叫びがBGMのように流れていく。


 そんなカオスな状況を経て、ようやく平坦な街道に復帰した時のことだ。


 ボロボロになった陛下が、髪を直しながら感心したように私を見ていた。


「……すごいな。暴力でねじ伏せるジークハルトと、対話で味方につけるコーデリア。それに……どんな状況でも二人だけの世界を作れる胆力……。そなたら、最強の夫婦ではないか」


「ふふ、恐れ入ります」


 私が微笑むと、隣でジークハルト様がそっぽを向いた。


「……最強の、夫婦」


『翻訳! 「陛下からお墨付きをもらった! 最強の夫婦! 今の言葉、録音しておけばよかった! 家宝にする!」……だそうです! ご主人様、ニヤけ顔を隠すのに必死です!』


 こうして、私たちは橋が教えてくれた近道を使い、さらにスピードアップして王都を目指した。


 次の難関は、幽霊が出ると噂の「宿場町」。もちろん、普通の幽霊が出るはずがないのだが。

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橋さんちょっとかわいい
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