迷探偵スカーレットと参謀三号 2
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「それでスカーレット、調査とはどうするつもりなんだい?」
理事長室から出て、イザーク殿下が訊ねてきた。
本当なら一時限目と二時限目は聖女科を見学する日なのだけれど、シャルティーナ様に許可を得てイザーク殿下と共にエレン様を傷つけた人の調査をすることにしたのだ。
エレン様はわたしが聖女科にいると思っているので、普通に授業を受けていると思う。
わたしに巻き込まれたイザーク殿下が授業を受けられないのは申し訳ないけれど、もとはと言えばイザーク殿下がまいた種ともいえる。ここは諦めてもらおう。
授業中でシーンとしている廊下を歩きながら、わたしはふむと考える。
わたしたちの少し後ろを、ハルトヴィッヒ様もついて来ていて、面白そうにわたしを見ていた。
わたしは、ぽんと手を打った。
「事件が起きたらまずは足で調査しなくてはならないって、何かの本で読みました! ここは全員に、一人ずつ意見を聞きに行きましょう!」
「ちょっと待ってくれスカーレット、それはちょっと違うと思う」
せっかく名案を閃いたと思ったのに、すぐにイザーク殿下から待ったがかかった。
……む。だって、本に書いてあったよ。何の本だったかは覚えてないけど!
最近読んだ、子供向けの小説だっただろうか。それとも……うん、野菜の育て方の本に書いてあったとは思えないからやっぱり小説だろう。
ちなみに野菜の育て方の本は、王都のお邸で薬草を育てるついでにイチゴを育てようと目論んだわたしにリヒャルト様が買ってくれた本だった。
読んだ結果、薬草みたいに種をばらまいておけば勝手に生えてくるわけではなさそうだったので、わたしには難易度が高いと諦めて、イチゴを育てるのは庭師のおじちゃんにお願いすることにしたのだけど。
「スカーレット、よく考えよう。みんなに話を聞くっていうけど、なんて訊いて回るつもりでいるんだい?」
「エレン様を階段から突き落とした犯人を知りませんかって……」
「うん、絶対にやめよう!」
イザーク殿下が額に手を当てて嘆息した。
「スカーレットはびっくりするようなことを思いつくね。そんなことをして、正直に話してくれる人がいるとは思えないし、何より、王子である僕と、叔父上の婚約者で聖女でもあるスカーレットからそんな質問をされたら、疑われていると思って怖がらせてしまうよ」
そういうものなのだろうか。
「じゃあどうするんですか?」
「え? そうだな、ここは確実に、証拠を探して……」
「階段から突き落とした犯人は、どんな証拠を残していくんですか?」
「……確かに」
ちょっと、この参謀ダメダメです。
わたしでも思いつくのに、大丈夫でしょうか?
やっぱり参謀はベティーナさんとアルムさんでないとダメみたいですけど……無理だし、むぅ。
「怪盗は壁に『怪盗参上!』って証拠を残していきますけど、エレン様を突き落とした犯人は証拠なんて残してくれませんよ」
「スカーレット、いったい何の本を読んだの?」
すると、成り行きを見守っていたハルトヴィッヒ様が、くつくつと笑いながら口を挟んだ。
「もしかして、最近子供に人気が出ている『仮面怪盗ジャック』じゃないでしょうか」
「あ、そうですそれです! 三巻はとてもいいところで終わって、早く四巻が出ないか待っているんですけど、いつ出ますかね?」
三巻では怪盗がお姫様を攫うところで終わっているのだ。すごくいいところで「つづく」と書いてあったのである。早く続きが読みたい!
「叔父上は、君に子供向けの小説を渡しているのか……」
「いえ、最初は分厚いやつをくれたんですけど、字が小さいし難しくて読むのが嫌になったら、これなら読みやすいだろうって買ってくれました!」
「……そう」
イザーク殿下が困ったような顔をして、ハルトヴィッヒ様はわたしの説明を聞いてまた笑い出す。
「ともかく、スカーレット。一人一人に聞いて回るのは、あまり賛成しない」
「じゃあ、どうするんですか?」
「そうだな……」
イザーク殿下が腕を組んで眉を寄せる。
……この参謀、頼りないですよ。ベティーナさんならすぐに答えをくれるのに。
考えることが苦手な自分自身をぺいって棚の上に上げて、わたしは失礼なことを思った。だって、イザーク殿下はエレン様のことに関してはダメダメなので、挽回すべくカッコよく頑張ってほしい。そうしなければきっと、エレン様に「さようなら」されちゃうよ!
「エレンのあとをこっそりつけていって、現行犯で捕まえるとか……」
「そんなことをすればエレン様がまた怪我をするじゃないですか。却下です! 二点減点ですよ、あと減点一点で参謀の地位を剥奪します! ぶぶーっ!」
「ええっ⁉」
「スカーレット様はイザーク殿下に厳しいですね」
「本当だよ、僕、スカーレットに何かした?」
「エレン様に悲しい顔をさせたイザーク殿下に、わたしはとっても怒っているんですっ」
すると、イザーク殿下が驚いたように目を丸くした。
「エレンが悲しい顔をしていただって?」
「そうですよ。とっても悲しそうでした!」
「そんな馬鹿な。エレンはいつもすました顔をしているじゃないか」
「……殿下って、わたしよりとっても賢いと思っていましたけど、もしかしてわたしよりおバカさんですか? エレン様は人間ですよ。なんでいっつもそんなお人形みたいな顔をしていると思っているんですか」
いつも同じように澄ました顔をしている人間なんているはずがない。イザーク殿下はかなり頓珍漢だ。
「んんっ! スカーレット様、さすがに不敬ですので、少しはオブラートに包んでください」
……は! そうだった! イザーク殿下は王太子殿下だったよ!
むかむかしていたからつい失礼なことを言ったけど、これはまずいやつだろうか。あとあと国王陛下にばれて怒られない?
だけど、言われた本人は怒っている様子ではない。ただ、ショックを受けた顔をしているから、エレン様のことを本気で人形だと思っていたのだろうか。
……本当に大丈夫なのかな殿下って。
いろいろ心配だよ。わたしに心配なんてされたくないかもしれないけど。
「じゃあ……どうしよっか」
「それを考えるのが参謀の仕事です」
「いやいや、スカーレットも考えようよ」
そうはいっても、さっきのわたしの意見は瞬殺だったじゃないですか。
それから、わたしが物事を考えるとおかしな方向に進むと言う定評があるので(主に、リヒャルト様やヴァイアーライヒ公爵邸の皆様に)、難しい問題をわたしに考えさせるのはおすすめできません。
二人そろって、「うーん」と首をひねっていると、見かねたハルトヴィッヒ様が助言をくれた。
「お二人とも、まずは教師を当たってみてはどうですか? 彼らならいくつか情報を持っているでしょうし。それから、殿下のエレン様の様子を見守ると言うのは悪くないと思います。もちろん、エレン様が怪我をなさる前に止める必要はありますが、階段から突き落とされる以外にも、恐らく何らかの被害を受けていると思われるので」
「なるほど!」
参謀はこっちだったかもしれない。失敗したよ。ハルトヴィッヒ様を参謀三号にすればよかった。
……よし、裏の参謀三号とお呼びしよう。
表の参謀三号イザーク殿下は頼りないもんね。
イザーク殿下が、真面目な顔で大きく頷いた。
「よし、教師たちから情報を集めよう。……あ、スカーレットは、何もしなくていいからね」
……いやです。
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帯でも紹介いただいていますが、コミカライズも進行中です!
どうぞよろしくお願いいたします(*^^*)
タイトル:家族と移住した先で隠しキャラ拾いました(2)もふもふ王子との結婚
出版社:スクウェア・エニックス (SQEXノベル)
発売日 : 2025/12/5
ISBN-10 : 4301002170
ISBN-13 : 978-4301002178
書籍限定エピソード
・SIDEアンネリーエ 伯爵令嬢は見た!
・SIDEマリウス 見えていなかったもの
・SIDE???
・SIDEライナルト ヴィルヘルミーネの落とし物
・番外編 カジキでどーん!









