エレン様のプライド 1
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……むーん。
「どうした、暗い顔をして」
玄関ホールでお出迎えしたわたしの顔を覗き込んで、「ただいま」を言う前にリヒャルト様が不思議そうな顔で訊ねてきた。
ジャケットをゲルルフさんに渡しながら、いつもは「ただいま」を言ったあとにすぐに着替えに二階に上がるリヒャルト様が、上体をかがめてわたしと視線を合わせる。
わたしは今日のアリセさんの話をリヒャルト様にしようとして、なんて説明していいのかわからなくなった。
娘さんを助けたいアリセさんも、わたしを守ろうとしたベティーナさんも悪くない。
でも、わたしが余計なことを言ったら、どちらかが悪いことになりそうな気がした。
「……何でもありません」
わたし自身、どうするのが正解なのかわかっていない。
この状態で感情のままに発言するのはだめだろう。
それに、わたしが何も言わなくても、ゲルルフさんかベティーナさんが今日の報告をするだろうから、そのうちリヒャルト様の耳に入る。ここは二人に任せた方がいい。
「そうか、何かあったら言いなさい。着替えてくる」
わたしの頭を軽くなでて、リヒャルト様がゲルルフさんと二階に上がる。
リヒャルト様が着替えをすませて降りてきたら夕食だから、わたしはベティーナさんと共にダイニングに向かった。
「てっきり、アリセさんに薬を渡していいかと旦那様にお訊ねになると思っていました」
椅子を引いてくれながら、ベティーナさんが微苦笑を浮かべる。
「それが正解かどうか、わたしにはまだわからないので……」
正解だって自信が持てるなら、わたしもリヒャルト様に相談したと思う。でも自信がないから安易なことは言えない。
「現在、旦那様が主導となって旧王宮を聖女様の仕事場として整えております。聖女様が神殿の外でも働けるようになりましたら状況も変わってくるはずです」
「そうですね」
それもあるから、ベティーナさんはアリセさんの要望を断ったんだろうな。
もうすぐ旧王宮の改装が終わると聞いている。
そこで働く聖女をどう集めるかの問題はあるけど、シャルティーナ様の働きかけで、貴族出身の聖女が数人協力してくれることになったそうだ。
貴族出身の聖女はすぐに嫁ぎ先が決まるから、神殿で働く期間も短い。もともと貴族出身の聖女は神殿で生活せずに通いだ。そのため、神殿にそれほど漬かっているわけではないので、神殿外で働くことへの抵抗はそれほどないのだそうである。
とはいえ、皆様貴族のご婦人方なので、暇があるときにお手伝い程度に来てくれるだけだと言っていた。
聖女は下級貴族出身であってもいいところにお嫁にもらわれることがほとんどなので、皆様生活には困っていないからである。
シャルティーナ様は貴族の聖女が長時間いたら神殿出身の聖女が働きにくくなるだろうから、お手伝い程度が逆にちょうどいいだろうとも言っていた。まあ確かに、貴族のご婦人たちが近くにいたら緊張するもんね。
お手伝いでも貴族の聖女がお仕事をしてくれることになったおかげで、神殿の聖女に声をかける前にはじめられそうなんだよね。
特に今は神殿の聖女がストライキというものを起こしているので、可能な限り早めに聖女の仕事場を稼働させたいんだって。
……だから、アリセさんもそこを通してお薬が買えるかもしれない。
リヒャルト様は、神殿を通して販売される聖女の薬より価格を落とすと言っていた。だったら、アリセさんの手持ちでも購入可能かもしれないもんね。
「というか、聖女たちのストライキはまだ終わらないんですね」
「ええ、そのようですわね」
神殿の情報は手に入りにくいから、詳細まではリヒャルト様もわかっていないらしい。
だが、聖女たちが神殿に対して何らかの不満を抱えているのは間違いなさそうだから、引き続き調査中なんだって!
……わたしの意見はあまり役に立たなかったみたいだね。
聖女仲間の顔を思い出して、どうしてストライキなんか起こしたのかなあと考えていると、リヒャルト様がダイニングに入って来た。
ゲルルフさんからアリセさんのことを聞いたんだと思う。困ったような微笑を浮かべていた。
だけど、何も言わない。
わたしが「何でもない」って言ったからかな。わたしの中で消化できるまで待ってくれるんだろう。
リヒャルト様が席に着くと、夕食が運ばれて来た。
アリセさんのことはいったん頭の端の方に保管しておいて、わたしはリヒャルト様と他愛ない話をする。
……さっきまでもやっとしてたけど、リヒャルト様とおしゃべりすると気が晴れていくね。不思議!
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