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【web版】最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる  作者: えぞぎんぎつね
3章

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95 温泉好きの獣たち

前話のあらすじ:村長から村のことを聞いた

 村長宅から衛兵小屋に帰ったとき、クルスたちは食堂にいた。

 みんなをみてシギショアラが羽をバタバタさせる。


「りゃー」

「おかえりなさい! 村長なんて言ってました?」

「居ていいって」

「そうですかー」

「それで少しお話があるのだけど……」


 俺は村長に勇者パーティーについて話したことを報告する。

 村の事情も説明した。


 それを聞いていたルカが言う。


「まあ、いいけど。今度から、正体をばらすときは相談してからにしなさいよね」

「はい。ごめんなさい」

「アルさんがいいと思ったのならぼくはまったくかまいません」


 そしてクルスは身を乗り出す。


「それより、ダンジョンの方はどうでしたか? まだお話聞いてませんよ!」

「ルカに聞いてないの?」

「はい。アルさんに直接聞こうと思って」

「そうか」


 俺はクルスに説明する。

 クルスは石蛇ストーンナーガよりがれき除去と壁の補強に興味を示した。


「さすが、アルさんです! それにヴィヴィちゃんもやりますね」

「当然なのじゃ」


 石蛇ならば、クルスは自分で倒せる。だががれきの除去や壁の補強はクルスにはできない。

 だからそちらのほうがすごいと思ったのだろう。


 その時ミレットが食堂に来て言った。


「夕食まで、まだ少しかかりますから先にお風呂入っちゃってください」

「そうだな。お風呂入るか―」


 最近は涼しい日が多くなってきた。あったかい温泉が非常に心地よい。


 俺はフェム、モーフィにシギと一緒に温泉に入った。

 シギは湯船に入って、羽をバタバタさせる。 


「りゃりゃありゃ」

「シギは温泉好きなんだな」

「りゃあ」


 シギはお湯の中にもぐったり、泳いだりして遊んでいる。

 フェムとモーフィがよく泳いでいるから覚えたのかもしれない。


 俺はシギを抱きかかえた。

 あったかい。ちなみに温泉に入ってなくてもいつもシギはあったかいのだ。


「シギって、卵から生まれて爬虫類っぽい感じなのに、あったかいよな」

「りゃあ?」

『爬虫類より鳥類に近いのだな?』

「わからないけど。恒温動物みたいだな」

「わふ」「もう」


 フェムとモーフィが、俺が抱きかかえたシギの匂いをふんふんと嗅いでいた。


 風呂から出ると、クルスが今まさにお風呂に入ろうとしていた。

 ユリーナも帰宅したようだ。クルスと手をつないでいる。


「あっ! 出ちゃったんですか!」

「おお、出たぞ」

「アルさんと一緒に入りたかったのにー」

「なにいってるのだわ! 嫁入り前の娘が」

「えー」


 クルスは頬を膨らませるが、ユリーナが全面的に正しい。

 クルスは俺が抱きかかえているシギを撫でる。


「アルさんが無理なら、シギちゃん、一緒に入ろう」

「りゃ?」

「シギはお風呂に入ったばっかりだぞ」

「えー」

「りゃっ」


 シギがクルスの胸元に向かって、ぴょんと跳ぶ。

 クルスは目を輝かせた。


「一緒に入ってくれるの?」

「りゃあ」

「シギ、お風呂まだ入りたいの?」

「りゃあ」


 シギは本当にお風呂が好きなようだ。

 クルスとユリーナはシギを連れてお風呂に向かった。

 なぜかフェムとモーフィまで、再びお風呂に向かっていった。


 うちの獣たちはお風呂が好きすぎると思う。


 少し呆れて、その後姿をみていると、ルカが来た。


「寂しいんでしょ?」

「いや、そうでもないぞ」


 ずっと俺から離れなかったシギも少しずつ成長しているのだ。

 寂しいというよりも嬉しいと感じた。


 俺の姿が見えなくても大丈夫になったのだ。クルスたちのことも信頼したのだろう。

 それも嬉しい。


「そう。それならよかったわ」


 そう言い残して、ルカもお風呂へ入りに行った。



◇◇◇

 夕食が終わった後。食堂でみんながくつろいでいるとクルスが言う。


「フェムちゃんたちは。お湯飲むのが大好きなんですね」

「温泉には魔力が含まれてるからな」


 俺と入っている時もよく飲んでいる。

 魔獣は魔力を糧にできるので、ムルグ村の温泉はうまいらしい。


「フェムちゃんもモーフィちゃんも、シギちゃんも、がぶがぶ飲んでました」

「へー」


 普段はがぶがぶというほどは飲んでない。

 俺はフェムたちを見た。


「……」「……も」「りゃあ」


 フェムは目をそらしていた。モーフィは首をかしげている。

 シギは無邪気に羽をバタバタさせていた。


 おっさん近くのお湯より、少女周りのお湯が好きなのだろうか。

 いやらしい獣たちである。


「クルスの周りのお湯が美味しいみたいなのだわ」

「そうなの?」

『うまい』「りゃりゃありゃあ」


 久しぶりのモーフィからの念話だ。うまいらしい。

 シギも肯定するかのように鳴いている。


「フェムは?」

『……知らないのだ』


 フェムにとっては、クルスの周りのお湯がうまいと感じていることは、恥ずかしいことらしい。

 フェムの恥ずかしがる基準がよくわからない。


 俺に抱っこされていたシギをルカが抱き上げる。

 シギも嬉しそうにルカの胸に頭をこすりつける。


「りゃあ」

「シギちゃんは可愛いわね。ちゃんと抱かせてくれるようになったし」

「シギの成長は早いのだよ」


 俺は気になっていたことを聞いてみる。


「ところで、ルカ。シギって恒温動物なの?」

「どうやらそのようね。ちなみに古代竜エンシェントドラゴンにまつわる新事実よ。ひなの間だけ恒温なのか、成竜になっても恒温動物なのかはわからないけど」

「へー」

「学会に発表しようとは思っているのだけど、シギが狙われている以上、あまり目立ちたくないのよね」

「まあ、いつ発表するかはルカに任せる」

「ありがと」


 シギを撫でながら、ルカはユリーナに言う。


「今日の事件なのだけど、さすがに見逃せないわ。王都付近でも事件を起こし始めたし」

「そうね」

「ユリーナの方でも調べて欲しいのだけど」

「わかったのだわ。調べさせるわ」

「お願い」

「構わないわ。調べるのは私ではないのだし」


 ユリーナは聖女だ。教会にかなりの影響力がある。

 教会は独自の情報網を持っている。

 信者の数が多く、各国各都市に支部があるので、その情報力は冒険者ギルドに匹敵する。


 冒険者ギルドと教会が情報収集に動いてくれるなら心強い。

 しばらく情報がもたらされるのを待っていればいいだろう。



◇◇◇◇


 その日の夜。

 俺は気持ちよく眠っていた。ベッドにはシギの他に、フェムとモーフィがいる。

 なぜかクルスまで潜り込んでいた。ユリーナが知ったら怒りそうだ。


 真夜中。

 クルスに抱きつかれて眠っていたフェムがびくりと動いた。

 

「フェム?」

 ――ビクビクッビクビクビク


 ものすごくびくびくしている。どうやらフェムは眠ったままの様だ。

 いや、意識がないだけかもしれない。とても不安だ。

 あまりにびくびくするので、フェム以外みんな起きた。


「フェムちゃん大丈夫?」

「もう?」「りゃ」


 クルスにモーフィとシギも心配そうだ。

 モーフィは一生懸命舐めている。


 心配で俺はフェムを優しく撫でた。

 クルスもシギも心配なのだろう。一生懸命撫でている。


「モーフィ。ルカとユリーナを呼んできてくれ」

「もう」


 モーフィがすぐに駆けて行った。


「大丈夫か。フェム。しっかりしろ」

 フェムは起きない。眠ったままびくびくしている。

 俺とクルスは、励ますようにフェムの背中を一生懸命撫でた。


 そしてフェムは輝きだした。



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