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【web版】最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる  作者: えぞぎんぎつね
10章

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354 エルケーの物流について

前話のあらすじ:次の代官は王族らしい。


2巻がGAノベルから発売中です。

 俺は少し考えて、ユリーナに言う。


「エルケーの街に物資を運ぶのを、リンミア商会に頼めないか?」

「うーん。可能だけど……時間がかかるのだわ」


 リンミア商会と言えど、長距離移動には時間がかかる。

 商品を運ぶのならなおさらだ。

 速く移動させようと思うのなら、コストがそれだけ高くなる。


「俺がモーフィに手伝ってもらって、物資を運ぶのって、どう思う?」

「いいと思います!」


 クルスは笑顔で賛成してくれた。

 だが、ルカは真面目な顔で考えている。


「アルが運ぶってことは、転移魔法陣で魔法の鞄を使うってことよね」

「そうなるな」

「そうなると、普通の商人は太刀打ちできなくなるわ」

「ふむ。それは問題だな」


 それを聞いていたヴィヴィが真面目な顔で言う。


「いまのエルケーの商人は自称魔王に上納金を払っていた商人なのじゃ。

……多少痛い目を見てもいいのではないかや?」

「それはそうなのだが……。あの状況で上納金の支払いを拒絶するのは、誇り高い立派な行為だ。

だが、命を守るために上納金を払ったとしても、責めることはできない」

「アルの言いたいことはわかるのじゃが……悪徳商人も多いのじゃ」


 ヴィヴィの言う通り、おかげで物価が高騰してしまっている。

 輸送コストを考慮しても高すぎるのは事実だ。


「物資全体が不足しているのは事実なのだわ。だからやり方さえ間違えなければ、問題ないと思うのだけど……」

「やり方が難しいわよね」


 ユリーナとルカが真面目な顔で考えている。

 改めて俺は言う。


「そこのところを、リンミア商会にうまいことやってもらえないかな?」

「一応お父さまに頼んでみるのだわ」

「資金なら俺が出そう」


 俺がそういうと、ルカが顔をしかめる。


「アルが金持ちなのは知っているけど、街の流通は個人の財産でどうにかするのは難しいわ」

「いやいや。ただで配るわけじゃない。魔法の鞄と転移魔法陣を使えば、儲けを出すのは難しくないだろう」

「それはそうなのだわ」

「まあ、儲けるのが主目的ではないから、トントンでいいんだがな」

「さっきも言ったけど、それだと商人が駆逐されてしまうのだわ」

「なるほど。儲けを出すしかないってことか」


 難しい話である。


「トルフ商会にも要請を出しておこうか」

「もし、お父さまが独占したがるようなら、あまりよくないかもなのだわ。そうなれば、トルフ商会にも要請しといたほうがいいかも知れないのだわ」

 実家の利益が減るかもしれないのに、ユリーナはそう言った。



 次の日、俺はユリーナと一緒にリンミア商会へと赴いた。

 なぜかクルスも一緒である。


「ぼくも気になりますからね!」

「クルスは領主としての勉強に余念がなくて偉いな」

「えへへー」


 ちなみに俺は狼の仮面をかぶっている。

 そして、いつものようにモーフィとフェムもついてきている。

 王都に行くと目立つとか、そういう細かいことは気にしないことにした。


 リンミア商会に到着すると、番頭が満面の笑みになった。


「狼さま。よくぞおいでくださいました。歓迎いたします。それに伯爵閣下も、ようこそおいでくださいました」

「お父さまに用があるのだけど、いるかしら?」

「今すぐお呼びいたしますので、こちらでお待ちください」


 応接室に案内された。

 お菓子やお茶が運ばれてくる。お菓子は美味しそうなクッキーだった。

 さっそくシギショアラが懐から顔を出す。


「りゃっりゃ!」

「シギちゃん、遠慮せずに食べていいのだわ」

「りゃあ?」


 シギは机の上に乗って、きょろきょろする。そして、ティースプーンに目を付けた。

 それで、クッキーを食べようとする。だがうまく行かないようだ。


「……りゃあ」

「シギ。クッキーは手で食べればいいぞ」

 そういって、俺が手でつまんでクッキーを食べて見せる。


「りゃ!」

 シギも両手でお菓子をつかんで食べ始めた。


「シギちゃんの中では、スプーンを使うのが流行っているみたいなのだわ」

「そうかもな」


 いままで何回も手でクッキーをつまんでいるところを見せている。

 それに、何回もシギ自身が手でつかんで食べていた。

 急にこだわりだしたのは、そういう流行なのかもしれない。


「フェムとモーフィも食べるといいのだわ」

「わふ」

「もっ」


 ユリーナがフェムとモーフィにもお菓子を食べさせる。

 俺はお菓子を食べるシギを優しく撫でた。


「なんかすごい歓迎されている気がする」

「勇者伯さまはお得意様なのだわ」

「そうか。さすがクルス」


 お菓子を食べながら、クルスは首を傾げた。


「ぼくよりも、アルさんが歓迎されてる気がします」

「そんなことないだろう」

「いやー、絶対アルさんの方が歓迎されてますよー」

 不思議なことをクルスは言う。


「ま、まあ、そんなことはどうでもいいのだわ!」

 なぜかユリーナは顔を赤くしている。


 俺がユリーナにどうしたのか聞こうとしたのだが、

「これはこれは、婿どの、よくぞおいでくださいました」

 ユリーナの父母がやってきた。 


「お忙しいところ申し訳ございません」

「何をおっしゃいますやら。いつでもいらしてくださって結構なんですよ」

「先日の精霊石の件、ありがとうございました」


 一応ユリーナを通じて、解決したことは報告してある。

 だが、俺もお礼を言うべきだろう。


「いえいえ、こちらとしても勉強になりました」

 ユリーナ父は機嫌がいい。


「あら、モーちゃんも来てくれたのね」

「もっもー」


 相変わらずユリーナの母はモーフィが気に入っているようだ。

 すぐに駆け寄って、撫でまくっている。


「フェムちゃんもよく来てくれたわ」

「わふ」

 フェムのことも好きらしい。


 ユリーナ母が獣たちに夢中になっているのを放置して俺は本題を切り出す。


「実は、お願いがあって参りました」

「お聞きしましょう」


 ユリーナの父は笑顔でうなずいた。

ユリーナの父母は機嫌がよいようです。

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